上司から高すぎる目標を設定された時の対処法

サマリー:高い目標はモチベーションを高め、大きな成功をもたらす可能性がある。しかし、過度に困難な目標はモチベーションの低下やリスクテイクを招き、非倫理的行動を悪化させるおそれがあるという。本稿では、上司から高す… もっと見るぎるストレッチ目標が提示された場合の対処法を解説する。 閉じる

高い目標による利点と欠点

エベレストの登頂、月面着陸、私たちの想像を超えるAI(人工知能)技術の進歩。一見、不可能に思えるこれらの目標は、すべて達成されている。

このようなストレッチ目標は、個人と組織のモチベーションと成功を強力に促進することが広く認められている。目標設定に関する長年の研究で、より困難な目標が大きな努力と成果を引き出すことが確認されている一方で、あまり知られていない欠点も明らかになっている。ストレッチ目標はしばしば誤解され、誤用され、意図しない結果を招く。目標が適度にやりがいのあるものから、極度に困難なものに変化すると、モチベーションを低下させ、過剰なリスクテイクを促し、非倫理的な行動を悪化させるおそれがあるのだ。

こうした落とし穴があるにもかかわらず、ストレッチ目標は依然として企業生活において重要なものとされ、設定した目標と現実的に達成できる目標との間にストレスを誘発する齟齬を生じさせる。筆者はエグゼクティブコーチとして、非現実的な収益目標から製品発売の前倒し、急激な企業文化改革への期待まで、こうしたギャップが生まれる例を数多く見てきた。

高い目標を目指すことは非常に重要だが、不可能と思えることを上司に期待されたら、どうすればよいのだろうか。本稿では、そのような状況を乗り切る方法を解説する。

目標の背景を広く理解する

上司が非現実的な目標を与える理由はさまざまだ。無謀な野心を持っていて、「大きく、やりがいがあり、大胆な目標」という一般的な考え方を信奉しているのかもしれない。あるいは、上司は日々の業務から遠ざかっていて、その目標を達成するためのロジスティックスやプロセスに関する難しさを認識していないのかもしれない。または、目標が非現実的であることを認識しながらも、上層部や重要な顧客からのプレッシャーに直面しているかもしれない。

上司がどのように目標を導き出したかを理解することは、最善の道を決定するために不可欠だ。「どのような考えからこの目標設定に至ったのかを教えていただけますか」と尋ねれば、目標に至った根本的な前提やデータを理解し、その実現可能性を評価することができる。また、「組織や外部からのどのような圧力がこの目標を推進しているのですか」と尋ね、その目標が社内的な動機によるものなのか、外部のステークホルダーの影響によるものなのかを確認することもできる。最後に、上司にとって目標のどの点が最も重要かを評価するために、スケジュールと成功の定義、それらの測り方について尋ねる。

すぐに返答するのではなく、フォローアップのミーティングを求めるべきだ。たとえば、「この目標に見合うだけの熟慮を重ねたうえで、お返事したいと思います」「この目標の範囲と影響を深く理解するために、データを集める必要があります。その後でまたお話しできますか」などと伝える。

可能な解決策を想像する

実現できそうにない目標は、不公平感や怒りを覚えたり、当惑したり、不安を引き起こしたりする。結局のところ、目標を達成できなかったら、自分の評判やキャリアの機会、報酬に影響が出るのではないかと懸念しているのかもしれない。このような感情は自然なものだが、明晰で創造的な思考を妨げるおそれがある。

思考を「何を」から「どのように」にシフトして、問題解決能力を発揮し、潜在的な解決策を見つける。半年後、あるいは1年後に目標を達成したと想像し、「それを可能にするために、私は何をしたのか」と自問する。また、リバースブレインストーミングをし、目標を達成できないあらゆる方法を考えてみるのもよい。障害を明らかにし、それを克服するための解決策を思いつくこともある。さらに、目標を管理しやすいタスクやマイルストーンに分解することで、パズルのピースがどのように組み合わされるかが見えてくるかもしれない。

最後に、異なる視点を求めることだ。問題に近すぎて、あらゆる角度から見ることができない時がある。チームや同僚、メンターに相談すれば、あなたが考えもしなかった創造的な解決策を導き出せるかもしれない。

