機械学習を収益につなげるための7つの活用法

サマリー:機械学習で注目されるのは、そのテクノロジー面であることが多く、事業の収益に対する具体的なインパクトが注目されることは多くない。本稿では、機械学習の収益面でのインパクトに着目する。機械学習を適切に活用して顧客満足度を高めれば、サービスや製品への顧客定着率が高まり、ひいては事業の成長につながるのである。

機械学習による価値提案が注目されない理由

機械学習は、経験(データ)を学習して個人の行動を予測するテクノロジーである。機械学習によって主要な事業がより効果的に運営され、収益の向上につながることはよく知られている。しかし、同時に顧客体験も大きく向上する可能性があることはご存じだろうか。

機械学習は個々の顧客の行動を予測し、その予測がそれぞれの顧客へのサービス向上に活かされる。機械学習は反応する可能性の高い顧客にキャンペーンの対象を絞り込んだり、不正の可能性のあるクレジットカード取引を無効にしたりすることができる。また、受信トレイからスパムメールを削除したり、顧客が最も関心を持ちそうな物件(エアビーアンドビー)や検索結果(グーグル)、商品(アマゾン・ドットコムやネットフリックス)、恋愛の相手(マッチドットコム)を表示したりすることもできる。

こうした明確な価値提案があるにもかかわらず、機械学習はまだそれほど広範かつシームレスに活用されていない。問題は、世の中が主に中核となるテクノロジーの先進性や素晴らしさに注目するあまり、具体的な価値提案、つまりどのようにしてビジネスプロセスをより効果的にするのかという点から、意識が逸れていることにある。その結果、ほとんどの機械学習プロジェクトが失敗し、意図したビジネス価値が実現されていない。しかし意思決定者が、機械学習は収益だけでなく顧客体験にも大きな影響を与えることを認識するようになれば、企業は機械学習で具体的な価値を生み出すことに関心を移し、最終的には機械学習の活用が加速し拡大するだろう。

機械学習を用いて顧客体験を向上させる方法

なぜ機械学習は顧客体験を向上させる有望なテクノロジーだといえるのだろうか。その理由は単純で、顧客の行動を予測できるからである。予測能力は、個々の顧客のニーズを見越し、それに合わせて商品やサービスをパーソナライズするという誰もが渇望する能力だ。顧客の視点に立つと、機械学習の倫理面での落とし穴を回避できるなら、予測能力は誰もが日々直面する情報過多に対しての究極のソリューションになりうる。

機械学習を活用して、どのコンテンツが個々の顧客にとって最も関連性が高いかを予測することで、顧客はより適切なレコメンデーションを得ることができ、必要のないメールは減り、受信トレイのスパムメールはほとんどなくなる。そして何より、質の高い検索結果を得られようになるだろう。

この能力は幅広い可能性を秘めている。機械学習の予測はどの事業部門や業界においても、顧客体験を高めることができる。下図では、ビジネスにおける機械学習の活用法として定着している7つの事例を挙げている。それぞれが収益向上につながるビジネス価値(左端の欄)と顧客体験(右端の欄)に影響を与えている。

顧客は不正検知を求めている

活用法の一つである不正検知については、すでに顧客は機械学習による予測を強く求めている。実のところ、彼らが声高に苦情を訴えるのは予測がうまく機能しなかった時である。失敗は2種類ある。まず、顧客はクレジットカードの請求書に思ってもみなかった料金が記載されていたら、いら立つだろう。また、クレジットカードを使用した時に、銀行のシステムで承認されないために決済処理が実行されなければ、同じようにいら立つだろう。

顧客体験を最大限に高める唯一の方法は、こうした2種類の予測ミスを最小限に抑えることである。そして、ここが機械学習の出番なのだ。

機械学習はデータを学習して、予測を向上させる科学である。これが機械学習の定義だ。

カード詐欺の防止では、フェア・アイザック(FICO)が業界のリーダーである。FICOのカード不正検知システム、ファルコンは9000の銀行で利用され、世界のほとんどのクレジットカードやATMカード(世界で26億枚)の全取引をスクリーニングしている。機械学習の不正検知によって、中規模銀行は約1600万ドルを節約できるうえ、カード所有者が体験する詐欺を約6万件減らして顧客体験を向上させている(おおまかな算定はこちらを参照)。筆者は、機械学習の商業的な活用という点において、ファルコンは世界で最も成果を上げ、広く影響を与えている事例の一つであると考えている。

ファルコンの運用はほとんど人目に付くことはないが、こうした見えない効率化は多くの場合、最も注目を集める予測機能よりも顧客体験に貢献している。消費者にお馴染みの有名な機械学習システムで、返済能力を評価するFICOクレジットスコアよりも、ファルコンは個々の消費者に頻繁に影響を与えているのだ。多くの人がスコアを自分の消費者としてのアイデンティティにおける重要な要素と感じるのは当然だろう。だが一方で、ファルコンの不正検知は、ふだんは消費者からは見えないものの、頻繁に、すなわちカードを使用するたびに、彼らの体験に影響を与えている。FICOは日夜、消費者の経済力を評価する一方で、経済犯罪と戦っているのである。

人を助ければみずからも助かるという好循環をつくり出す

実績ある機械学習の活用例はほかにも多くあり、収益だけでなく顧客体験にも貢献している。たとえば機械学習を利用して、カスタマーサービスの電話を転送するなど顧客からの問い合わせフローを効率化したり、フィッシング、偽情報、不快なコンテンツといった不正以外の悪意ある行為を検知している。

もちろん、企業は顧客を助けることによってみずからをも助けている。こうした顧客体験の向上は、単にあればよいという程度の、利益主導の機械学習活用がもたらす副産物に留まらない。むしろ企業の存在理由、すなわち顧客に対するサービスの追求であり、最終的には企業のさらなる便益に転換されていく。

結局のところ、より満足した顧客はよりロイヤルティの高い顧客となり、そのような顧客の定着率が上がれば、事業の成長率も上がる。収益と顧客体験の向上という二重の目的のため、機械学習の活用により早く着手すれば、企業はより早く、この好循環を活かせるようになるのである。

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