「SAS Innovate」でグッドナイト博士が語ったViyaの今後、ChatGPTとの関係、AI倫理

 SAS Instituteは5月9日から2日間、米フロリダ州オーランドで「SAS Innovate」を開催した。初日の基調講演では、共同創業者兼CEOのジム・グッドナイト(Jim Goodnight)博士、CTOのブライアン・ハリス(Bryan Harris)氏が登壇。「30倍高速」とされるViyaと今後の投資戦略、ChatGPTとの関係、AI倫理などの内容を速報する。

変革期を迎えたSAS

これまでSASは「SAS Global Forum」として年次イベントを開催してきたが、Innovateはユーザー層を経営層やビジネスユーザーに特化したイベントという位置付けとなる(データサイエンティストや技術者向けには「SAS Explore」を開催する)。今回のSAS Innovateはグローバルで初のリアル開催となり、1000人以上が登録した。

AIの利用が急速に進みつつある中、1976年の設立以来アナリティクスを生業としてきたのがSASだ。そのSASが変化の時期を迎えている。

製品では、AIとクラウドの時代に向けて、2016年にAIとアナリティクスのプラットフォーム「SAS Viya」を発表、従来の「SAS 9」からの移行を進めている。

組織面では、2024年までにIPOを行う計画を明らかにしている。学生時代の研究から起業して以来、CEOとして同社を率いてきたのがGoodnight博士。創業来毎年黒字という偉業を成し遂げるなど、技術だけでなく経営者としての手腕も知られている。転職が頻繁におこる米国において、SASは従業員が働きやすい企業としても知られているが、5月に入り一部の米国外のオフィスを閉鎖することも明らかになった。

SAS Institute 共同創業者兼CEO Jim Goodnight博士

「SASとはどのような企業か、市場におけるSASの価値は何か?」とHarris氏は自問しながら、「SASは、クラウドネイティブのAIとアナリティクスのカンパニーだ」と言い切る。主力製品となるViyaは、「市場において、最も高速で、生産性が高いAIとアナリティクスのプラットフォームだ。クラウドでも、オンプレミスでも、エッジでも、顧客が必要とするところで動く」という。

SAS Institute CTO Bryan Harris氏

「SAS Viya」の今後の展開

変化の激しい現在こそ、Viyaを活用する意味がある、とGoodnight博士は話す。「スピードとアジリティを持って事業運営する必要がある。そのためには、データとモデルを最大限に活用するテクノロジーが必要だ」とGoodnight博士、「(Viyaは)さまざまな言語に対応しており、あらゆるスキルのユーザーが、自分に必要な答えを得られる。企業は投資も保護できる」と価値を説明した。

Viyaの業界別ソリューションに3年で10億ドルを投資

そのViyaを土台とした業界別ソリューションを、今後3年で10億ドルを投じて開発することも発表した。金融、ヘルスケア、製造などの業界で養った専門知識を活かし、「データサイエンティストがいなくても容易にアナリティクスとAIを活用できるようにする」とGoodnight博士。

会期中、SAS Viyaを土台とした業界別ソリューションを構築することが発表された

会期中、SAS Viyaを土台とした業界別ソリューションを構築することが発表された

Microsoftと連携しジェネレーティブAIとの統合も

なお、Goodnight博士とHarris氏は、話題の「ChatGPT」(OpenAIが開発するジェネレーティブAI)にも触れた。ChatGPTが出す答えは「完璧ではない」としながらも、「ジェネレーティブAIは将来の技術において一定の役割を果たすことになる。我々はMicrosoftと提携しており、ユースケースやジェネレーティブAIの統合について可能性を模索している」とGoodnight博士。これを、「責任のある方法で行う」「46年にわたって構築した顧客との信頼関係を強化する」と約束した。

AI・アナリティクスの3つの条件

イベントのテーマは、「outpacing tommorow(明日を追い越す)」。

「世界は大きなディスラプションを受けており、情報は溢れかえり、人間が扱うことができる範囲を超えている。データドリブンでは追いつかない。AIを活用して、生産性と意思決定をスケールさせる必要がある」(Harris氏)。

それを支えるのが、SASのAI・アナリティクスの3つの特徴となる「高い生産性」「パフォーマンス」「信頼性」だ。

生産性:AI・アナリティクスのライフサイクルを自動化

1つ目のAIの生産性とは、「運用環境にあるモデルの意思決定」とHarris氏はいう。「Viyaは、データパイプラインからモデル開発、モデル管理と、AIとアナリティクスのライフサイクルをフルで自動化する」とHarris氏。

