DevRelで重要な役割を担う「テクノロジーエバンジェリスト」「デベロッパーアドボケイト」とは

はじめに

DevRelを行う上で、重要な役割を担うのが「テクノロジーエバンジェリスト」(以下、エバンジェリスト)や「デベロッパーアドボケイト」(以下、単にアドボケイト)です。エバンジェリストやアドボケイトは、DevRelの専門家として企業(またはサービス)と開発者の間の窓口になります。

今回はこのエバンジェリストやアドボケイト(以下、エバンジェリストなど)に焦点を当てて、彼らがどういった人たちで、どのような仕事をしているのかを紹介します。

「エバンジェリスト」と「アドボケイト」の違い

実質的に両者に大きな違いはありません。企業によって呼び方が違うくらいかと思います。2015年くらいにDevRelという言葉が出始めた頃は、エバンジェリストという肩書きが多かったように思います。最近ではアドボケイトという肩書きの方が多いです。

エバンジェリストは開発者の前に立って自社サービスの良さを喧伝し、開発者を導くイメージがあります。それに対して、アドボケイトは開発者の横に並び、彼らを鼓舞したり、彼らと伴走してプロダクト開発を助けるイメージです。DevRelとしては開発者に寄り添う姿勢が大事なので、アドボケイトが増えているのかなと感じます。

とは言え、アドボケイトも登壇して話をしますし、エバンジェリストも開発者のサポートに回ることは多いです。会社によって求められるタスクは異なりますが、本質的には似たようなものだと言えます。

主なタスク

エバンジェリストなどの主なタスクとしては、以下のようになものがあります。なお、これらすべてを1人で行う訳ではないですし、他にもコミュニティタスクが重視されるケースなどもあります。あくまでも一例として参考にしてください。

コンテンツの作成

ひと言で「コンテンツ」と言っても、その中身はいくつかに分かれます。

  • テキスト
    ブログ記事の執筆が挙げられます。自社製品を使ったデモやサンプル、Tipsなどを記事にします。純粋な技術記事を書く場合もあります。
  • 動画
    配信チャンネルとしてはYouTubeかTwitchが多いです。
  • スライド
    登壇に利用するスライドを作るのも仕事です。

コミュニティへの参加

外部のコミュニティへの参加は、開発者とのつながりを作る上で大事な施策です。この場合は、各地域にいるエバンジェリストなどがイベントに参加します。自社がフォーカスしている技術領域に関するイベントを選んで参加します。

イベントで登壇する機会があれば積極的に登壇します(LT含め)。自社サービスの宣伝は控え、参加者の興味を引ける話をします。もちろん、その中に自社サービスの話をいかに盛り込むか、というのがエバンジェリストの腕の見せどころになります。

コミュニティへの深度を深める場合、運営メンバーになるケースも少なくありません。その技術の発展にコミュニティメンバーとして参画し、運営メンバーとしてコミュニティにおけるプレゼンスも高められます。

コミュニティカンファレンスへの参加

コミュニティ主導のカンファレンスには、いくつかの参加形態があります。

  • 運営メンバーとして
  • 1参加者として
  • 登壇者として
  • スポンサーとして

運営メンバーの場合、運営メンバーとして参加者(開発者)に楽しんでもらえるように努力が必要です。参加者がイベントを楽しんでくれれば、それはコミュニティへのロイヤリティ向上につながります。また、ファシリテーションに注力すれば、個人として覚えてもらえるかも知れません。

カンファレンスブース

1参加者としての参加であれば、それはコミュニティへの参加と大差はありません。参加者と積極的に会話し、彼らの課題感を学びましょう。登壇者の場合、参加者から話しかけてもらえる可能性が高く、よりコミュニケーションしやすくなります。セッションの中で少しでも自社サービスを取り上げられれば、宣伝にもつながるでしょう。

スポンサーの場合、ブースに立つのもエバンジェリストの役割となります。ブースに訪れる参加者と対話し、ソーシャルメディアでつながったり、彼らの課題感を知る機会になるでしょう。

自社カンファレンスへの参加

自社でカンファレンスを実施する場合、多少体裁が異なります。登壇したり、ブースに立ったりするのはコミュニティカンファレンスと同じですが、他にもいくつか役割があります。

外資系企業には、日本から来ているクライアントに対して、日本のエバンジェリストがツアー対応を行うことが多々あります。海外のカンファレンスに単独で行くのは不安ですが、エバンジェリストがそのサポートとして随行します。英語のセッションを日本語に訳したものを提供したり、セッション概要をまとめてレポートに使える材料として送ったりもします。

カンファレンスの一幕

また、ベンダーのカンファレンスでは、中の人に直接質問できるのが魅力です。WWDCやGoogle I/O、Twilio Signalなど、多くのカンファレンスでベンダーの人に質問できるブースが用意されます。こうしたブースでの開発者対応にエバンジェリストがかり出されるケースは多いです。

この他、EXPOなども同様に訪問者対応を求められます。

デモアプリの作成

エバンジェリストはコードを書かないと思われがちですが、そんなことはありません。実プロダクトのコードに触れる機会は多くありませんが、コードを書く機会はあります。最も多いのはデモアプリの作成です。デモアプリはブログ記事のコンテンツとして使ったり、ハンズオンの材料として使われます。デモアプリは自社サービスを利用するものであり、そのショーケースとして最適です。

