戦略をうまく実行できない企業が陥る3つの落とし穴 – オンライン

サマリー:ビジネス戦略の成功には、2つの活動が欠かせない。それが戦略の設計と戦略の実行である。しかし、この両方を高い水準で実現できている企業はほとんどない。筆者の経験から言うと、たいていの場合、問題は戦略の実行… もっと見るにある。本稿では、戦略を実行の段階へ移行する際に、戦略立案者が陥りがちな3つの落とし穴を解説する。 閉じる

なぜ戦略の実行段階で失敗する企業が多いのか

ビジネス戦略を成功させるためには、2種類の異なる活動が不可欠だ。それは、戦略の設計と戦略の実行である。戦略の設計においては「私たちの戦略は我が社の環境に適したものになっているか」という問いに、戦略の実行においては「私たちは自分たちの意図をどの程度うまく実行に移せているか」という問いに答えなくてはならない。

この2つの問いはそれぞれ、異なるレベルの分析を実践し、明確なギアチェンジを行うことを必要とする。戦略の設計は組織のポジショニングに関わるものであるのに対し、戦略の実行は個人の活動に関わるものである。

この両方を高い水準で実現できている企業はほとんどない。筆者の経験から言うと、たいていの場合、問題は戦略の実行のほうにある。戦略立案者は、実行の段階へ移行する際に、以下の3つの落とし穴のいずれかにはまることが多い。

落とし穴1:誰もが首を突っ込みたがる

エマは、ある国の国税局(OSR)で法人部門の責任者を務めている。この機関では、毎年2日間を費やして、合宿形式で戦略プランニングを行っていた。「オフィスから離れた場所に集まり、戦略を練っています」と、エマは説明する。「リラックスした環境で、未来について考える機会を持てるのはよいのですが、誰もが何か一言、言いたがるのです。それも、ただ発言するだけでなく、首を突っ込みたがります」

要するに、マーケティング、人事、IT、オペレーションなど、さまざまな部署のスタッフがそれぞれの言い分を押し通して、自分たちが推進したいプロジェクトを採用させようとするのだ。その結果として、「取り組む業務が盛りだくさんになりすぎてしまいます」と、エマは言う。

「その結果、多くのことに手を出しすぎて、どれもやり遂げられなくなってしまうのです。そうすると、自分たちがいつも失敗してばかりいるように感じ始めます。それでも懲りることなく、次の年にはまた同じことを繰り返し、戦略プランニングのために集まっています」

どうすれば解決できるか:異なる視点に基づいて活動を厳選する

クリフォードは、従業員数4500人の新聞・雑誌・オンラインメディア企業でビジネス出版部門を率いている。「どのような戦略上の取り組みを行うかは厳選しています」と、クリフォードは言う。「最も見返りの大きいものだけを選びます。具体的には、自社のビジネスへの恩恵が最も大きく、しかも主要なステークホルダーにとっての意義が大きいものを選ぶことになります」

こう述べた後、クリフォードは重要なことを指摘した。「自社がどの分野で強みを育むことにしたかを、上司たちが明確に理解しています。この点は好材料といえます」

エマのケースとクリフォードのケースの違いに目を向けてほしい。エマの職場では、マネジャーたちは、それぞれの部署が推進したいプロジェクトを採用させようと思って戦略プランニングの集まりに臨む。そうしたプロジェクトのほとんどはオペレーションに関わるものであり、それらを片っ端から採用する結果、たちまち業務量が膨れ上がりかねない。

それに対し、クリフォードの職場では、マネジャーたちがステークホルダーの視点を持ち込む。採用されるプロジェクトのほとんどは戦略的なものであり、数はあまり多くならない。この両者の違いは、よくいわれる「インサイド・アウト」のアプローチと「アウトサイド・イン」のアプローチの違いと言ってよいだろう。

落とし穴2:計画に基づくアクションが不足している

エマによれば、自分たちの職場が能力を存分に発揮できずにいる原因は、戦略プランに盛り込まれる取り組みが多すぎることだけではない。アクションを起こすための計画が欠如していることも大きな原因だ。

「私たちはたいてい、戦略プランニングの話し合いを終える時、やる気満々で、多くの活動を実行するつもりでいます」と、エマは説明する。「けれども、職場に戻ると、日々の業務に忙殺されて、それどころではなくなってしまいます。全社規模の取り組みを具体的なアクションに転換するための試みは、ほとんど行われていません」

どうすれば解決できるか:アクティビティではなくアクションを確実に実行する

クリフォードは、戦略の実行に多くの時間と労力を割いている。「アクションのプランニングとは、『スタッフを訓練する』といった類いの漠然としたものではありません」と、クリフォードは言う。「それは単なるアクティビティです。アクションとは、過度に詳細なものであってはならないけれど、具体的なものでなくてはならないのです」

