「Oracle Database 23ai」なぜ“cloud”から“ai”に、その狙いは……

 連休真っ只中の米国時間5月2日、Oracleは「Oracle Database 23ai」を発表した。2022年秋に米国ラスベガスで開催されたOracle CloudWorld時点では“23c”として発表。その際のキーメッセージは「App Simple」で開発者に優しいデータベースだった。2023年のイベント時には、前年から急遽巻き起こった生成AIブームをキャッチアップし、新たにベクトルデータベース機能「AI Vector Search」の搭載を明らかにしていた。そして今回、この機能を含む形で、名称をCloudの“c”から“ai”に変えたのだ。

「Oracle Database 23」はCloudの“c”から“ai”に

Oracle Database 23aiの注力分野は、AIと開発者、そしてミッションクリティカルの3つだ。ミッションクリティカルは、Oracle Databaseが長きにわたりターゲットとしてきた領域であり、23aiでも踏襲された。また、堅牢なだけでなく、開発者がより使いやすいようにアプリケーション開発を容易にするための機能を数多く揃えていることも強調する。

開発者に優しいデータベースだとする大きな理由が複数のデータモデル、データタイプ、データワークロードを1つのデータベースで扱える「コンバージド・データベース(Converged Database)」のコンセプトだ。Oracle Databaseでは、リレーショナルデータはもちろん、ドキュメントやKey-Value、Spatial、Graphなど、さまざまなデータタイプのワークロードを1つのデータベースで対応できる。これにより開発者は複数のデータベースのスキルを持つ必要もなければ、その管理も必要ない。バックアップやセキュリティの担保なども、1つのOracle Databaseだけ対応すれば良いだろう。その分だけ開発者やDBA(データベース管理者)は、アプリケーションの開発・運用に注力できるというわけだ。

そして、コンバージド・データベースの対応範囲をベクトルデータにまで拡大し、“AIのためのデータ活用プラットフォーム”として進化したのがOracle Database 23aiとなる。「AI Vector Searchは画像やDNAの塩基配列など、すべてのデータをベクトルデータに変換して取り扱えます。これにより、たとえば膨大なアルバムの中から似たような写真を容易に探し出せます」とOracle会長兼CTOのラリー・エリソン氏は話す。AI Vector Searchは、データの中身を検索して類似点を見つけ出せるという。ベクトル検索では、データが完全に一致する必要はない。ドキュメントの内容が似ていれば、それを見つけられる。

もちろん、ベクトル検索自体は新しい技術ではない。ベクトル化した大規模なデータをOracle Databaseに格納して取り扱えることが画期的であり、これにより企業が持つデータから類似性の高いデータを抽出でき、容易に大規模言語モデルと連携可能だ。

市場には既に、ベクトルデータを取り扱うための専用データベースもいくつかある。一方、エリソン氏はベクトル・データベースを独立した製品として提供するべきではないと主張する。たとえば、かつてXMLデータを扱う専用のXMLデータベースがあったように、新しいデータタイプが出てくると、それを扱う専用の仕組みが登場する。とはいえ、「XMLデータベースは長続きしませんでした」とエリソン氏。データタイプごとにバラバラにデータベースを用意するのではなく、すべてのデータは1つの場所にあるべきだ。そうすることで、予想ができないようなユーザーからのクエリにも容易に答えを返すことができる。

重要なことは、欲しいデータを容易に見つけられることだ。バラバラのデータベースでこれを実現することは簡単ではない。すべてのデータを1つのデータベースに保管すれば、欲しいデータは容易に見つけられる。

そして現状、膨大なデータを学習した基礎的な大規模言語モデルも存在するが、そこには個人の銀行口座の記録や個人的なメールの情報などは含まれていない。そこでOracle AI Vector SearchとRAGを組み合わせることで、個人のデータなどを含めた形で大規模言語モデルを用い、最適な回答を返せるようになる。この仕組みならば、データベースに登録される最新データを含めて回答を生成可能だ。「データベースと大規模言語モデルの組み合わせは、ユーザーに素晴らしい体験を提供するでしょう」とエリソン氏は強調する。

企業のデータを容易に連携させる仕組みは、別途ベクターデータベースを導入することなく、Oracle Databaseを23aiにすることで実現できる。既にOracle Databaseを利用しているならば、この機能を使うのに追加料金は発生しない。

顧客が求めるなら「Autonomous Database」をAzureで動かす

Oracle Database 23aiは、Oracle Exadata Cloud@Customer、OCI Exadata Database ServiceおよびOCI Base Database Serviceで利用できる。Always Free Autonomous Databaseでも利用でき、Autonomous Database 23ai Container ImageおよびOracle Database 23ai Freeをダウンロード可能だという。まずは、これらをOCIのクラウドサービスとして利用でき、今後はオンプレミス版も提供される予定だ。

