「Small Smart Nations─小さく賢く機敏な国々」の成果が示すもの:第1回

1989年から始まった「IMD世界競争力ランキング」。日本は当初から1993年にかけて5年連続で世界トップの座に君臨していた。しかしその後、日本の競争力への評価は坂道を転がるように下がり続け、近年は30位台が定位置である。凋落の要因はさまざまあるが、日本の企業や経営者は改めて現状を直視し、デジタルの時代に存続し成長を遂げるためのアクションが急務である。日本のソーシャルイノベーション推進に取り組むデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が、この国の未来にあるべき姿を綴った「VISION PAPER 2」の全内容を、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進者たるITリーダーに向けて連載の形でお届けする。

未来に向けて我々は何をすべきか?

──DBIC VISION PAPER 2を通じてIT Leaders読者に訴えたいこと

特定非営利法人CeFIL 副理事長
デジタルビジネスイノベーションセンター共同設立者 副代表
西野 弘

2022年5月、スイスIMDから2022年の「IMD世界競争力ランキング」が発表され、日本は63カ国中34位。前年よりさらにランキングを下げる形となった。かつては、このランキングで連続1位を取っていた日本がここまで下落するとは想像もしていなかった(関連記事IMD世界競争力ランキング2022、デンマークが北欧初の首位、日本は3つ下げて34位に)。

しかしながら、問題の本質は、ランキングの低下に慣れてしまい、我々が相変わらずの考えと行動をとっていることである。

我々が運営するデジタルビジネスイノベーションセンター(DBIC)には、大手企業が30社ほど集まっている。6年前、まだデジタルトランスフォーメーション(DX)の言葉もない頃、来たるデジタル時代に、大手企業が競争力を上げるにはどのような仕組みと人材/人財が必要で、どのように変革しているかのモデルを考え、実践するために設立した。

設立当初より、シンガポールや北欧に注目して視察などを重ね、先のIMDとは連携を結んでいる。その過程で、世界的なDXの権威となったマイケル・ウェイド(Michael Wade)教授のプログラムを日本で最初に取り入れ、メンバー企業幹部の育成を実施している。

設立から4年を経て、2020年にDBIC VISION PAPER 1を発刊、国内で初めてIMD世界競争力ランキングおよびデジタル競争力ランキングから見える日本の課題をつぶさに分析を行った。得られた洞察は、IMDの協力も得ながら、DBICからの提言として発信した。

発刊の動機は、日本のDXが本質的な変容に向かわずに、RPAなどのソリューションの導入に終始してしまっている状況を目の当たりにしたこと。今まで歩いてきた道と同じような過ちを犯している現状に大変な危惧を持ったのである。2年前の発刊となるが、VISION PAPER 1で提示した種々の洞察には普遍性があると自負している。DBICのWebサイトからダウンロード、もしくは本誌IT Leadersの連載記事としても、下記のリンクから無料でまとめて読むことができる。未読の方はぜひご一読いただきたいと思う。

●連載:DBIC VISION PAPER 1(全8回、2020年9月~12月)
DX/イノベーションの推進者へ、未来に向けての提言─DBICビジョンペーパー

ガンバリズムはとうに終焉、真にスマートな組織と個人へ

そして2022年、DBICは「VISION PAPER 2」を発刊した。2020年初頭に発生し、今もなお全世界の社会・経済・生活に深刻な影響を及ぼし続ける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は我々にニューノーマルの価値転換を促したが、先のDXの進展も含めて日本の状況は依然として芳しくない。

昭和で数えれば、2025年は昭和100年となるが、この国は、平成はおろか昭和を引きずっていないだろうか。遅くともあと3年の間に令和に転換できないと、日本の将来は間違いなく暗い方向へ進むと肌で感じている。

振り返れば、昭和は正に「ガンバリズム」の時代だった。頑張り過ぎて戦争も起こしたが、その復興も私の父の世代の頑張り再興をはたしたのは事実だ。ところが、この20年間はどうか。日本のガンバリズムではまったく立ち行かなくなり、そのことを日本人自身が気づかず、学びもせずに進んできてしまったことがツケとなり、将来を危うくしているのである。

コロナ禍、そしてウクライナの戦火など、世界は予測不能の時代に入っている。大事なのは、危機に直面した時にどれだけスマートに対応できるか否か──。そこの差が、国、企業、そして個人の将来につながっていく。

多くのことを目の当たりにしてきたが、IMDの世界競争力ランキングを見ると、さらに愕然とする。最も深刻な事実は、これまで多額の投資を行ってきたのにもかかわらず、日本の「デジタル敗戦」は決定的であるということだ。2022年度の世界競争力ランキングのトップ4、デンマーク、スイス、シンガポール、スウェーデン、いずれも人口1000万人以下である。これらの国がいかにして競争力を高めたのか。その理由についてもVISION PAPER 2で言及しているので、そこから日本が抱える課題を考察していただければと思う。

