大事な仕事をつい先延ばししてしまう習慣をやめる3つの方法

手をつけなくてはならないのに、重要な仕事を先延ばしにしてしまうという経験は誰にでもあるだろう。「最も困難で最も重要な仕事から先に片づければよい」という助言は、言うほど簡単ではない。いざ取りかかろうとしても、ハードルが高く実行不可能に思えたり、失敗するリスクを過大評価したり、日常の雑務に追われて「仕方ない、また今度にしよう」と言い訳したりしてしまう。そこで著者が勧めるのは、戦略的に「自分自身を騙す」方法だ。本稿では、負担が大きく煩わしいが、本当にやらなければならない仕事に着手するための3つのテクニックを紹介する


 生産性向上に関する一般的なアドバイスとして、「カエルを食べてしまえ!」というのは誰もが耳にしたことがあるだろう。つまり、最も困難で最も重要な仕事を先に片づければ、先延ばしによって丸一日を無駄にすることもない、というものだ。もちろん、それは言うほど簡単なことではない。

大事な仕事を先延ばしするのは、感情が先立って、どうしても手をつけられないからであることが多い。頭では、逆効果になってしまうことを理解していても、である。たとえば、バカにされるのが怖い(「初めてだから、うまくできないかもしれない」)、どうやって進めればよいかわからない(「やることがたくさんありすぎて、いったい、どこから始めればよいのか」)といった理由だ。

しかし、その仕事の優先度が高いのに正当な理由があるならば、いずれは終わらせなければならない。ほとんどの人は、遅いよりは早いほうがよいと、少なくとも頭ではわかっている。

筆者は長年にわたり、「重要だとわかっていても手をつけようと思えないことを、それがたとえ人間としての衝動に邪魔されている場合であっても、どうすればやれるようになるのか」という疑問について、研究を重ねてきた。新著『ロングゲーム』では、負担が大きく煩わしいが、本当にやらなければならない仕事に着手するために「自分自身を騙す」戦略を勧めている。あなたにも試してみてほしいテクニックを3つ紹介しよう。

●簡単な行動変容から始める

やり遂げたい仕事が大きく複雑で、長期的なものである場合、目的地に向かって走り続けるには、かなりのモチベーションが必要となる。

企画書を仕上げるにも、重要なクライアント向けのプレゼンテーション資料を準備するにも、一般に多くの時間と多くのステップを要する。たとえば、ブレインストーミングを行い、概要をまとめ、実際に起草したものを修正し、フィードバックを受けたら、さらに修正を重ねるといった具合だ。ではどうすれば、そのモチベーションを持続できるのだろうか。

スタンフォード大学行動デザイン研究所の創設者兼所長で行動科学者のB. J. フォッグによれば、モチベーションを持続しようと思うことすら、やめたほうがよいという。「簡単にできる行動ならば、モチベーションに頼る必要はない」

フォッグは、目の前の大きなタスクに目を向けるのではなく、抵抗しようがないほどささやかで、実行可能な「小さな習慣」をつくることを提案している。彼自身、デンタルフロスを習慣化したいと思った時に、1本の歯だけにフロスをかけると決めて始めたという。何かを始めるのは往々にして難しいものだが、1本の歯ができれば、それに続けて全部の歯にフロスをかけることがずっと容易になる。

目指すべきは、緊張したり、嫌だと感じたりすることが何であれ、ハードルを下げて、小さく始める方法を見つけることだ。たとえば、受信メールの多さにうんざりしている場合、1通だけ返信してみる。ネットワーキングイベントが苦手な場合には、1人にだけ歩み寄り、自己紹介をしてみる(その後、帰ってもよいことにするが、帰りたくなくなるかもしれない)。

●期限を区切る

リーダーならば「測定されるものは実行される」という言葉を聞いたことがあるだろう。売上げや顧客生涯価値(CLV)を追跡する際に繰り返し言われてきたことだが、これは私たち自身の長期的な目標の実現にも当てはまることがわかっている。