課題を特定し、記録する

目標がどこから来たものかを理解し、可能な解決策を考えたら、次は事実をまとめなければならない。上司と面談する際には、あなたの思考プロセスを具体的な証拠で裏づけることが不可欠だ。

成功を阻む現在の障壁を具体的に示す。現在持っているリソースと、目標を達成するために必要なリソースとのギャップを明確にする。たとえば、人員、予算、時間の追加が必要だろうか。こうした追加要件を定量化しなければならない。また、関連する企業や業界のベンチマークなど、目標の難易度が極めて高いことを裏づけるような他のデータも検討する。たとえば、6カ月以内に組織文化を変革することを課せられた本部長のラジは、類似した組織で成功した文化の変革には少なくとも1年かかったというデータを収集した。

目標を追求することが、あなたやチームにどのような影響を与えるのかも特定する。キャパシティ、ほかの作業の流れや品質レベルへの影響、ストレスやバーンアウト、潜在的な人員配置への影響などを考慮する。たとえば、不可能な売上目標を与えられた営業担当シニアバイスプレジデントのフランチェスカは、その目標が引き起こすと考えられる人員減と採用の問題を指摘した。

最後に、あなたが導き出した解決策を検討し、それを可能にするために必要なものを説明する。より多くの時間やリソースが必要か。プロジェクトの優先順位を付け直し、現在取り組んでいる他のプロジェクトを廃止する必要があるだろうか。

特定したすべての課題、関連するデータや証拠、可能性のある解決策、仮定を詳細に記録しておく。これは、目標に取り組むためのロードマップとして役立つだけでなく、上司と課題を話し合う際のコミュニケーションツールにもなる。

上司の期待を管理する

上司にフォローアップする時は、透明性を保ち、事実を伝える。目標達成の障害を説明し、あなたの評価を裏づける事実を共有する。また、検討した解決策を説明し、最終目標を達成するための別の方法、新たなリソース要件、既存のプロジェクトや一連の作業に関する優先順位の見直しや廃止など、トレードオフや代替案の可能性を示す。

たとえば、新しいソフトウェアの発売の前倒しを要請された製品開発責任者のエミリーは、上司のために詳細なプレゼンを準備し、潜在的なバグや顧客の不満など、製品開発を急ぐことのリスクを説明した。彼女はまた、通常より強引だが十分なテストを行える代替スケジュールを提示し、期限を延長する交渉に成功した。

上司に押し返されたら、協力的な姿勢を保ちつつも、敬意を持って自分の立場を貫く。たとえば、「私もあなたと同じようにこの目標を達成したいと思っていますが、私の分析では非現実的です。どのようにこの評価に至ったのか、教えていただけますか」と聞く。上司が上からの目標をあなたに与えているのなら、その立場に共感を示す。そのゴールを達成しなければ、上司の立場も危うくなるのだ。

上司に反発するのは難しいかもしれない。しかし、あなたが重要な事実を上司に知らせれば、その積極性が高く評価されるだろう。結局のところ、チームの失敗に驚いたり、バーンアウトに至ったり、緊張に満ちた職場になったりするといった別の選択肢は、優秀なリーダーが目指すシナリオではないのだ。

困難な目標に挑む

運がよければ、目標の修正を交渉することができる。しかし、上司が譲歩しない場合は、困難に挑むべきだ。ベストを尽くし、自分の行動を記録し、上司に最新情報を伝える。最初は目標を修正できなくても、後で可能になるかもしれない。また、のちに目標を達成できなかった理由を説明する必要が生じた時も、達成するために行ったすべての記録を残すことができる。

目標達成のために努力する時は、人から支援を得れば、それを実現したり、ストレスの多い要求の悪影響を和らげたりする助けになる。また、理不尽な要求に応えることができなくても自分を責めてはいけない。そして、目標が達成できなかったらどうなるかを確認する。ペナルティがなければ、不安やストレスが和らぐかもしれない。

しかし、目標が常に達成不可能で、その結果をあなたが背負うことになるのであれば、新たな道を計画するのが賢明かもしれない。それまではベストを尽くし、高い水準を維持することだ。変化の時が来れば、できることはすべてやったという自信を持って前に進むことができる。

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