ViyaはAIのライフサイクル自動化により、高い生産性が得られるという
ViyaはAIのライフサイクル自動化により、高い生産性が得られるという

パフォーマンス:オープンソースとの比較では30倍高速

2つ目のAIのパフォーマンスは、イベントで大きなフォーカスがあたった部分だ。

Harris氏は、クラウドのコストが問題に上がり始めているとし、AIが利用するコンピュートとストレージでのSASの取り組みを紹介した。

SASは2年前、10億ドルを投じてクラウドの経済性と最適化のプログラムを展開すると発表以来、研究開発部門でSASソフトウェアがクラウドで動くためのコスト性能の最適化を強化し続けてきた。その結果、「機械学習のアルゴリズムは2021年比で16倍高速になった」と胸を張る。

この日SASは、商用製品、それにH20、SparkMLなどのオープンソースと比較すると、Viyaは平均して30倍高速であるという独立機関Futurum Groupの調査を発表した。「つまり、コストも30分の1になる」(Harris氏)。Goodnight博士も、「クラウドでは、フリーソフトウェアは最も高価な選択肢になる」と述べた。

SAS Viyaと競合とのパフォーマンス比較

大規模なデータセットと複雑なモデルでの実行時には、326倍もの差があることも観測されたという。基調講演後、Futurum GroupのアナリストRuss Fellows氏は記者向けの席で、「すべてのケースで精度は同じだった。違いは実行のスピード、効率よくスケールできるか」と話した。

ストレージでは、SingleStore(元MemSQL、2020年に変更)との提携がポイントとなる。SingleStoreはクラウドネイティブの分散型SQLデータベースで、トランザクションデータと分析の両方のワークロードを同一エンジンで動かすことができる。それだけでなく、「オンプレの実装も可能。我々の顧客の中には、すべてのデータをクラウドに動かすことができない顧客もおり、オンプレのサポートは重要なポイント」とHarris氏は述べた。

SASとSingleStoreの提携による新ソリューション「SAS Viya with SingleStore」は一般提供を開始している。圧縮技術などにより「ストレージのコストを60〜80%削減できる」という。

Harris氏は、Microsoft、Google、Snowflake、Amazonなどとの提携も継続するとしながら、SASとSingleStoreの組み合わせは「次世代のアナリティクスアーキテクチャ」と述べた。

SingleStoreとの提携により、Viyaに最適化されたデータレイクを持つ
SingleStoreとの提携により、Viyaに最適化されたデータレイクを持つ

信頼性:数学に根ざした将来予測

3つ目の信頼について、Harris氏は「全員が使えるAIを適用するにあたって、AIは重要」「結果を信頼できるようにする必要がある」と話す。

「AIは数学に根ざしており、過去を学び、将来を予測するというシンプルなもの。だが、過去のデータにバイアスがあれば、AIもバイアスのある答えを出し、意図せぬ結果を招く」(Harris氏)。

AI倫理と責任あるイノベーション

SASのAI倫理、信頼性への取り組み
SASのAI倫理、信頼性への取り組み

SASは以前からAI倫理に取り組んでおり、人間中心のAIを掲げてきた。Harris氏は「我々は“責任あるイノベーション”を大事にしている」「意思決定は人のためであり、説明ができ、透明性があり、フェアである必要がある」とSASの指針を説明した。

SASでバイスプレジデント兼データ倫理実践(DEP)担当ディレクターを務めるReggie Townsend氏は記者向けの説明会で、ChatGPT以来、各社が次々とAI機能をリリースするなど加熱する状況に対し、「冷静さが必要」と呼びかける。Townsend氏は全米AI諮問委員会(NAIAC)のメンバーを務め、SAS本社でNAIACの会合を開いた。EqualAIのボードも務めている。

SASは2022年に、責任あるイノベーションへのコミットを組織化し、一貫性のあるAI倫理のために、データ倫理、基本原則を確立している。これが「我々自身を固定している」とTownsend氏。

DEPはSASの教育チームと協力し、全社員向けのトレーニングを提供するなどの取り組みも進めているという。

Harris氏は、ネバダ州の住民に遺伝子検査を無料で提供するHealthy Nevada ProjectがViyaを使って200テラバイトもの遺伝子と健康情報を分析したり、数十億件もの医師のノートを分析することで、乳がん、卵巣がんなどの病気の早期発見につながっていることを紹介する。「AIが出す透明性と信頼性のある結果により、人々の命を救ったり健康を改善できる」とHarris氏。

最後にHarris氏は、最初の「SASとはどのような企業か、市場におけるSASの価値は何か?」という質問に戻る。そして、「SASのミッションは人間の生産性と意思決定をスケールするため、飽くなき追求を続けること。AIのパワーを、簡単に実現すること。これにより、明日を追い越すことを可能にする」と結んだ

Original Post>