プレゼンの説得力を高める「ストーリー」のつくり方

サマリー:チャートのアイデアを聴衆の心に届かせるためには、「ストーリーを語る」ことが不可欠である。ストーリーは聴衆の共感や理解を高め、プレゼンテーションに説得力を与えるからだ。今回は、ストーリーを瞬時に伝えるビ.ジュアライゼーションの効果を活用した、ストーリーテリングのテクニックを紹介する。本稿は、『ハーバード・ビジネス・レビュー』のシニアエディターがデータ可視化について持てる知識とノウハウをすべて詰め込んだ決定版『ハーバード・ビジネス・レビュー流 データビジュアライゼーション』(ダイヤモンド社)の一部を抜粋し、紹介したものである。

心に届かせる「ストーリーテリング」

ふざけるのが好きなあなたの上司が会議室に入ってきて、よく知られたこの曲を歌い出す。「ABCDEFG~、HIJK」。ここでストップし、黙ってしまった。その場にいた多くの人がストレスを感じるだろう。メロディーを最後まで終わらせなければならないように感じ、心を捉われてしまう。何も手につかない。とうとう誰かが「LMNOP」と続けるか、残りすべて歌い切るだろう。

チャートにもメロディー(線の形やドットの散らばり方)があると考えると、同じように聴衆の心を捉えることができる。ビジュアルインフォメーションをすべて明らかにしない限り、メロディーは完結しない。

その最も簡単な方法は、先の上司がアルファベットの歌でしたように、本来止まるべき地点の前で、いったん止まって間を置くことだ。「これは前四半期の顧客からの評価です。そして今期の評価は(間を置く)……」。短く、予期せぬ沈黙は期待感を生み、人々は落書きから顔を上げたり、自分のデバイスの画面から目を離したりして、ビジュアルに集中し、結論を待つ。

このテクニックは相互作用を生む。聴衆はメロディーがどう完結するのか考えずにはいられず、空所を埋めようとする。それを促そう。収益のチャートを3パターン示し、答えを明らかにする前にどれが現実を示しているか考えてもらってもいい。全体の収益に占める製品の内訳を示す棒グラフで、ラベルを隠して各棒がどの製品か当ててもらうこともできる。カギとなる情報を伏せて発表したのが下記のスロープグラフで、以下はその原稿だ。

(5つ数える)「女性の学位取得者が40%に満たない大学の専攻は含まれていません。このチャートは大きな進歩を示しています。しかし、コンピュータサイエンスと工学はまだ表示していません」(間を置く)

プレゼンターはさらなる情報を見せることを示唆しており、聴衆はその2つの専攻がどこに位置するのかを知りたくなる。多くの人はすでに推測している(あなたもそうだろう)。プレゼンターは「どこに位置すると思いますか」と言って推測を促す。そして、間を置く時間が長くなるほど人々は答えを求め、メロディーが先に進む前にそれを完結させたくなる。

ストレスを生み出す方法は他にもある。時間と距離を使うと、広さや値の大きさを伝えやすい。

シンプルで効果的な例がdistancetomars.comというサイトで、地球の直径を100ピクセルと仮定し、星が飛び交う宇宙空間を地球から火星まで「旅する」アニメーションのビジュアライゼーションだ。地球を離れて数秒後に3000ピクセル離れた月に到着する。そして再び出発(光の速さの3倍で移動)。10秒ほどすると、いつ火星に「到着」するかわからないためストレスが高まる。さらに20秒、30秒が過ぎる。時間がたつにつれ先が読めない不透明感が募る。火星は極めて遠いという趣旨をすでに理解していても、そこに着きたいと思う。

最終的に火星に到着するまで1分ほどかかる。長いように感じるが、イライラして「もう言いたいことはわかったよ」とは思わせない程度の長さだ。これは、ストレスを生み出す際の2つの注意点のうちの1つで、ストレスを作ったらすぐにそれを解消しなければならない。