さまざまな現状を直視しつつ、自組織でITやDXを推進している皆さんにぜひ考えていただきたいのが「スマートな組織」とは何か? ということ。頑張りだけではもう乗り越えられない。真にスマートな方法が求められている。この数年、皆さんが実感したに違いないシーンをいくつか挙げてみる。

●契約書や稟議書などに押印すること
●ファクスで仕事をすること(もう令和だよ!)
●集合・対面が前提の会議体
●PoCばかりやって本番に進めないPoC症候群
●セキュリティ上の理由で有用なツールが使えないこと
●PPAP、逐一パスワード付きで文書を送ること
●非効率ばかりなのに、CXやデザインシンキングを!などと言うこと
●「何かあったらどうする?」が口癖で行動しない役員

このようなシーンを散見する。政府・自治体も企業も、組織も個人も、スマートとはかけ離れた非合理・非効率に陥っているのが今の日本である。今一度、スマートとは何かを考え、組織と個人が変容し、次の変革に臨むしか道はない。多くの読者がビジョンペーパー1、2を読んでいただき、組織で議論を交わし、変革の一助としていただければ幸いである。

(以下、VISION PAPER 2 本編に続く)


特定非営利法人CeFIL 副理事長
デジタルビジネスイノベーションセンター共同設立者 副代表
西野 弘

VISION PAPER 2作成の経緯と目的

DBICは2020年、コロナ禍の中、7月に第1弾のVISION PAPER「未来へ向けての提言」を発刊した。

DBICも今年の5月で、既に設立5周年を迎えた。多くの会員企業とさまざまな活動をしてきたが、残念ながらまだまだ大手企業の本格的な変革への確かな光は見えてきてはいないのが現実である。前回のVISION PAPERは設立以来提携関係にあるスイスのIMDの国際的なランキングを基に、IMD北東アジア代表の高津尚志氏にご参画いただき、DBIC代表の横塚と私で作成した。

昨年のVISION PAPERを作成する終盤で気が付いたのが、IMDのランキングに留まらず、他の多くのグローバルランキングでも何故か人口1000万人以下の国々がこの10年間どんどんランキングを上昇させて健闘していることであった。

その中でも、IMDの2021年の3つのランキングの平均順位のトップから4カ国である、1位デンマーク(580万人)、2位スイス (860万人)、3位シンガポール(590万人)、4位スウェーデン(1000万人)の4カ国は特にそれが目覚ましいことに気が付いた。4カ国の人口はすべて併せても約3000万人であるが、そこから生まれている経済的価値と人財価値そして一人ひとりの国民の満足度等々の探索を今回のVISION PAPER 2で試みた。

今までの日本の常識では「規模が大きいことがすべてに有利に働く」というように思われていた人が多いのではないだろうか。

そこで、我々日本人がこの4カ国の躍進の理由についてどれだけ理解しているのかと考えてみた。専門家をはじめ諸賢の方々にも聞いてみたが、4カ国を横串で分析し理解をされている方は中々いない。たまたま何かのご縁で、この4カ国中の1カ国、または2カ国を多少ご理解されてはいる。しかしながら4カ国を通しては、深く分析した人もいなければ、巷間に研究レポートも著作もないことに気が付いた。

そこで我々は、VISION PAPER 2のテーマの焦点を、この小さいが賢く機敏な国々──スモール・スマート・ネーションズ(Small Smart Nations:SSNs)と命名し、その理解を進める内容を構想した。そして、VISION PAPER 1で提唱した、日本自身の「グレートリセット」でやるべきことなどをより明確化したいと考えた。

そして、私は幸い、この4カ国には過去の人生で、SSNsに多少の関わりがあった。次の章で述べよう。

学生時代に遡るスマート・ネーションズへの興味

私は早稲田大学在学中に当時の総長の計らいでスウェーデンとデンマークに1年半ほど留学をする機会を得た。当時はちょうど、2022年に再結成が決まったABBA(スウェーデンのポップスグループ)が世界中で人気だった頃である。そうした縁もあって、大学を卒業し仕事を得てからも、北欧諸国に加えてスイスやシンガポールにも何度も訪問する機会があったが、それぞれの競争力の源泉を深く考えたことはなかった。

DBICとしても、これまで日本企業の注目を集めていたシリコンバレーを始めとした米国よりも、シンガポールや北欧諸国に注目してきており、設立以来、欧州へは何度も訪問しさまざまなプログラムを実施してきた。

そのようなな経緯もあり、今回、VISION PAPERの第2弾として、ぜひこの4カ国を一度分析してみたいと思った。ランキングが高い秘密を探ることに加え、そこから学ぶことがあればそれを明らかにし、さらには一緒にできることがあれば考える──。そのような狙いを持って、VISION PAPER 2に取り組むに至ったわけである。

●Next:日本より遥かに先進! Small Smart Nationsの知られざる事実

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【次ページ】「SSNsの事実」を知っていますか?

https://it.impress.co.jp/articles/-/23646

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