レガシー企業がプラットフォームビジネスへの転換を実現する方法

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人工知能(AI)の進化で新たに出現したビジネスモデルを謳歌しているのは、ほぼ例外なくデジタルネイティブ企業だ。しかし、レガシー企業やR&D予算の乏しい中規模企業も、彼らのように「マルチサイド・プラットフォーム」を築くことは可能だ。自社のエコシステム全体でデータとAIモデルを活用し、顧客向けにサービスを提供できれば、デジタルネイティブのプラットフォーム企業と同様に、急速な成長を遂げ、高い顧客ロイヤルティを実現できる。本稿では、成功事例をひも解きながら、レガシー企業や中規模企業がAIベースの新たなプラットフォームビジネスに移行するために、何をすべきかを論じる。


 人工知能(AI)の進化により、プログラムによるターゲティング広告からシェアリングエコノミー、メタバースまで、さまざまな新しい戦略やビジネスモデルが出現している。

そのようなビジネスモデルの活用に最も成功している企業――ほぼ例外なく、デジタルネイティブ企業だ――は、いわゆる「マルチサイド・プラットフォーム」を採用している。マルチサイド・プラットフォームは、エコシステムやビジネスネットワークのハブの役割を果たす企業がサービスの調整を行い、ユーザーが目的を達する障害となるフリクション(摩擦)を取り払うものだ。

フェイスブック(メタ・プラットフォームズ)、アップル、エアビーアンドビー、アマゾン・ドットコム、グーグル、ウーバー、アリババ、テンセントなどの有力プラットフォーム企業は、目を見張るペースで企業価値を増大させている。

これは偶然ではない。研究によれば、マルチサイド・プラットフォームは、主要なビジネスモデルの中で最大の企業価値を生み出す。一部のレガシーなビジネスモデルに比べて、年間の売上高倍率(マルチプル)が4倍以上に達する。この大きな要因は、ビジネスが急速に拡大しやすく、かつ保有すべき資産が比較的少ないことである。

プラットフォームビジネスではたいてい、エコシステムの全参加者の活動から膨大な量のデータが生まれる。そのようなデータのすべてを正しく理解するには、AIが不可欠だ。

顧客と製品・サービスのマッチングを行い、エコシステム全体でシームレスな体験を提供するためには機械学習が必要とされる、あるいは機械学習を活用することが望ましい。そして、途方もない数の顧客がプラットフォームを利用できるようにするために、効率性が極めて高い顧客サービス、具体的にはインテリジェントエージェントやチャットボットなどが不可欠である。

それゆえ前述の通り、この分野で有力なプラットフォーム企業が、AIの活用においてもビジネス界の先頭を走っていることは意外でない。

しかし、伝統企業がマルチサイド・プラットフォームを築くことも可能だ。データとAIモデルを活用し、さまざまな企業で構成されるエコシステム全体で顧客向けにサービスを組織することは、伝統企業にもできる。

そのためには、新しい戦略、新しいテクノロジー、そして新しい取引関係が必要とされる。この移行を成し遂げることができれば、デジタルネイティブのプラットフォーム企業と同じように、急速な成長を遂げ、高い顧客ロイヤルティを実現できる。

AIを積極的に活用している伝統企業は、エコシステム型のアプローチを採用しているケースが多い。おそらく最終的には、プラットフォーム型のビジネスを目指しているのだろう。

デロイトの「グローバル AI活用企業動向調査 2021」によれば、調査対象となったAI活用企業の中で最も高業績を上げている上位2グループは、2つ以上のエコシステムと関係を構築している割合が極めて高い。具体的には、上位2グループではその割合が83%だったの対して、下位2グループはそれぞれ70%と59%だった。

また、多様性のあるエコシステムを持つ企業は、そうでない企業に比べて、競合企業と差別化を図るためにAIを活用している割合が1.4倍に上る。また、そのような企業はAIに対して、大変革を実現するビジョンを抱いている割合が際立って大きい。全社規模のAI戦略を確立していて、AIを戦略の差別化要因と位置付けているケースが多いのだ。

このような企業は、まだ完全なプラットフォームモデルを擁していないかもしれないが、エコシステムとの関係を広範に築くことは、AIベースのプラットフォームを確立する第一歩といえる。それ以降の段階で、企業が取るべきステップは以下の通りだ。

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