データを駆使してサプライチェーンを最適化─物流DXを目指す花王のアクション

大手消費財・化学メーカーの花王が、物流のデジタルトランスフォーメーション(DX)を目指したデジタルイノベーション に取り組んでいる。2022年10月13日に開催された「物流データ利活用フォーラム2022 オンライン」(主催:物流データ利活用フォーラム実行委員会、インプレス DIGITAL X)に、花王 SCM部門デジタルイノベーションプロジェクト チーフデータサイエンティストの田坂晃一氏が登壇。データを駆使したサプライチェーンの最適化や需要予測の高度化などの取り組みを紹介した。

ESG視点も取り入れてサプライチェーンを最適化

1887年に創業した花王は、原点である「花王石鹸」の発売以降、シャンプー、洗濯用洗剤、化粧品などを中心にさまざまな製品を世に出してきた老舗消費財メーカーだ。また、紙おむつ、掃除用品の「クイックルワイパー」、特定保健用食品の「ヘルシア」などを通じて、新しい生活習慣の提案も行ってきた。グローバルメーカーとして製品・サービスを約100カ国に向けて提供している。

現在、花王は「ハイジーン&リビングケア」「ヘルス&ビューティケア」「ライフケア」「化粧品」「ケミカル」の5つの事業を展開。グループ全体の売上構成は、2021年度実績でコンシューマープロダクツ事業80.6%、ケミカル事業19.4%となっている。

そんな花王の物流DXやサプライチェーンへの取り組みを、同社 SCM部門 デジタルイノベーションプロジェクト チーフデータサイエンティストの田坂晃一氏(写真1)が紹介した。

紹介された変革の対象は、主力のコンシューマープロダクツ事業である。田坂氏によると、以前から、変化の激しいビジネス環境に対応するのに、サプライチェーンの強化が急務の課題だったという。

写真1:花王 SCM部門デジタルイノベーションプロジェクト チーフデータサイエンティストの田坂晃一氏

また、2019年4月にはESG(環境・社会・ガバナンス)戦略「Kirei Lifestyle Plan」を発表。3つのコミットメントと19の重点取り組みテーマ「花王のアクション」を設定し、2030年までに達成したい意欲的な目標を掲げて取り組んでいる。田坂氏は、このESGの観点からも、サプライチェーンの強化は欠かせないものとして、次のように説明した。「例えば、洗剤の容器コンパクト化は環境面だけでなく、生産、物流の効率化にもつながる。また、当社にはプラスチックを利用した製品も多く、製品開発から再資源化までのサイクルを通じて、循環社会に向けたさまざまな取り組みを行っている」(田坂氏、図1)。


図1:プラスチック循環社会に向けた取り組み(出典:花王)
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現在の花王グループは、国内生産拠点が10工場、物流拠点が家庭品24拠点、化粧品7拠点、化学品25拠点を擁する。このうち家庭品では、北海道から沖縄まで物流拠点を設けて自社グループで完結した物流フローを構築、受注後24時間以内に全国配送を行える体制を整えている(図2)。

工場から物流拠点までは、毎日大型トラック約500台が運行するほか、貨物鉄道や海上輸送など、多数の物流ルートを用いる。そこでは、積送の積載率を高めるために、包装仕様なども含めて最適化に取り組んでいるという。


図2:販売・物流フローと運営会社の比較(出典:花王)
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各種の予測・計画をデータに基づいて実施

花王は、各物流拠点で得られるデータを、事業、販売、調達、生産に関する計画の立案などにも活用する。データを用いて精度の高い予測を行い、部門間で共有し連携を図っている。

例えば既存製品の出荷予測では、過去の売上データをベースに季節変動のトレンドなども加味して行う。また、グループの販売会社が実施した販売促進活動などの情報も、予測精度向上のためのソースにしているという。

一方、新製品の場合は、発売直後の初期納品という出荷がある。これは以降の納品とは出荷の傾向が異なるため、両方の要素を別々に考慮して予測/モニタリングを実施する。初回納品分の予測累計値、リピートの予測累計値から出荷予測を行い、生産実績、生産計画の累計との差を確認しながら生産調整に落とし込む、といった具合だ。

在庫適正化とサービスレベル向上にもデータを活用する。それらは、SCM関連部門全体で出荷実績、出荷予測、生産計画などのモニタリング情報を共有して行う(図3)。予測に関しては、一部の専用品を除く全製品が対象になるという。


図3:関連部門で予測結果の情報共有を行い、在庫適正化を図る(出典:花王)
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AIによる新製品の需要予測モデルを開発

花王は、20年以上も前から統計的な手法を用いて予測を行ってきた経緯がある。活用するデータ、アルゴリズムなどは、時代に合わせて改良を重ねてきたが、「発売後の製品はある程度正確に予測できているが、統計的情報のない新製品の予測はやはり難しかった」(田坂氏)という。

現在は、先端技術を採用した新たな取り組みとして、AIによる新製品の需要予測モデルの開発を進めている。市場情報、広告情報、SNS情報、気象情報、製品情報などを基に、マシンラーニング(機械学習)のアルゴリズムで販売予測を試みたところ、精度は77%から91%まで向上したという(図4)。

「新製品の予測が外れると、原材料や製品の在庫過剰/欠品が生じてしまう。AIを活用して、発売前製品の需要予測の精度を改善することに努めている」(田坂氏)

●Next:データを活用した新たな物流のあり方を模索

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