Twitterが考える「メディアパートナー戦略」とは–グローバル責任者・アデショラ氏に聞く

 10月初旬、Twitter本社から、メディアやパブリッシャーといったパートナーとの“コンテンツパートナーシップ”を統括する、Twitter Head of Global Content Partnerships(グローバルコンテンツパートナーシップ責任者)のTeju (TJ) Adeshola(アデショラ)氏が来日。SNSの枠を越え、ニュース記事や動画の切り抜きで世の中の“いまどうしてる?”を把握するツールとなったTwitterは、今後どのような戦略で発展していくのだろうか。

コンテンツパートナーシップのスポーツ分野からスタートし、現在は複数のカテゴリーをグローバルに統括するアデショラ氏に話を聞いた。

「自分も一ユーザー」–Twitterを訪れる人により多くの情報を

もともとスポーツ好きで、長くバスケットボールをプレーしていたというアデショラ氏。「あまりにもシュートを外しすぎて、プロでプレーするのは無理だなと気づいて、2番目に好きだったスポーツメディアに関することを仕事に選んだ」という。

スポーツ専門チャンネル「ESPN」に勤務したあと、2012年にTwitterへ入社。米国の「スポーツ」領域の担当からスタートし、その後担当分野が拡大。ユーザーにとって重要性の高い「エンターテインメント」「ニュース」「音楽」「ライフスタイル」「ゲーム」「クリエイター」が追加され、これらのグローバルのコンテンツパートナーシップをすべてアデショラ氏がリードしている状況だ。

「私の仕事の良いところは、自分のやりたいことをやりながら、それに対して報酬が支払われること。私はメディアやカルチャーがとても好きなので、例えば、なぜ今回のBTSのアルバムがものすごく売れたのか、BLACKPINKで一番人気のある曲はどれか、次のワールドカップでどの国が勝つと予想されているのか、次のブラジルの選挙で勝ちそうなのは誰か…など、自分の好奇心を常にこの仕事の中で追求できる」と、Twitter社での仕事の楽しさを語る。

「私も一般的なTwitterユーザーと何も変わらない。Twitterを訪れる方々は“いまどうしてる?”のか発見したいし、情報がたくさん欲しいと思っている。ほかの人たちが、それをTwitter上で実現できるようにお手伝いするのが私の仕事」(アデショラ氏)と説明した。

メディアパートナーに「リーチ」「売り上げ」「イノベーション」を提供

そんなアデショラ氏がTwitterで担う“コンテンツパートナーシップ”は、テレビ、動画配信、新聞、出版社などの各種メディアやパートナーがTwitter上で配信を効果的に行い、Twitterユーザーの体験をより向上させることを目的にしているという。

Twitterでは2013年、メディアなどが視聴者に周知するための最初の手段として、Twitterを選んでいると認識。そこから彼らに対して、戦略やサポートを提供するようになったという。「ツールを提供することで、彼らがビジネス上の目標を達成できるようにするだけではなく、なるべくたくさんの新しい視聴者にリーチできるような仕組みを提供すべきだと考えた」(アデショラ氏)と説明した。

最大手のメディアパートナーに対しては、グローバルで3つの柱のアプローチ戦略を取っているという。1点目の柱は「リーチ」。メディアパートナーに対して、できるだけ幅広く視聴者にリーチできるようにするものだ。

2点目は「売り上げ」。メディア企業はリソースを投資し、Twitterを配信プラットフォームとして活用する。その中でどうすれば費用対効果を得られるのかを考察し、Twitterをどのように売り上げにつなげられるかだ。

3点目が「イノベーション」で、どうすれば新機能を活用してもらえるか。例えば「Spaces(スペース)」や、すでに一部の国の有料サブスクユーザーで利用が始まっている「ツイート編集」などだ。ツイートをライブで行われているファッションショーにどのように組み込むかや、高校野球でTwitterをどのように活用できるのか。クリエイティブで革新的なTwitterの使い方を、イベントやパートナーの優先度に合わせて活用できるようサポートするという。

アデショラ氏のチームがスタートして9年が経過した2022年は、グローバルなチームとして世界中に拠点を持ち、1000以上のパートナーに対してサービスを提供しているという。「Twitterはリアルタイムで何が起きているのかを表しているが、これはTwitter上で行われている会話の結果だ。この会話は世界中のメディアによって推進されており、われわれチームの役割は、すべてのカテゴリーにおける企業が、彼らにとって最も関係性の高い情報をTwitter上で配信できるようにすることだ」(アデショラ氏)と語る。

またアデショラ氏は、Twitterを「ユーザーをカルチャーの“モーメント”により近づけるためのもの」(アデショラ氏)と説明。例えば、五輪なら金メダル獲得の瞬間をリアルタイムで捉えられ、ファッションショーなら最高の一瞬を切り取れる。自分にとって重要なニュースをリアルタイムでTwitterでチェックできることで、ユーザーの興味がある分野のトレンドや大切な瞬間を見逃さず、その瞬間を共有するのに役立つツールである、とあらためて強調した。

