新型コロナ対策の意思決定を迅速化─神奈川県が新データ活用基盤を核に行政DXを推進

神奈川県がデータ活用基盤を刷新して、行政DX/データドリブン行政に取り組んでいる。県立保健福祉大学との共同プロジェクトで、新型コロナウイルス感染症の予測モデルを独自に構築。懸念される第6波はもちろんのこと、新たな感染症対策における意思決定およびアクションのデータ基盤を構築している。取り組みの内容を、同県とPalantir Technologies Japanが2021年11月12日開催の共同発表会で語られた内容から紹介する。

 神奈川県が新しいデータ活用基盤の構築にあたって導入したのは、Palantir Technologies Japanのデータ統合プラットフォーム「Palantir Foundry」。国内の自治体で最初のFoundryユーザーという。

Palantir Technologies Japanは、世界25カ国の政府機関・大手企業にデータ統合・分析プラットフォームを提供する米Palantir Technologiesの日本法人。2019年11月、米PalantirとSOMPOホールディングスにより共同設立された。

同社は、企業におけるデータ活用で大きな障壁となっているデータ統合の課題解決を基軸に、Foundryをはじめとする製品の提供を通じて、データドリブンなビジネス価値の創出を支援している(関連記事Real Data Platformを基軸に次世代事業を創出─SOMPOホールディングスのデータドリブン経営富士通、ビッグデータ分析ソフトを手がける米Palantir Technologiesに5000万ドルを出資)。

Palantirの製品は、米CDC(疾病予防管理センター)、英NHS(国民保健サービス)など世界各国の先進医療機関で導入され、感染状況予測やワクチン接種管理、医療・病床サプライチェーン構築などで効果を発揮しているという。

共同発表会に登壇したPalantir Japan代表取締役CEOの楢﨑浩一氏は、各種データアセットを数日レベルで統合できるというFoundryの特徴を紹介。そのうえで、自治体初の導入となった神奈川県への支援について説明した。

続いて、神奈川県でCIO兼CDOを務める江口清貴氏が登壇。同県の新型コロナウイルス対策におけるデータ活用の取り組みを説明した。同県では、2020年1月20日に横浜港を出港したダイヤモンドプリンセス号において新型コロナウイルス感染症の陽性者が発生した時点から未曽有の災害と位置づけ、感染拡大防止のためのデータ活用策の模索が始まったという。

その後、コロナ禍は次々と新局面を迎え、各種データが複数のシステムで個別に管理されていることが障害となって分析・解析のスピードが追い付かないことを痛感。個別システムのデータ統合の方法を試行錯誤する中でたどり着いたのが、PalantirのFoundryであった。江口氏は、選定・導入の経緯を次のように説明する。

「神奈川県では、新型コロナウイルス感染症対策に必要な各種データの統合・分析方法の検討を進める中で、さまざまなデータ統合ツールを情報収集し、評価・検証を行ってきました。選定で最も重視したのは、現場に負荷がかからない仕組みであること。しかしながら、一般的なデータ分析ツールはデータ連携設定など含め、利用開始までに数カ月必要なケースが多く、その間に現場が調整に苦慮するであろうことが想定されました」

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具体的には、県の保有データの統合はもとより、「GoogleAI・COVID-19感染予測(日本版)」などの外部データを含めたデータ統合環境を構築。陽性者数やワクチン接種率、人流の増加傾向などのデータを横断的に分析し、予測モデルを基に逼迫度合いや病床の状況を含めて、県内における感染状況を多面的に把握し、政策決定に活用している(画面1)。

「特に注力しているのがクロス分析で、データの掛け合わせによって有用な検出・発見ができる可能性があります。本プロジェクトでは新型コロナを災害として位置づけていますが、その意味では“コロナ×防災”など、さまざまなデータ分析から、活用の幅も広がっていきます。今後は、データドリブン行政という観点から、この取り組みが県民の安心・安全、サービス向上を担う礎となることも視野に入れて推進していこうと考えています」(江口氏)

新型コロナ対策・感染拡大防止に端を発した神奈川県のデータ活用の取り組みは、データドリブン行政を踏まえた行政DXを大きく前進させそうだ。