新製品への需要をリアルな行動データから検証する方法

サマリー:市場調査は往々にして、調査対象者が調査対象であることを自認している。そのため、リアルなデータが得られないという課題を抱えている。本稿では、リアルなデータにより、新製品の需要を測る「ヒートテスティング」… もっと見るという手法を解説する。この手法はまだ存在しない商品についての情報を、さまざまなユーザーセグメントに対して広告出稿し、反応を見るものだ。これにより、リアルな行動データに基づき、商品情報とユーザーセグメントの効果的な組み合わせが発見できるという。

ヒートテスティングがマーケターにもたらす3つの情報

市場調査は、1930年代に考案されて以来、企業が消費者のニーズを評価するために利用されてきた。フォーカスグループは行動や態度に関する情報を引き出し、コンジョイント分析をはじめとするツールは、消費者が商品の購入を検討する際のトレードオフを探る。大規模なパネル調査は、特定の商品の市場機会を推定する。

これらの市場調査の手法に共通する点は何だろうか。

それは、どれもリアルな消費者に対して行われていないという点である。どの手法にしても、調査対象となっている消費者はみずからが調査対象であることを意識している。これは商品のマーケティング担当者にとって、何を意味するのだろうか。たしかに、消費者が自分の行動や態度をどう説明するかについては、豊富なデータを得られるだろう。しかし、リアルな消費者の行動についてのデータと知見が欠けているのだ。

この問題を解決するために、手軽に利用できる手段がある。それは、市場調査としてのオンライン広告だ。

クリックや「いいね」、メール登録などのデジタル広告への反応は、監視下にない状況での消費者の行動を反映しており、購入意向の指標として信頼性が高い。広告によるテストは、新しい商品コンセプトやリブランディング、その他の大きな戦略的変化に対する消費者の反応について、現実の生活におけるデータをとらえることができる。筆者らはこの種の調査を「ヒートテスティング」と呼んでいる。ヒートテスティングは、プロダクトマーケットフィット(PMF:商品が市場のニーズに適合している状態)の始まりとなる、オファーとオーディエンスの間で弾ける火花を見つけ出す。

ヒートテスティングがマーケティング担当者にもたらす3つのソリューションを以下に挙げる。

1. 新商品のコンセプトに対する需要を実証する

あなたが新しい飲料のコンセプト構築に取り組んでいるとしよう。それは、エルダーフラワーやハイビスカスのようなエキゾチックな風味の水溶性タブレットで、1杯の水の価値を高めることができる。この商品は、包装が少なく水を輸送することもないのでサステナビリティの価値も提供できる。職人技で生み出された風味には、少し贅沢感がある。そして、カスタマイズも可能で、風味を組み合わせて自分好みの調合ができる。

だが、こうした新商品を発売する前に、誰もが知りたい答えがある。これを買う人はいるのだろうか。

この答えを知るうえで、従来の市場調査には多くの欠点がある。フォーカスグループでは重要な意見はおしゃべりにかき消され、アンケート調査には「もし~があれば、あなたは購入しますか」という条件付き質問があふれている。エスノグラフィー調査などで膨大な時間と労力をかけていては、時代についていくために必要なイノベーションのペースを落としてしまうかもしれない。

幸いなことに、広告プラットフォームは多変量テストに適しており、データに基づく知見にすぐにアクセスできる。フェイスブック、インスタグラム、ツイッター、リンクトイン、グーグルなどのプラットフォームでは、何百万人もの消費者に瞬時にアクセスすることが可能だ。彼らを個々のオーディエンスに分類し、新商品を売り出すための複数の広告ターゲットに設定することができる。成果を上げる広告もあれば、そうでない広告もあり、どの変数を調整すべきかを知るためのデータとなる。

テスト変数には、新商品の定義や特徴、ポジショニングやブランディング、メッセージング、それを活きいきと表現するクリエイティブのスタイル、ターゲットの消費者層と彼らを誘う行動喚起、そのほか、マーケティングキャンペーンの要素となる価格設定などの要因が含まれるだろう。

飲料商品の例では、3つのポジション、たとえば「サステナビリティ」「贅沢感」「自分好みに調合できること」についてテストしてもよいだろう。2、3の広告によって、それぞれのポジションを活きいきと表現する。(広告クリエイティブだけを根拠に、ポジションの成否を判断してはならない。2つ以上のクリエイティブのアプローチを用いれば、フォールスポジティブ、つまり誤検知を最小限に留められるだろう)。