そのため、「ニュース」のパートナーシップに対しては特に力を発揮できるようにしていきたいと説明。「特に重要なモーメントに対して、リアルタイムでカバーできるようにしたい」(アデショラ氏)と語る。ブラジルでは地元の選挙のサポートを行ったほか、音楽フェスティバルの「Rock in Rio」のサポートも実施。英国のエリザベス女王の訃報の際は、女王について安全にツイートができるようなサポートも行ったという。「実際に現場に人を配置して、大きな事柄が起きた時にパートナーが安心してTwitterを活用できるようなサポートも提供していきたい」(アデショラ氏)と語った。

アデショラ氏が担った米国スポーツでのTwitter社の取り組み

アデショラ氏は、Twitterでスポーツ事業に関わる中で注目され、米国「スポーツビジネスジャーナル」が毎年主催する、スポーツ業界で最も優れた若い才能を表彰する制度「FORTY UNDER 40 AWARDS」(40歳以下の40人)の2020年版に選出されるなど、スポーツ業界では特に著名な人物だ。

これまでアデショラ氏がTwitter社で取り組んできた事例は数多くある。米国のNBAに対して、カスタマイズされた絵文字を提供したのもそのひとつだ。また、特に印象的だったのが3年前のアメフト、NFLのチャンピオンを決める「スーパーボウル」での取り組みだという。

「スーパーボウルでは毎年、ゲームの後にチャンピオンを発表する際、空から紙吹雪が舞う。これは本当に特別な、祝福の瞬間だ。私たちはNFLとパートナーシップを組み、その紙吹雪の瞬間を何か革新的なやり方で祝うことができないか検討した。その結果、TwitterがNFLと共に“もしあなたがスーパーボウルに行き、紙吹雪の瞬間に立ち会えるとしたら、何をツイートしますか?”と呼び掛け、その呼び掛けに対して集まった何千ものツイートを紙吹雪に印刷した。プレーヤーの方々も紙吹雪を見てどんなツイートがされていたのかを見られる、とてもクールなー瞬だった。特別な瞬間を盛り上げることができたと思う」(アデショラ氏)と回想した。

「コンフェッティ」と呼ばれる紙吹雪にファンのツイートが印刷され、スーパーボウルの特別な瞬間をともに祝った

2022年のスーパーボウルは、米国でも新しい、ロサンゼルスにあるスタジアムで開催され、勝利した直後にチームのファンのツイートをそのスタジアムの巨大なルーフ(屋根)に表示したという。

「2022年度はスタジアムの巨大なルーフにファンのツイートが表示された

また、Twitterが米国で特に優先して取り組んでいるのが、女性スポーツリーグの強化や地位向上だという。「例えばアメリカの女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)を向上させるためのサポートを多く行った。決勝の中継では、初めてTwitterのCMも放送。今後も継続してサポートしたい」(アデショラ氏)と話した。

WNBAとのパートナーシップでは、スウェットなどのグッズ制作でもユニークな取り組みを実施した。スウェットのロゴにスマートフォンのカメラをかざすと、直接Twitterに遷移するようになっており、そのスポーツのサポートを促すツイートが自動的に生成されるという。それにより、女性のスポーツの発展や性の平等を訴える活動を行っているという。

スウェットのロゴにカメラをかざすと、直接Twitterに飛んでサポートを促すツイートが自動的に生成されるユニークな取り組み

アデショラ氏によると、全体のツイート数をグローバルで見ても、スポーツについて会話は十分にされており、スポーツとツイートの親和性は非常に高いと捉えているという。スポーツ観戦はライブ感が重要なだけに、“いま”を共有できるTwitterの強さが引き立つ分野だ。Twitterが公開しているマーケティングインサイトでも、スポーツとTwitterの親和性の高さが見えてくる

日本はTwitterにとって2番目に大きな市場

アデショラ氏は、日本はTwitterにとって2番目に大きな市場とし、「まだ成長の余地がかなりある」という。この数年間かなり日本市場に力を入れており、複数のパートナーとコンテンツ契約に署名。「ABEMA」「DAZN」「朝日新聞」など、充実したコンテンツを市場に対して提供しているメディアと連携している。ツイートから見ると、人気のあるカテゴリーは「ゲーム」「スポーツ」「ファッション」「アニメ」「テレビ」で、アデショラ氏は「パートナーの方々にもクリエイティブな形で機会を獲得していただきたい」と語る。基本的な戦略は米国と同じで、革新的なリーチを高め、パートナーの売り上げにつなげることを目指すという。

なかでも日本で特に最近台頭しているトレンドは、「ゲーム」があるとのこと。ゲームは世界中でツイートされている話題の1つだが、世界で1番多いのは日本だという。「ゲーミング」「eスポーツ」などの人気が増加しており、それらに対応すべく、ゲームやゲームのパートナー、クリエイター、プラットフォームなどにフォーカスするチームを構築。「これからさらにこの領域に力を入れて、さまざまなゲームのパートナーさんと取り組んでいきたい」(アデショラ氏)と語った。