例えば、先ほどのコンピュータサイエンスと工学の学位取得者の女性の割合がまだわからないことにイライラしていないだろうか。あるいはもう忘れてしまったか。私がストレスの解消に時間をかけすぎて、もはや気が逸れてしまったかもしれない。今となっては効果は低いが、答えは以下の通りだ。

私が間合いをうまく使っていたら、もっと効果的な答えの明かし方になっていただろう。2つ目の注意点は、答えを明かすテクニックは伝えるアイデアが驚きに値するからこそ効果があるため、慎重に使うことだ。驚きのない典型的な四半期収益のチャートは、ストレスを生むのには適さない。あらゆるビジュアルで間を置き推測を促すのは、うんざりされるのが関の山だ。

ストレスを生む効果が最もあるのは、答えが印象的な場合だ。女性の学位の答えも予想外のものだ。あなたがコンピュータサイエンスの学位取得者が減っていると確信していたとしても、「ここまで」減っていると思っただろうか。「半減」していると予想しただろうか。

伝える情報が圧倒的な場合にも、このテクニックは効果的だ。『ワシントン・ポスト』のジャーナリスト、クリストファー・イングラムは暴風雨によってヒューストンの貯水池に流れ込んだ水量を読者に伝えるためにこのテクニックを使った。その水量を理解するのは困難なため、イングラムは標準的な体積の単位である1エーカーフィートの水と1人の人間という、関連付けやすい2つの比較から始め、徐々に比較対象を大きくしていった。

「かなりの量だろう」と、イングラムは最初の比較について述べる。しかし、これよりも圧倒される量になっていくことは明らかだ。

2つ目の比較の後に「まだ正しい尺度ではない」と彼は続ける。比較が進むごとに読者のストレスが高まっていくが、ここで語られる水量の規模の大きさが徐々に理解されていく。こうした断続的なレファレンスポイントによって、読者は水量がどれほど「常軌を逸している」のかと考えさせられる。

「近づいてきた」と、3つ目の比較についてイングラムは書き、このあたりで我々は彼にじらされていると感じる。メロディーを終わらせたい。ヒューストンの貯水池にいったいどれだけの水が流れ込んだのか。

ついにそれが明かされる。6400万人分の1年間の水の供給量に匹敵するとイングラムは説明する。ストーリー仕立てで説明したことで、災害の規模が理解しやすくなっている。

ビフォー・アフターのチャートもストレスを生むテクニックが有効だ。住居をリフォームするテレビ番組でも、荒れ果てたバスルームが驚くほど魅力的に生まれ変わっていく様子に我々は見入ってしまう。

科学者らが「ルアー法」と呼ぶ、おとりもこのテクニックに適している。

(5つ数えて間を置く)「ロボットが我々の仕事を奪いつつありますよね。自動化されたシステムが労働者を不要にします。そのトレンドを見るため、過去15年間の10カ国における製造業の雇用喪失とロボットの導入数を比較しました。どんなチャートになると思いますか。(間を置き、答えが帰ってくるのを待つ)そうですね。ロボットの導入が増えると雇用が減少します。このような感じでしょうか」

(5つ数えて間を置き、同意を待ち、うなずく)「正しいように見えますね。さて、実際のデータをプロットすると、こうなりました」(3つ数えて間を置く)

「我々は間違っていました。相関関係はまったくありません。実際には、製造業の雇用が最も失われた4国のうち、英国とスウェーデンは他国に比べてロボットの導入が非常に遅れています」

この3つのチャートでは、予測を示した中央のチャートが人々をアイデアに引き付けるおとりとなっている。実際の結果はまったく異なり、聴衆はどういうわけなのかと考えざるを得ない。「なぜ」予測と違うのか。この矛盾が、修正しなければならないという気持ちを生む。矛盾が大きいほど解消したくなる。このようなビジュアルの証拠に直面すると、思い込みや深い信念さえも固持するのが難しくなる。これは、説得力の強いプレゼンのテクニックだ。

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