顧客を満足させる3つの「心理的ニーズ」の重要性 – オンライン

サマリー:消費者のロイヤルティを高めたり、解約率を低下させたりするには、人間が本来的に持っている3つの心理的ニーズを満たすことが重要だ。そのニーズとは、自律性、関係性、習熟性を得られることである。しかし、その点を理解している企業はあまりなく、単に顧客の問題解決をしたり、素早く対応したりすればよいと考えているケースが多い。そこで本稿では、顧客の心理的ニーズを満たし、サービスを向上させるための4つのポイントを紹介する。

顧客の心理的ニーズを見落としていないか

長年の研究から、人間は性別や年齢、文化に関係なく、3つの心理的ニーズにより活気づけられると理解されてきた。その3つというのが、深く身についた選択欲求(自律性)、他者とのつながり(関係性)、そしてスキルを高める経験(習熟性)だ。

しかし、心理的ニーズはその普遍性こそ十分に証明されている一方で、消費者ロイヤルティを高めたり、解約率を低下させたりする役割は、ほとんど見落とされてきた。

筆者が立ち上げた人材・組織開発会社イグナイト80のチームは先日、顧客コミュニケーションプラットフォームのフロント(Front)と協力して、米国、英国、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアのB2B企業で働く2128人を調査した。

その結果、B2Bの顧客は、たとえ時間や金額がかさんでも、自分の心理的ニーズを高める交流を好むことがわかった。

筆者らはまず、職場でベンダーを選ぶ権限と予算権限を持つ回答者を特定した。そのうえで、この回答者グループに「好ましい」と思う経験を聞いた。以下では、そこから明らかになったことを紹介しよう。

顧客は問題解決よりも選択を求める

筆者らはまず、「あなたはサービスプロバイダーに、次のどちらを望みますか」と質問した。

a. ある問題を一つの方策で解決してくれること。

b. 複数の解決策を提示し、自分で選ぶよう促してくれること。

前者(一つの方策で問題を解決してくれる)のほうが、時間はかからないし確実に問題を解決できるが、回答者の58%は選択肢を与えられることを望んだ。つまり、選択する経験は、たとえ追加的な効用をもたらさず、より時間がかかるという犠牲を強いても、望ましいと見なされた。

顧客はスピードよりも人とのつながりを求める

顧客は、選択の機会を得られるなら、少しばかり時間を犠牲にしてもよいと思っているだけでなく、人とのつながりを得られるなら、より時間がかかってもよいと考えている。筆者らは、以下のどちらを希望するか尋ねた。

a. チャットボットと「会話」をして、計5分以内に問題を解決してもらう。

b. 人間と話をして、計10分以内に問題を解決してもらう。

人間との会話は、チャットボットの2倍の時間を要し、どちらを選んでも問題が解決されることは確約されているため、追加的な効用はない。それでも回答者の74%は2倍の時間がかかっても人間と話をすることを希望した。

この研究で、人とのつながりに対する欲求はさまざまな形で表れた。たとえば、仕事上で付き合いのある複数のサービスプロバイダーについて、さまざま特性(そのベンダーを個人的に知っているかなど)別に点数をつけてもらったところ、サービスの質が「低い」と評価されたベンダーのことを、個人的に知っていると回答した人は33%だった。これに対して、サービスが「良い」と評価されたベンダーのことを、個人的に知っているとした回答者は2倍以上(70%)だった。つまり、身近な存在であることと優れたサービスという印象は、密接に関連しているのだ。

顧客は応急処置よりも成長を求める

次に、以下のどちらのサービスプロバイダーを好むか尋ねた。

a. 問題を解決してくれる業者。

b. サービスプロバイダーに頼まなくても、自分で解決する方法を教えてくれる業者。

顧客の61%が、自分で問題を解決する方法を教えてくれるプロバイダーを好んだ。こうした学習欲求は、自分のスキルアップに最も投資している若い回答者で特に顕著だった。Z世代(主に1997~2012年生まれ)では、4分の3以上(76%)が自分で問題を解決する方法を教えてくれるサービスプロバイダーを望ましいと答えた。一方、ベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)では、問題解決の方法を教えてほしいと答えたのは過半を超える51%だった。

これらのインサイトを応用する

心理的ニーズというファインダーを通して顧客サービスを眺めることで、顧客が自律性、関係性、習熟性を得られるようにすれば、サービスを向上させる機会が豊富にあることがわかってくる。

1. 自律性を高めるために、指示ではなくコラボレートする

顧客はベンダーの専門性を重視するが、何をすべきか指示されることを望んでいるわけではない。顧客は、一つの問題を一つの解決策で解決されること(42%)よりも、複数の解決策を提示されて、どれを採用するかは自分に任されること(58%)を好む。

ポイントは、たとえ有効な解決策がわかっている場合でも、クライアントに選択肢を示して、主導権はクライアントにあると再認識してもらうことだ。

2. 関係性を深めるため、賢くつながる

筆者らのデータによれば、顧客は、仕事を効果的に行えるように助けてくれるベンダーを評価する。筆者らは、ベンダーの関係性に焦点を当てた行動をいくつか提示し、それがベンダーのサービスに対する印象を改善するか、悪化させるか尋ねた。そこで最も高い評価を得たアクションは、(1)クライアントがプロジェクトで助けを必要としていないか連絡を取る、(2)クライアントがどういう状況か声をかける、(3)役立つ情報を掲載したニュースレターを毎月送付する、だった。一方、GIFを埋め込んだメールを送ったり、フェイスブックで友だちリクエストを送ったりするベンダーは、あまりよく思われていなかった。

ポイントは、無理やり人間関係をつくろうとしないことだ。クライアントが仕事をしやすくなる方法に焦点を絞り、本物の人間関係につながる道を開こう。

3. 共感は控えめがよい

筆者らの研究では、共感に関する興味深い結果も得られた。共感の表明は、友だちや家族のつながりを深める一般的な方法だが、顧客に不誠実と受け止められると、逆効果になりうる。サービスプロバイダーは、顧客が望んでいると思い込み、共感を顧客とのやり取りに織り込むことがある。しかし、これは間違いだ。筆者らの研究では、顧客は「自分たちの痛みを感じる」サービスプロバイダーよりも、豊富な知識で対応してくれるサービスプロバイダーをはるかに好むことがわかっている。

4. 習熟性を高めるために、クライアントのスキルを高める

人間は、新しいことを学び、自分の能力を伸ばしたいという欲求を本来的に持っている。特に、若いB2Bの顧客は、仕事で自分の習熟性を高めることを重視している。したがって、インサイトを共有し、クライアントの問題をただ解決するのではなく、習熟性の経験を高めることが重要だ。

顧客は、価値を最大化し、コストを削減し、時間を節約したい合理的な意思決定者と考えられがちだ。本研究の結果は、こうした見解には限界があることを示している。顧客がサービスプロバイダーを選ぶ際は、心理的ニーズを満たしたいという彼らの欲求は、時間や費用を節約したい欲求と同じくらい強い可能性がある。

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