「Twitter Amplify」による広告の効率化と動画の拡充

ツイートが増える一方、Twitterはプラットフォーマーとして、メディアやパートナーから提供されるコンテンツと、スポンサーによる広告のマッチングやバランスへの工夫を続けているようだ。売り上げを促進させるためのプログラムとして「Twitter Amplify」を展開。スポンサーからの評判も上々だという。

Twitter Amplifyでは、パートナーによるツイートとともにブランドが展開していくようなスポンサーシップが可能。スポンサー側が提供先やそのタイミングを詳細に設定できるため、より効果的な広告が展開できるという。特に米国のブランドから動画の採用が増えており、アデショラ氏は「これがより成長につながると考えている」とし、動画コンテンツのスポンサーという意味でも期待ができると語る。

「私たちのプラットフォームは“今起きていること”を示しているので、カルチャーにおける主要なモーメントで特に輝きを放つ。その瞬間は日本でもたくさん起きていて、ファッションでも、エンターテインメントでも、音楽でも、スポーツでも、きらめきを得られるような瞬間はたくさん起きている。それを通じて私たちは日本においてもまだまだたくさんの機会が存在している」(アデショラ氏)

またアデショラ氏は、「Twitterのアプリを開けば、自分のタイムラインで日本における最高のパートナーが発信している情報がチェックできる――そうなるチャンスが日本にはまだまだある」という。

例えば、プロ野球の村上宗隆選手(東京ヤクルトスワローズ)が2022年のレギュラーシーズン最終戦で56号のホームランを放った際、DAZNはその瞬間にリアルタイムで動画を配信。ホームランを打った瞬間からベースを走り、チームメイトから祝われる姿なども切り取ってツイートしている。こうしたコンテンツを日本でさらに増やし、ユーザーや市場の目に留まるようにしていくという。

「DAZNは私たちのパートナーなので、彼らにツールを提供して、大きな規模で効果的にできるようにお手伝いしている。その結果、ツイート数など、どういったエンゲージメントがあったのかも把握できるようになった。さらにDAZNのコンテンツとブランドをペアリングすれば、ブランドがコンテンツをスポンサードできる」(アデショラ氏)。スポーツ中継にスポーツウェアの広告主をペアリングするなどの展開が考えられるという。

そして、この好循環の中心にあるのがユーザーのツイートと説明する。「パートナーに対してインセンティブを働かせることで、パートナーがプレミアムなコンテンツを発信し、それを通じて新しいユーザーやオーディエンスにリーチできる。発信されているコンテンツがプレミアムなコンテンツであれば、広告主の方々に関心を持っていただく機会も増える。私たちは、広告主をそのコンテンツとつなげるような仕組みも提供しており、パートナーの方々が発信する質の高いコンテンツに、広告主がサポートするという好循環がしっかりと回っていくような、エコシステムを構築している」(アデショラ氏)と解説する。「私たちのミッションは明確だ。今起きていることがTwitter上で発信されることで、パートナーの方々が利益を獲得してもらうことだ」(アデショラ氏)

今後も新機能を早いスピードで–ツイート編集やコミュニティー、ライブショッピングも

アデショラ氏に今後のTwitterが目指す姿を聞くと、「全てのTwitterユーザーが、Twitterを開いた時にパーソナライズされた体験ができるようにしていきたい」とコメント。Twitterユーザーが、自分の一番好きなコンテンツをもっと身近になるようにしたいという。

「音楽好きには音楽のコンテンツが、スポーツ好きにはスポーツのコンテンツが表示されるようにしたい。パーソナライズのチームが調整し、ユーザーの方々がTwitterを開いた時に本当に素晴らしい体験ができるようにしていきたい。また、できるだけ素早く、新しい機能や商品を開発することでイノベーションを起こしたい」(アデショラ氏)と、早いペースで新機能を開発していると説明。その一例がSpacesで、ライブのソーシャルオーディオとしてすでに世界中で使われているという。

ユーザーが自分の興味のあるテーマについて、特定のスペースを持つような「カスタムコミュニティー」を作るというアイデアも実験中だ。例えば「食べ物」「BLACKPINK」「高校野球」のように、テーマでコミュニティーを作り、そのテーマに特化した体験が実現できるようなものをテストしていると説明した。

同様に、「Live Shopping(ライブショッピング)」もテスト中。米国のTwitterでは一部のブランドで試験運用が開始しており、日本でもeBay Japanが運営するオープンマーケットプレイス「Qoo10」によるライブコマース配信のベータテスト配信が行われている。

アデショラ氏は、「ユーザーの皆さんにとってメリットをもたらせるような、新しい機能をいろいろとテストし、開発している」という。ユーザーに対して、よりカスタマイズされた“いまどうしてる?”を提供する方向に進むTwitter。アデショラ氏のチームが進めるパートナーとの連携が、Twitterでの体験をより充実したものにしてくれることを期待したい。

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