同族企業の経営者がいつまでも権限を委譲しない時、いかに対処すべきか

長年にわたりファミリービジネスを率いてきたリーダーでも、高齢化し、その能力が衰え始める時がある。みずから退き、後継者にトップの座を譲るのであればよい。しかし、本人が能力低下を認めず、周囲から「次世代に道を譲るべき時だ」と指摘されても耳を傾けることなく、権力の座にしがみつこうとする場合は問題だ。そうなれば、家族間で争いが生じたり、信頼やつながりが失われたりして、ビジネスが危機的な状況に陥ってしまう。本稿では、能力の衰えたリーダーと向き合い、ファミリー企業と家族にさらなるダメージを与えないようにするための戦略を提示する。


 2021年秋、米連邦捜査局(FBI)はニューヨークのマフィア「コロンボファミリー」のボス、アンドリュー・ルッソをついに逮捕した。

87歳のルッソは長年、規律ある現場主義のマネジメントスタイルで「ファミリービジネス」を率いてきたが、行動がずさんになっていた。自身のベストプラクティスを無視し、安全でないコミュニケーション手段を用いて、犯罪行為に直接関与するようになっていた。

仲間は以前からルッソの問題に気づいていたが、彼は「次世代のリーダーに立場を譲る時だ」という意見に耳を貸さなかった。当然ながら、ルッソが逮捕された後、彼の犯した過ちの代償は全員が払わされることになった。

ルッソは、典型的なファミリービジネスのリーダーとは言えないかもしれない。しかし、彼の失脚は世界中のファミリービジネスが直面する課題を象徴している。つまり、ファミリービジネスを長年率いたリーダーが衰え始めた時にどうなるか、ビジネスが危機に陥るのではないかという問題だ。

上場企業のCEOの場合、業績が悪化すれば、取締役会(と株主)によって速やかに追放される。しかし、非公開会社の場合、そうはならない。

高齢化したリーダーに、かつてのような体力やスピードはないかもしれないが、たいていの分野で優れた能力を発揮し、リーダーとして機能する。しかし、衰えたリーダーは判断を誤り、ミスを犯し、機会を逃して、約束を守らず、権力を持つ立場にふさわしくない行動や態度を取り、従業員やビジネスに悪影響を及ぼす。

能力が衰えた高齢のリーダーが会社の所有権を持っている場合、その人物を解任するのは容易ではない。支配的所有権を持ち、自身の判断力の低下を認めない場合は、特にそうだ。また、そのリーダーが一族の家長である場合、異議を唱えたり、懸念を持ち出したりすることさえ不可能に思えるかもしれない。

支配権をめぐる家族間のやっかいな争いがメディアで繰り広げられたり、もっと悪い場合は法廷で展開されたりする状況を、筆者らは数多く見てきた。家族内の核となる信頼やつながりを壊すことなく、衰えたリーダーが及ぼすダメージを減らしたいと考える家族にとって、高いリスクを伴う行為だ。

では、ファミリービジネスのリーダーが、かつてのように組織を率いることができなくなった時、どのような戦略を講じることができるのか。筆者らは、世界中のファミリービジネスとの幅広い関わりを通じて、家族(ビジネスにおいて正式な権限をまだ持たないメンバーも含む)が、能力の衰えたリーダーと向き合い、会社と家族にさらなるダメージを与えないようにするための戦略をいくつか特定した。

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