あなたの会社がより若い顧客層を獲得したいのであれば、25~34歳の3種類のオーディエンスを広告のターゲットにする。たとえば彼らを「プラネット・ピープル」(地球人)、「ホリスティック・ヒップスター」(総合的な健康を求めるオタク)、「スピリッツ・フリー・スピリッツ」(自由な魂の人)と名付ける。

通常のマーケティングキャンペーンと同様、広告やランディングページ、サポートコンテンツが組み合わされ、一体感のあるユーザー体験がつくられるが、通常のマーケティングキャンペーンと異なる要素がいくつかある。それは、

a)商品コンセプトの状況を反映して「開発中」や「近日発売」という表現があること

b)既存の顧客データがないこと

c)複数のマーケティング戦略が並行してテストされていること

である。

どうすれば、あなたの飲料コンセプトに需要があるかどうか、判明するだろうか。もし、まだ存在しない商品のために、潜在顧客があなたの会社にメールアドレスを教えたならば、重要な糸口をつかんだということだ。プライバシーがますます重視される時代では、メールは通貨のようなものである。商品が実際に作られていない状況では、メール登録率の高さは需要が存在することの最高の実証になる。

2. 既存商品の新たな顧客を発見する

ヒートテスティングによって、既存商品の成長の機会を見つけることもできる。従来の商品を新たなオーディエンスのためにリポジショニングすることには、リスクが伴う。新しいメッセージングやイメージは、既存の顧客層を遠ざけることもあるからだ。

新しいポジショニングを小規模な形で新しいオーディエンスにテストすると、PMFを見極めることができる。ブランドにとっては大きな投資をせずに、さらなる収入源への道を開く機会になるだろう。新しいメッセージングについても、やはり小規模な形で成功しているポジションをコアなオーディエンスにしてテストをすると、そこに潜むリスクを正確に特定することができる。

3. オファーに対するターゲットオーディエンスの反応を知る

ヒートテスティングの目標は、ヒート(熱)、つまり商品と顧客の相性と、その相性を生み出すマーケティング要素を発見することである。ヒートテスティングはA/Bテストではない。A/Bテストは、すでにトラフィックが存在する場合に、無作為抽出になるよう、ユーザーがさまざまなタイプの既存のウェブページに自動的に導かれる環境で行われる。

ヒートテスティングによる戦略はこれとは異なる。商品かオーディエンス、またはその両方が新しいため、多くの場合、ブランドが潜在顧客を惹き付ける既存のメカニズムを持たない場所で、ランディングページへのトラフィックを創出しなければならない。

新商品のコンセプトのためのトラフィックの創出は手間のかかることではなく、学習の機会である。ミレニアル世代の「スピリッツ・フリー」のオーディエンスは、「自分好みに調合できること」と「サステナビリティ」とでは、どちらのポジションによく反応するだろうか。どのポジショニング、クリエイティブのスタイル、オーディエンスの組み合わせが、各コンセプトのメール登録を生み出すのに最も効果的だろうか。ランディングページに到着した人の何%が、さらに詳しく知ろうとしてメール登録するだろうか。メール登録1件あたりのコストはいくらか。顧客獲得コストについて、何が推測できるか。広告プラットフォームによって行動の違いはあるか。こうした重要かつ大きな疑問の答えを出すことによって、高い費用をかけて新たなマーケティングに取り組むリスクを回避できる。

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ヒートテスティングが画期的である理由は、現実の世界で実施される点にある。広告への1回のクリックも、1回の保存や「いいね」もデータになる。ランディングページの1回の閲覧もデータになるのだ。キャンペーンの各変数の成績を比較すれば、新商品をどうポジショニングすべきかについて多くを学べる。何より、こうした知識は統計的に有効なのだ。

筆者らのイノベーションへのアプローチは、 The Lean Startup(邦訳『リーン・スタートアップ』日経BP、2012年)の著者であるエリック・リースの「実用最小限の製品」(MVP)をまったく新しい次元に移行させたものである。リースは同著において、MVPを発売し実際のユーザーのフィードバックに基づいて発売後に商品を改善することの利点を強く主張した。ヒートテスティングでは、リースの想像よりもさらにMVPを最小化できる。それは商品ですらないが、それでも消費者の反応が得られる。

ヒートテスティングによってPMFを見つけ出すためには、多くの変数を何度も試す必要がある。有効な結果を得るには、科学的原理に忠実であることが不可欠なのだ。購買の判断に関して、現実世界の行動データに基づく知見を得ることは、その労力に値する。最終的な成果物は、最も反応のよいオーディエンスのセグメントと彼らを熱中させる最も効率的な方法が示されている「ヒートマップ」である。

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