たとえば、クリフォードはこのような例を挙げる。「ビジネスへのAI(人工知能)活用についての研修プログラムを構築するというのは、具体的な内容といえます。期限を設定できて、担当者と責任者も決めることができるからです。それに対し、漠然と意図を表明するだけでは、望むような成果は上げられません」

ここでもエマのケースとクリフォードのケースの違いに注目しよう。アクティビティ(プロセスの説明)とアクション(具体的な行動)は違う。クリフォードとそのチームの面々は、アクティビティではなく、アクションを設計することで、すべての取り組みをやり遂げている。実行の妨げになっている要素すべてに目を光らせる一方で、それがステークホルダーにどのような結果をもたらしているのかをチェックし、着手した取り組みをすべて完了させることができているのだ。

落とし穴3:説明責任を確保するためのメカニズムが欠けている

エマが強調した3つ目の問題は、説明責任を確保するためのメカニズムが欠けていることだ。「報告のシステムと説明責任のメカニズムが存在せず、プランの実行を確保できないのです」と、エマは言う。「それに、採用されている評価指標は、私たちが何を成し遂げているかではなく、何を行っているかに焦点を当てる傾向があります」

このようにアウトカムよりもアクティビティに重きを置く傾向があるのは、「私たちの戦略プランがステークホルダーではなく、部署を中心に形づくられているから」だとエマは考えている。「そうした状況にあるにもかかわらず、政府は私たちに対して、政策上の目標をどの程度達成しているかを示せと迫るのです」

しかも「(最高責任者が)現場に直接関わっているとは、お世辞にもいえません。彼女は現場に無関心で、デスクの前を離れようとせず、ほぼ会議ばかりしています」という。

どうすれば解決できるか:適切な報告のメカニズムを設計する

トレバーは、米国のいくつかの州に支部を持つ人身傷害事件専門の法律事務所のトップだ。ただし、トレバー自身は弁護士ではない。金融業界の出身で、数年前にこの法律事務所にやってきた。トレバーには、嫌いな言葉がある。必要以上に「戦略」「戦略的」という言葉が用いられることを非常に嫌っているのだ。また、「会議のための会議」も好まない。

トレバーは、本当に意味のあるいくつかの指標にだけ注意を払うものとして、言わば「KPI(重要業績評価指標)による死」に陥らないように気をつけている。「事務所全体の成績表」は、主要なステークホルダー──トレバーによると、依頼主、従業員、事務所のパートナー弁護士(共同経営者)、地域コミュニティが該当する──に及ぶ影響を中心に構成している。この点に関して、サプライヤーはあまり重要視していない。

トレバーが特に重んじているのは、本人が言うところの「先行指標」だ。たとえば、弁護士の人数を増やすという戦略をどのようにモニタリングしているかについて、次のように説明している。「事務所の売上げや問い合わせの数など、ありきたりのことに関しては報告書が上がってきます。けれども、私が知りたいのは、問い合わせが受注につながったのかどうかに関するデータです。この情報を得られないと、現場が人手不足で依頼を断っていても、私には知りようがありません。本当は弁護士の採用を増やすべきなのに、私が気づかない可能性があるのです」

トレバーは、意味のない数字には関心がない。知りたいのは、自分の戦略がうまくいっているかどうかだ。

また、トレバーは、報告のメカニズムに関しては、数値指標や書面の報告書では満足しない。5人の直属の部下に状況を毎日確認している。「(部下の)部屋に顔を出して、調子はどうかと尋ねます」という。それに加えて、月に1回は幹部チームの会議も開く。これは「30分の給湯室トーク」のようなものだという。なぜ毎週会議を行わないのか。この問いに対しては、「週に1回だと多すぎると思うのです。定期的に腰を落ち着けて会議をするのは好きでありません。時間の無駄になるので」と答えた。

エマの職場との違いは明らかだ。トレバーは、アクティビティではなく、アウトカムを軸にした指標を採用していて、物事がうまく機能するように、現場に直接関わり、非公式で双方向型のアプローチで臨んでいるのである。

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戦略が失敗する原因はさまざまだ。したがって、企業にせよ、政府機関にせよ、非営利団体にせよ、みずからの組織の現状を率直に分析評価する必要がある。あなたの組織では、戦略づくりだけで満足していて、その戦略を実行に移さないままになっていないだろうか。もしそうであれば、いま自分たちが行っていることを厳しい目で見直したほうがよい。

あなたの組織が戦略プランニングに真剣に取り組んでいるのであれば、それは素晴らしいことだ。しかし、戦略プランニングに有効な実行が伴わなければ、あなたの組織が秘めている力を存分に発揮することはできない。

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