All Things OpenからFermyonTechのMatt Butcher氏のセッションを紹介

All Things Open 2022から、コンテナとKubernetesの次に来る新しいマイクロサービスの実装例であるSpinを解説したセッションを紹介する。スピーカーは、Fermyon Technologiesの創業者でCEOのMatt Butcher氏である。

All Things OpenにおけるMatt Butcher氏のセッションを紹介

●動画:Why Webassembly is the Next Wave of Cloud Computing – Matt Butcher

「Why WebAssembly is the Next Wave of Cloud Computing」というタイトルからもわかるように、クラウドコンピューティングの次の波としてコンテナではなくWebAssemblyが使われることを意図している。ただ前週に行われたKubeConとは参加者の前提知識が違うことを意識したのか、より一般的なサーバーベースのコンピューティングの解説を多めにしている。

まずButcher氏自身の経験としてCMSの開発を行っていたこと、その当時はハードウェアとOSが1:1に対応しており、その上でアプリケーションを開発するというスタイルは長い間変わらなかったことを説明した。

次にクラウドコンピューティングの代表格であるAWSの登場とそれをオープンソースで実装したOpenStackを使ったことで、ハードウェアの上にOSが一つだけ実行されるというスタイルが変わったことを解説した。つまりハードウェアの上で複数のOSが実行されることで、ハードウェアの実行効率が向上したことを説明した後に、Dockerに代表されるコンテナベースのワークロードが登場したことで開発効率が劇的に上がったこと、OSのカーネルを包含しない軽量な実行モデルに移行したことなどを丁寧に解説した。ここまででベアメタルサーバーから仮想マシン、そしてコンテナ、さらにセッションのタイトルにもなっているクラウドコンピューティングの次の波であるWebAssemblyに移行する前までのテクノロジーの変遷を解説した。

セッションを行うMatt Butcher氏

コンテナの次のスタイルであるWebAssemblyの特性を活かして、起動が速く不要になれば同様に高速に終了できることを紹介し、コンテナをトラフィックやニーズに合わせて複数実行するという方法の解説で「実行されたコンテナの数をゼロにする」ことが実は意外と難しいという辺りの解説は、Microsoftが買収したDeis LabsでHelmなどを開発していた経験やKubernetesの実際の実装から出てきた感想だろう。

またWebサイトのレスポンスのレイテンシーが100msを超えるとユーザーが我慢できずに離脱してしまうという経験則を引き合いに出して、高速に起動され実行できるランタイムが必要であるという辺りの解説もリアリティがある内容だ。

コンテナの次の世代にはWebAssemblyのアプリが来ることを説明

そしてKubeConのFermyonのブースでもデモされていたWebAssemblyとSpinを使ったゲームアプリケーションFinicky Whiskersを紹介。これはRustで書かれたWebAssemblyアプリケーションのマイクロサービスを、HashiCorpが開発するスケジューラーのNomadを使って実行するものだ。複数のスマートフォンからWebページが高速にタップされたデータをコンテナに収めたRedisで管理し、その数値を競うというデモだ。モデルとなったのはFermyonのエンジニアが飼っているネコが常に別の餌を要求するというエピソードから「ネコが考えた食べたい餌に応じてゲームの参加者が高速にそれをタップして与える」というものだ。ネコの思いと同じ餌を大量にタップして与えれば得点が加算され、間違っていれば加算されない、加算されたデータはRedisの中に収められて30秒後に結果が表示されるというある意味ではシューティングゲームの一種と言えるだろう。

Finicky WhiskersについてはOpen Source Summit NA 2022の記事を参照して欲しい。

●参考:Open Source Summit NA 2022、マイクロサービスをWASMで実装したデモを紹介

Finicky Whiskersの説明。OSSummitの時から内容が少し変化している

このアプリケーションはRustで書かれたモジュールとRedisのデータベースで構成されているが、Kubernetesを使わなかった理由としてButcher氏は、Kubernetesがコンテナに特化していること、Podの起動に時間が掛かることなどを挙げた。Nomadの利用についてはMesosなどの他のオーケストレーターも検討したが、NomadがJavaのJVMとコンテナの両方をオーケストレーションできるという機能によってWebAssemblyで書かれたコンテナを使わないアプリケーションを高速にオーケストレーションするという目的には合っていたことを語った。またインフラストラクチャーとしてはAWSを使っているが「それについては特に強調しないほうが良いと言われた」ことを説明して会場を笑わせていた。

デモアプリケーションの構成

SpinについてはNomadを使った開発ツールと説明しているが、Spinのコマンドによってアプリケーションの生成、ビルド、実装まで行えるところから、HerokuやCloud FoundryなどのPaaSを感じさせるソフトウェアである。実際のライブデモではなく動画を再生してのデモとなったが、Spinコマンドの例を見せるなどエンジニアが好みそうな内容になっているところもポイントだろう。

Spinの解説。PaaSのような使い勝手を提供するツールだ

KubeConではないからか、より一般的な解説からクラウドコンピューティングの変遷、そしてサーバーレスにも触れ、セキュアで高速に実行でき開発言語を選ばない新しいテクノロジーであるWebAssemblyが次のクラウドコンピューティングの姿であることを印象付けることに成功していたと思われる。

ちなみにセッション後にButcher氏に「Fermyonという名前はどこから?」と質問したところ、量子力学のフェルミ粒子から名前を取ったことを説明してくれた。「小さな粒子のように実行されるコードだからフェルミ粒子にしたんだけど、本当はボゾンにしたかったんだ。でも周りから反対されてね」と笑いながら答えてくれた。

WebAssemblyの利点とコンテナの次の進化という部分をシンプルに訴求したButcher氏だったが、SpinがAll Things Openの参加者にどれだけ理解されたのかは良くわからない。ただ多くの参加者がセッション後の質問に訪れていたことから類推すると、興味を惹き起こすことは成功したように思える。

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