こうしたデモアプリやハンズオン用のコンテンツは、初学者でも分かりやすいようなコーディングが求められます。かといって、あまり初学者過ぎると、熟練者が見たときに「残念なコードだ」と思われかねません。どちらにとっても読みやすく、理解しやすいコードを書ける技術力が求められます。

Q&A対応

開発者がコーディングで困ったときによく使われるのはStack OverflowやTeratailなどでしょう。サービスによってはGitHubのIssueが使われることもあります。そうした開発者から寄せられた質問に一次対応するのもエバンジェリストのタスクです。

Teratail

まず開発者にとっての窓口として対応し、内部で確認が必要なものはエスカレーションします。チームで確認した後、回答もエバンジェリストが行うケースもあります。こうしてエバンジェリストを間に挟むことで、いくつかのメリットがあります。

  • 初学者の開発者にとっても分かりやすいように回答を行える
  • エバンジェリストにとっても学びになり、同じような質問にすぐ回答できるようになる

教育

エバンジェリストなどが相対する開発者の多くは、技術的経験の多くない人たちになります。少なくとも、自社サービスについては詳しくない人たちです。そうした人たちに分かりやすく丁寧な説明が求められます。

そのため、教育者としての一面も求められます。学校とは違うので、意欲の高い人たちを相手にするのですが、技術的経験はバラツキがあります。持っている技術的バックグラウンドもさまざまです。そうした人たちに対して誰もが置いてけぼりにならないように、かつ着実な成長が歩めるように伴走しなければなりません。

チームへのフィードバック

エバンジェリストは社外での活動が多く、かつユーザーに相対することも多い職業です。そこで得られた知見やユーザーからの意見をまとめ、開発チームにフィードバックします。ユーザーの要望を単に右から左に流すだけでなく、なぜその要望が出ているのか、技術トレンドなども踏まえた上でフィードバックを行います。

すべてのユーザーの要望が叶えられる訳ではありませんし、ユーザーの要望はごく限られた範囲にしか影響しないものになっているケースもあります。しかし、ユーザーの意見は貴重であり、その内容をチームで共有・検討する必要性はあるでしょう。

エバンジェリストやアドボケイトに向く人とは

エバンジェリストやアドボケイトの仕事がどういうものか分かってもらった上で、この職業に向いている人にはどういった適性があるのでしょうか。ここでは、その適正を4つに分けて紹介します。

開発・技術が好き

まず、エバンジェリストになっても元々はデベロッパーなので、開発が好きでなければなりません。コーディングが好きで、デモアプリなどを作るのが好きな方が向いています。

また、技術全般が好きな方もお勧めです。技術は日進月歩で進化しており、新しい技術が次々と生まれています。そうした技術のキャッチアップが好きで、常に最新トレンドを追いかけ続けられる人が良いでしょう。

教えるのが好き

前述の教育やQ&A対応の側面です。エバンジェリストは開発者に寄り添い、伴走して彼らのプロダクト開発をサポートします。開発者はさまざまなポイントで躓きます。もちろん、躓かないよう舗装する(完璧なSDKを用意するなど)のも大事ですが、必ずエラーは発生します。

そのときにすぐに助けてあげて、彼らが同じ躓きに遭わないようにサポートしましょう。ただし、魚を食べたい人に魚(答え)をあげるのではなく、釣り方(解決法)を教えてあげるのです。そうすると、また魚が食べたくなっても、彼らは自分で魚を釣って空腹を満たせます。魚をあげてしまうと、別な問題にぶつかった際に、また答えだけを求めてしまうでしょう。

教育は答えをあげるだけでなく、その考え方や解決する道筋を提供することも大事です。

自社サービスが好き

エバンジェリストになる一番の要素は、自社が提供しているサービスを好きであることです。技術力よりも、愛情の方が大事かも知れません。好きなサービスだからこそ、その魅力をアピールできるのです。

マイクロソフトのエバンジェリストであるちょまどさんは「お仕事は推しごとです」と言っています。これはまさにその通りで、自分が好きなプロダクトや技術だからこそ、みんなに知ってほしい、使ってほしいと思えるのです。

コミュニケーションが好き

エバンジェリストになったら、開発者とのコミュニケーションは欠かせません。そもそもDevRelはDeveloper Relationsで、開発者との関係性構築を意味します。ブログ記事や動画などの発信だけでは関係性の構築は見込めず、片手落ちです。相互のコミュニケーションこそ関係性構築の第一歩になります。

そのため、コミュニケーションを嫌がるエバンジェリストやアドボケイトはいないでしょう。開発者のイベントに参加したり、カンファレンスへ参加する、オンラインのSlackやDiscordなどを通じたコミュニケーションによって、開発者を知る努力をしなければなりません。

おわりに

ここ数年、日本でもエバンジェリストやアドボケイトの求職が増えてきています。今回挙げたような素養のある方で、紹介した仕事内容に興味がある方はぜひチャレンジしてみてください。

個人的には、開発者のキャリアの1つとしてお勧めです。マーケティング知識と開発者の知識、コミュニケーションスキルを活かして素敵なエバンジェリストやアドボケイトになってください。

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