機械学習を活用して数千店舗をきめ細かく運営、米ホームセンターThe Home Depot

 全米に数千の店舗を持つホームセンターチェーンが、各店舗や倉庫の商品在庫を横断的に管理するのは大変な仕事だ。厄介な要因が増えるブラックフライデーやホリデーシーズンともなれば、その困難を乗り越えるのは不可能なようにも思える。

提供:The Home Depot

提供:The Home Depot

しかしThe Home Depotは、機械学習とコンピュータービジョンの技術を組み合わせ、顧客が求める商品をスタッフが迅速・効果的に見つけられるようにすることで、この課題に真っ向から取り組んでいる。

米ZDNETのオンラインでのインタビューに応じてくれたThe Home Depotの技術フェローHari Ramamurthy氏は、このような新技術の導入は同社にとって当たり前のことだと語った。

「当社は非常に技術指向が強い企業だ」と同氏は言う。「私たちは、最新・最高のテクノロジーを利用してスタッフの体験を改善する方法を模索している。それが最終的には、顧客体験を改善することにもつながる」

The Home Depotは、スタッフの生産性を高めるために、機械学習を使用した「Sidekick」と呼ばれるアプリを開発した。

このアプリにはコンピュータービジョンの技術も使われており、同社のスタッフが使っている業務用モバイルデバイスである「hdPhones」にインストールされている。このデバイスは、The Home DepotがZebra Technologies、HPE、Arubaと共同で開発したものだ。

Sidekickは2023年の初めに導入された。Ramamurthy氏によれば、このアプリは、全社的に進められているデータ主導のさまざまなアプローチの中の最新のものにすぎないという。

「機械学習や人工知能のようなテクノロジーが持っている、従業員や顧客に望ましい結果をもたらす潜在的な可能性は非常に大きい」と同氏は述べた。

The Home Depotは、Sidekickを開発するに当たって、スタッフが重要な業務から優先的に処理できるようにするために、機械学習アルゴリズムを使用したクラウドベースのシステムを独自に開発した。

このアプリは、店員が需要の高い商品に集中できるようにするのと同時に、棚の高いところにあるような見つけにくい商品を探す際の手助けもしてくれる。

「私たちは、店員に自分の担当場所に関連する最も価値の高い業務を割り当て、店員が常に生産性の高い業務を行えるようにしたかった」と同氏は言う。「アルゴリズムには、社内のデータソースから生成されたさまざまなシグナルが入力されている」

この機械学習モデルには、POSや在庫管理プラットフォームなどの業務システムからのデータが入力されている。

さらにこのモデルは、従来の構造化された小売データだけでなく、店内の客の流れが分かるカメラ映像などの、半構造化された情報源からも分析情報を引き出すことができる。

このアプリにはコンピュータービジョンも使われている。この機能には、店員がhdPhoneのSidekickアプリで撮影した画像が使用される。

スタッフが店内のあちこちで写真を撮影すると、そのデータを使って、どの製品が棚に並んでいるかに関するより詳細なデータが得られる仕組みだ。

「コンピュータービジョンは、アルゴリズムに入力されている、業務システム以外から得られるデータの典型例だ」とRamamurthy氏は言う。

「これは非常に面白い技術で、このデータストリームには、私たちが持っているデータソースを補強する情報がたくさんある。より総合的なシグナルのセットを作れるため、店員に対して適切な業務を生成して指示することができる」

このアプリを効果的かつ生産的に運用するにはスタッフからの入力が必要であり、非常に多くのデータを必要とするが、Ramamurthy氏によれば、スタッフに求められる作業が面倒になり過ぎないように気を付けているという。そして、そのスタッフの入力から得られる出力が生むメリットは大きい。

「私たちは、技術を背景に溶け込ませて、できる限りシームレスに見せることを目指している」と同氏は言う。「店員は、指示される業務を生成するのにどんな要素が使われているかをすべて理解する必要はない。私たちの目標は、適切な業務を優先的にやってもらうことだ」

Ramamurthy氏は、The Home Depotの技術フェローとして常にSidekickを改善する方法を模索しているが、それと同時に、常にデータを活用した新しいイノベーションの種を見つけようとしている。

「私の役割は、さまざまな製品チーム、ビジネスパートナー、テクノロジーチームの橋渡しをすることだ」と同氏は言う。「私たちは常に、さまざまな仕事のやり方を最適化する方法を探しており、同時に、自分たちの考え方を見直すようにしている。そのために、新しい技術の導入について常に検討し、顧客の問題を少しでも解決できるような次世代の体験を生み出すための実験をいくつも行っている」

The Home Depotは、数年前からさまざまな機械学習や人工知能の技術を試している。自社製のアプリであるSidekickはその1つだ。

一部のITリーダーには、最新の技術を取り入れる際に自社開発を選択することは、リスクが大きすぎるように見えるかもしれない。

GartnerのディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリストであるAvivah Litan氏は以前、米ZDNETの取材に対して、機械学習やAIなどの最新技術を導入すれば生産性の大幅な改善が期待できるが、大きな成果を得るまでには、大変な課題をいくつも克服しなければならないと述べたことがある。

Ramamurthy氏によれば、The Home Depotの場合、社内に人材がおり、概念実証研究によって、機械学習とコンピュータービジョンで大きな成果が得られることが分かっていたという。

ほかのITリーダーやビジネスリーダーがここから学ぶべきことは、新興技術を活用するための鍵は、自分のアプローチを実際に試し、磨きを掛けていくことにあるということだ。

「私たちのやってきたことは、繰り返しばかりだった。社内では、価値を提供するためには『ハイハイして、歩いて、走る』アプローチが必要だと考えている。私たちは、局所的な改善を繰り返しては、その過程でさまざまな課題を克服してきた」と同氏は言う。

「しかし、私たちがやってきた反復的なアプローチは、確実に期待に応えるためには非常に効果的だった。今では、成果の観点でも、総合的な店員の体験の観点でも結果に満足している」

Ramamurthy氏らのチームは、今後も小さな反復的プロセスを継続して、Sidekickを大きく改善していく予定だ。

同氏は、スタッフに適切な業務を生成して指示するだけでなく、各販売店舗のデータの分析や、販売フロアのレイアウトの検討など、店舗のあらゆる面に関する要素を扱えるようにするために、もっとできることがあると考えている。

「これらはすべて、さらなる研究が必要な分野だ」と同氏は言う。「私たちは今後も、統計的な機械学習モデルや、生成される一部の業務の品質をどうすれば改善できるかについて検討していく。特に、新たに他のシグナルが得られた場合にどう改善できるかを考えたい」

Ramamurthy氏はまた、Sidekickから得られる分析情報を活用して、店員が業務をこなすのに必要なスキルやリソースを持っているかどうかを確認できるようにしたいと話した。

同氏は、「これらの分野は、業務の生成と業務の実行の両面で改善の余地があると考えている」と述べた。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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