これらは既に、2023年9月にOracleとMicrosoftの新たな協業として発表されたOracle Database@Azureでも利用できる。当時、エリソン氏がマイクロソフト本社を訪れ、Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏と同席した形での発表は、両社がデータベース製品で長く競合関係にあったことを考えるとかなりの驚きだった。

AzureでOracle Databaseを動かす、これはMicrosoftとOracleがマルチクラウドの要求に応えるものだ。これはOracleの分散クラウド戦略に則ったものでもある。顧客のデータセンターや競合のAzureでOCIを動かせるのは、OCIのフットプリントがかなり小規模で実現できるからだ。たとえば、顧客のデータセンターでOCIを動かすDedicated Regionの最小構成は、当初の50ラックから12ラックまで縮小している。規模が小さいからこそ、さまざまな環境で動かせる。小さくてもOCIの機能を網羅しており、最新のOracle Database 23aiも直ちにAzureで動かせるわけだ。

両社がマルチクラウドに対応するとの発表に至ったのは、長くエンタープライズ領域でビジネスをしてきたことで、両社とも世界中に数多くの顧客・パートナーを抱えているからだと話すのは、Oracle CloudWorld Tour Tokyoで「Oracle Cloud InfrastructureとAzureでのマルチクラウド実現~Oracle Database@Azure~」と題して講演を行った、日本マイクロソフト 業務執行役員 データ&クラウドAIアーキテクト統括本部 統括本部長の大本修嗣氏だ。

「MicrosoftもOracleもオンプレミスで長くビジネスをやってきました。オンプレミスに大規模な顧客がいる状況で、MicrosoftもAzure Arcで分散クラウドを推進しています。これは両社の共通点ででもあります」と大本氏。Microsoftの顧客でも、ミッションクリティカルシステムのデータベースにOracle Databaseを使っている顧客は珍しくない。そのような顧客がクラウド化を進める際、まずはアプリケーションをAzureに移行し、Oracle Databaseも続けて移行したいところだが、かつては選択肢がなかった。しかし、AzureのデータセンターでOCIを動かせるようになるとレイテンシーの問題もなくなり、「あたかもAzureのサービスのようにOracle Databaseが使えるようになります」と述べる

Azure Oracle Database Serviceでは、技術サポートだけでなく請求管理もMicrosoftが行う。もちろん、後ろ側ではOracleと密に連携した上で、あたかもAzureの1つのサービスのように扱える。2023年9月に発表され、同年12月には北米のデータセンターでローンチされると、既に通信など大容量データを扱う顧客が利用しているという。

この取り組みはAzureにOracleのサービスを載せることが目的ではなく、Oracle DatabaseのデータをMicrosoftの生成AIにかかわるサービスなどで活用し、顧客が変革を進められるようになることが重要だとも大本氏は言う。高い精度で生成AIを活用するためには、ミッションクリティカルのデータも生成AIに取り込めることが鍵となる。その際、このような両社のアライアンスは極めて重要な意味を持つと大本氏は指摘する。

前述したように、Azure上でもいち早くOracle Database 23aiを利用できる。加えて、これまでOracle Cloudのサービスとしてだけ提供してきたAutonomous Databaseも利用可能だ。Autonomous Databaseは、他のクラウドサービスにはない自律型のデータベースをOracle Cloudが提供できるところに価値があった。これを利用するためにOracle Cloudを選択する顧客もいたはずだ。それがAzureで動くとなれば、顧客はOracle Cloudをあえて選ばなくなるとも考えられる。

これに対し、Oracle オラクル・データベース・サーバー・テクノロジー担当 エグゼクティブバイスプレジデントのアンドリュー・メンデルソン氏は、「たしかにAutonomous DatabaseをAzureで動かすことは、Oracleにとってビジネス上のトレードオフがあります。とはいえ、Oracleは常に顧客が求めているものを提供します」と話す。

既にAzureで多くの投資をしていれば、今さらOCIに投資したくないと考える顧客もいるだろう。それでもAutonomous Databaseに価値を感じ、そのメリットは享受したい。その要求に応えられるよう、Oracle Databaseのポータビリティは確保するようにする。顧客の方向性にあわせ、Oracleの技術をどこでも使えるようにすることが重要だとメンデルソン氏。そうすることで顧客は安心し、信頼をもって利用できるという。

また、Microsoftとの密な協業関係を示すことで、他のクラウドベンダーへのプレッシャーにもなるはずだとも話す。時期は未定だが、他のクラウドベンダーともMicrosoftと同様の取り組みが実現できるのでは、とメンデルソン氏は語るのだった。

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