従業員との対話を通じて定着率を高める方法

退職の意向を固めた従業員と面談を行った際、組織や上司による事前の対応を期待していたことが発覚するケースは珍しくない。筆者は、リーダーによる「定着のための対話」を推奨する。従業員の定着率を高めるには、部下が「職場に留まりたい」と思えるような体験をしているか、定期的に確認する機会を持つことが欠かせない。本稿では、定着のための対話にどのように備えるべきか、また従業員と面談する際に何を話すべきかを解説する。


 リーダーに犯しやすい間違いの一つが、「チームメンバーが不満を言わないのだから、彼らは仕事に満足している」と思い込むことだ。

筆者のクライアントであるラナ(仮名)の例を紹介しよう。彼女は国際的な大企業のシニアチームメンバーを務め、あらゆる観点から見て、非常に熱心に仕事に取り組んでいた。会議で斬新なアイデアを提案し、プロジェクトを期限通りに完了させ、この数年間ずっと、メッセージには24時間体制で対応していた。

しかし、彼女は転職活動も行っていた。多くの人と同じように、コロナ禍は彼女にとっても優先順位を見直すきっかけとなったのだ。

リモートワークを始めて2年、悪気はないが多忙な上司は、業務以外の状況をラナに確認するチェックインの時間をつくることなく、彼女のキャリア開発について話をすることもなく、サポートの要求にも応じなかった。その結果、不満を募らせたラナは退職し、彼女が持っていた業務の知識、顧客との関係、チームの文化に対する貢献が会社から失われた。

はたして、ラナの退職を回避することはできただろうか。もしかしたら、回避できたかもしれない。

ギャラップの調査によれば、自主退職する従業員の52%が、マネジャーや組織は退職を防ぐために何かできたはずだと答えている。すべての従業員を引き止めることはできないが、従業員とのチェックインの時間を確保すれば、定着率の向上は可能だ。

HR担当者が退職の意向を示した従業員と面談し、その理由を聞き取る「退職面談」には、馴染みのある人がほとんどだろう。これに対して「定着のための対話」は、従業員が職場に留まりたいと思えるような体験をしているかどうかを、リーダーが確認するものだ。筆者はこの対話を四半期ごとに行い、重要な節目(例:就業記念日)にも設定するよう推奨している。

このような「キャリアのリスクトリガー」を心に留めておくことがいかに重要かは、研究で明らかにされている。最大のリスクはマネジャーや職責が変わった時に生じ、従業員が転職活動を行う割合が17%上昇するという。

以下、このような対話に備える方法を紹介し、実際に従業員と面談する際に話すべき内容を解説する。

状況を設定する

この対話は、業績に関する話し合いやプロジェクトについての会議ではなく、従業員がどのような状態にあるかを確認し、どうすれば最善のサポートを提供できるかを理解するために行う、チェックインの時間であることを相手に伝えよう。たとえば、次のように伝えることができる。

「あなたが私たちのチームにいてくれて、本当に感謝していることを伝えたかったのです。新しい年度/四半期/その他を迎えるにあたり、あなたが職場でよい体験をしているかどうか、チェックインの時間を設けたいと考えました。特にアジェンダはありませんが、事前に以下の点について考えてもらえると、嬉しいです」(下記のリストから3~4問を選ぶ)

・仕事全般について、どのように感じているか。
・仕事のどの部分に最も喜びを感じているか。
・仕事のどのような面に最も喜びを感じないか。
・仕事と家庭の両立について、どのように感じているか。
・今年度/四半期の最大の課題は何か。あなたをより適切にサポートするうえで、私にできることはあるか。
・あなたやチームをサポートするために、私がこれまでと異なる方法でできることはあるか。
・私からのフィードバックが必要なことはあるか。
・この会社で学び、成長していると感じているか。そうでない場合、あなたの体験を向上させるために、私にできることはあるか。

●対話に向けて精神を集中する

相手の話を聞き、つながりを構築する能力は、会話に入る時の心理状態に大きな影響を受ける。あなたがプロジェクトの最終段階で時間に追われていたり、別の会議から慌てて移動してきたりした状態では、チームメンバーに寄り添い、共感することはできないだろう。

対話のスケジュールを組む時は、相手と会う前にバッファーを確保することだ。筆者がリーダーにアドバイスする際、これから対話をする相手とその理由を思い起こせるように、数分間かけて以下の問いについて考えることを勧めている。