著述家として、また講演者として成功を収めていたサム・ホーンは、どうすればうまく休みが取れるのかわからなかった。「何十年もの間、私は予定が詰まっていることと、経済的安定を結びつけていました」と彼女は言う。「それが私の成功の尺度でした」。そして、まさにその尺度で成功を極めようとしたため、スケジュールを詰め込みすぎて、疲れ果てていた。

彼女はある過酷な出張から戻ると、ついに何年も先延ばしにしていた自分の夢を実現することにした。それは1年間、旅をしながら仕事をすることだった。

最も大切なポイントは、彼女が自分で期限を設けたことだ。新規ビジネスの立ち上げであれ、賞への応募であれ、あるいは講座や大学院プログラムの参加申し込みであれ、重要な物事は「日程を決めなければ、実行されません。なぜならば、必ず日常生活に邪魔されて『仕方ない、また今度にしよう』となってしまい、延々とその繰り返しになるからです」と、彼女は言う。

デジタルノマドになるまでの道のりでは、多くの壁にぶつかった。友人からは、けげんに思われたり(「サム、病気なの?」)、旅に出ることで仕事にも支障が出るのではないかと自分自身も不安に駆られたりした。「それでも、実現することができました。カレンダーの10月1日を丸で囲って、その日に出発すると誓ったからです」。彼女の経験から得られる最大の教訓は、次のことに尽きる。「プレコミットメント(編注:あらかじめ目標を宣言し、事前に自己拘束する行為)が成功するには、指標が必要」と言うことだ。

●実験ととらえる

先延ばしをするのは、無意識のうちに結果にまつわる利害関係を膨らませてしまっているからである場合が多い。重大な決断をしているように感じると、身動きが取れなくなるものだ。たとえば、「ポッドキャストを始めてやめたら、失敗したと思われるから、一度始めたらずっとやり続けなければならない」と思い込んでしまう。

だが、現実的には、仕事上の決断でそこまで深刻なものは少なく、取り返しのつかないことはほとんどない。たとえば、ポッドキャストの立ち上げに「血の誓い」は必要ないし、新しい仕事が自分に合わないと思えば、辞めることは、最良の決断でないとしても、もちろん可能なのだ。

このハードルを乗り越えて、物事に取りかかるには、実際に取りかかることができるように、自分自身の中でリスクを下げることが欠かせない。その仕事が、自分の人生を左右するととらえてしまえば、躊躇するのも当然だ。たとえば、「プレゼンテーションがうまくいかなければ、きっと誰も新規事業に投資してくれず、起業の夢は必ず失敗に終わってしまう!」と考えれば、身動きが取れなくなり、資料作成に取りかかることは難しい。

必要なのは、自分の行動を実験だととらえ直すことだ。そうすれば、失敗のリスクを排除することができる。失敗が「何かを成し遂げようとしたが、成し遂げられなかった」という最終結果を意味する時には、動揺しやすい。だが、あくまでも実験であり、最初から結果は不確実だとわかっていれば、それを失敗とは呼べない。

自分が求める結果を手に入れるには、何度も繰り返すことの必要性を理解し、それにしたがって期待値を設定することだ。自分は生涯、ポッドキャスターでいようとは思わず、6つのエピソードから成る1シーズンだけやると決める。誰も聴いてくれなくても、自分が楽しむことができないことがわかっても、それは失敗ではない。ポッドキャストに取り組んで得られたデータに基づき、自分のアプローチを洗練させていけば、将来の成功につなげられる。プレッシャーがなくなれば、モチベーションが高まり、物事を始めるのはずっと簡単になるはずだ。

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不快なことや望ましくないことを後回しにしたり、その場しのぎの簡単な選択をしたりするのは、人間だから仕方がない。しかし、長期的な視野に立ち、達成すると決めた意義ある目標を達成したいと願うなら、この3つの戦略を活用することで、スタートを切り、最後までやり抜くことができるだろう。

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