新世代のCIO/CDO柘植悠太氏──ITの力を信じ、約6万人のパーソルグループを導くニューリーダー

 人材派遣やアウトソーシング、教育、人材紹介など幅広く事業を展開し、日本屈指の総合人材サービスグループであるパーソルグループ。その中で、パーソルホールディングスの執行役員 CIO/CDOの柘植悠太氏は、事業会社も含めてグループ全体のDXを担う。今回は、CIO/CDOを兼任するようになった理由や経緯、ホールディングス全体のテクノロジー戦略などについて伺った。

営業・企画職がルーツ、望んでCIO/CDOにチャレンジへ

──パーソルホールディングスのCIO/CDOとして活躍されていますが、なぜ就任となったのでしょうか。

経歴から振り返ると、新卒で旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社し、5年ほど関西で営業を担当していたところからキャリアがスタートしました。その後、東京に異動して営業企画や事業企画、経営企画など、8年ほど“企画畑”を歩いているうちに「事業・企業をどうしていくべきか」という“問いと解”を考えるようになり、ツールとしてのHRテック(HR Tech)に興味を持つようになりました。2012年頃からデータサイエンスなどが盛り上がってきたタイミングでもあったため「人材・人事関係の企業にこそ、データ活用や新規事業開発が必要なのではないか」と考えるようになりましたね。そこで企画を提案したところ「自分でやってみたら」と話が進み、2018年に新規事業の立ち上げ、テクノロジー推進を担う部門に異動しました。

その取り組みをグループ全体に広げるという目的のもと、2022年4月にパーソルホールディングスへ異動し、CIO兼CDOという現職に着任しています。企画職で約6年間、テクノロジーの推進部門で4年弱、計10年以上もの時間をITに費やしてきたこともあり、ここでCIO/CDOとして経営に挑戦してみたいと思いましたね。

──CIOとCDOを兼任していますが、具体的にはどのような役割を担っているのでしょうか。

わかりやすく説明すると、CIOとしてはセキュリティやITガバナンス、インフラなど“ITのマネジメント”を担っており、CDOとしてはグループ全体の事業や業務のDXを推進する役割だと考えています。いわば「攻めと守り」の両側面を1人で担っています。実は当初、「CIOに就任を」とお話をいただいたのですが、グループのDXは“攻めと守り”が揃ってこそ可能だと考え、両者をコントロールするために兼任を認めてもらいました。

着任直後、IT部門とデジタル部門という2つの組織があり、安心してはたらくための環境づくりを担う「グループIT本部」、人事や財務、購買など基幹系システムを担当する「グループデジタル変革推進本部」に分かれていました。2023年4月からは、グループ各社の事業DXを推進する「グループテクノロジー推進本部」を新設し、現在はそれら3部門体制でDXを推進しています。

2023年4月から『パーソルグループ中期経営計画2026』(PDF)が始まっていますが、こうした取り組みはすべてそこに紐づいています。ビジョンや経営理念は変わらないのですが、今回バージョンアップされたのが「ありたい姿(目指す企業像)」として「“はたらくWell-being”創造カンパニー」というキーワードです。

中期経営計画2026』(2023年5月15日、パーソルグループ)より

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昨今、女性活躍やリモートワークの普及などの様々な変化によって“働き方の多様化”が進み、自身のキャリアを考えることの重要性が高まっていますよね。そこでパーソルグループとしては、単に転職や職探しの支援をするだけでなく「一人ひとりのはたらく幸せ」を創造していこうと考えているのです。

具体的には「“はたらくWell-being”創造カンパニー」となるための経営戦略として「テクノロジードリブンの人材サービス企業」を掲げており、事業成長のエンジンとして「人的資本」「テクノロジー」「ラーニング」の3本柱に注力していきます。ここで重要なのは、あらゆるフェーズにおいてテクノロジーが重要視されていること。事業成長のエンジンとしてのテクノロジーについては、顧客体験・従業員体験・デジタル化・DXの4象限で整理していますが、それぞれが重要なため並行して取り組む必要があると考えています。

中期経営計画2026』(2023年5月15日、パーソルグループ)より

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たとえば、顧客について考えたときに「人材派遣や求人紹介などコア事業のデジタル化」は必須であり、「新規事業やサービスの開発」も欠かせません。一方、従業員を軸として見たときには、デジタル化によって「はたらく環境をより良くしていくこと」はもちろん、DX推進に向けて「テクノロジー人材・組織の強化」も求められているでしょう。

しかしながら、どの施策についても担い手が全社的に不足しており、各事業会社では危機的ともいえる状況です。とはいえ、各社での採用だけでカバーすることは難しい。そこで、パーソルホールディングスに新設した「グループテクノロジー推進本部」においてハイレベルな専門人材を積極的に採用し、各事業会社のプロジェクトごとに適切なメンバーが支援を行えるような仕組みづくりを加速させています。

──人材拡充の先にあるDXについて、既にパーソルキャリアなどを中心にデジタル活用が進展している印象を受けています。

たしかにサービスの一部を取り上げると進んでいるところもありますが、現状に満足せずにさらにレベルアップを図りたいと思っています。特に派遣事業はグループの売り上げの半数を占め、そのインパクトが大きいため、しっかりと取り組みを進めていきたいと思っています。そのため中期経営計画においてもStaffing SBU(Strategic Business Unit)[1]のDXは、主要施策の一つとして位置づけています。

パーソルホールディングス 執行役員 CIO/CDO 柘植悠太氏

そして、各グループの“従業員のDX”についても、人事システムや営業支援システム、財務システムなどのコーポレートITシステムをアップデートしていく予定です。今の時代は、さまざまな従業員がデバイスや場所を選ばずに仕事をすることが当たり前になっており、セキュリティやアカウントなど、ちょっとした煩雑さが足かせとなってきました。そこで、場所の制約をなくし、いつでも誰でもどんなデバイスでも快適に仕事ができるように整備していますし、タイムリーな技術として「生成AI」の活用にも取り組んでいきます。

[1] 5つのSBU(Staffing、BPO、Technology、Career、Asia Pacific)とSpecialized Services、R&D FU(Function Unit)による経営体制を敷いている。参考:「経営体制」(パーソルグループホームページより)

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