・私がこれから話をする相手はどのような人物で、彼らが日々業務を遂行するために必要なことは何か。
・この人物が明日退職するとしたら、私とチームにどのような影響があるか。

●ミーティングを正しく始める

直接会って話をするにせよ、電話会議やビデオ会議で話すにせよ、気が散るものはすべて取り除く。通知をオフにし、PCや携帯電話を片付けて、メールやチャット機能もオフにする。意図的であろうとなかろうと、相手が自分の体験を話している最中に、あなたが目をそらしたり、他の何かに反応したりすれば、すぐさま話をやめてしまうだろう。

そのうえで、最初に対話の背景を説明する。あなたがその場にいるのは、相手の話を聞き、その体験を理解し、それを改善するためにできることがないかを確認するためであることを、改めて認識してもらうのだ。

まず、事前にメールで送った質問の中から一つを選び、それについて尋ねることから始める。一般的な質問から始めて会話の流れができてから、深く掘り下げていくことをお勧めする。

●相手の話を掘り下げ、真摯に耳を傾ける

リーダーに対して定着のための対話のトレーニングを行っていると、「チームメンバーが自分では対処できない問題を持ち出したり、実現できない昇給や昇進を要求したりした場合、どうすればよいのか」という懸念を示されることが多い。

筆者は決まって、こう答える。「起きていることを無視するよりも、理解したほうがよいのではないでしょうか」。たいていの場合、相手の懸念に真摯に耳を傾けると、その懸念を解消するか、少なくとも一緒に進むべき道を明らかにできることが多い。

筆者の経験上、不安を抱えるリーダーは、物事がうまくいっている時でも、最悪の事態を想定して対話に臨む。

チームメンバーが自分の体験を話している時は、真摯に耳を傾けることだ。そして、うまくいっていることを喜び、振り返ることで、相手の体験を掘り下げていく。

「在宅勤務はとてもうまくいっています。チームの効率性が上がった気がします」

・喜ぶ:「それは素晴らしいです。私も同じように感じています」
・振り返る:「何が変化を起こしたと思いますか」

「新しいアプリのローンチに携われて本当に嬉しいです!」

・喜ぶ:「それを聞いて、私も嬉しいです。あなたが注いでいる情熱は、素晴らしいと思います」
・振り返る:「その仕事で最も喜びを感じたことは何ですか」

●隠れたコミットメントを探す

相手が、業務内容、リモートで働いていること、チャイルドケアの不足などについて、いら立ちを示したり、不満を口にし始めたりしたら、そのような不満の裏には必ずコミットメントがあることを思い出そう。解決策を提案したくなる気持ちを抑えて、相手が何にコミットメントしているか耳を傾け、それを捉え直し、一緒に対処するために何ができるかを尋ねる。

「毎日会議続きで、自分の業務をこなすのに毎晩夜中まで仕事をしている感じです」

・捉え直す:「素晴らしい仕事をするために力を尽くしていることはよくわかりますし、仕事を終えるための時間が日中に取れないと感じるのはイライラしますよね」
・振り返る:「あなたの状況をよくするために、私たちは何ができると思いますか」

「毎日同じことをしていて、自分のキャリアとして何も結果を残せていない気がします」

・捉え直す:「成長しようと本気で努力をしているけれど、いまは自分の成長を実感できていないのですね」
・振り返る:「あなたの状況をよくするために、私たちは何ができると思いますか」

●次のステップについて合意する

最後の10分で、次のステップに話を移す。時間が不足して話せなかったことが複数ある場合は、別のミーティングを設定して対話を継続する。それぞれ取るべき行動がある時は文書化して、あなたがチームメンバーの話に真摯に耳を傾けたことがわかるようにしよう。

「今日のミーティングでは、率直に語っていただき、ありがとうございました。あなたの体験をすべてお話しいただいたことに、心から感謝します。約束した通り、○○を行い(自分が取るべき行動を挙げる)、2カ月後に再び対話の時間を設定したいと思います。その前に何かあれば、いつでもチェックインの時間を設けることができます」

これは「余計な仕事」で、そのための時間はないと感じるかもしれないが、実際には、定着のための対話を「やらない」という選択をする時間はない。最も大きな影響を及ぼすのは、たいてい最もシンプルな行動であることを忘れないでほしい。

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