富士通が新たなAI戦略として、自社で培ってきたAI技術と、新たな事業モデルとして注力する「Fujitsu Uvance」を融合してビジネス展開を図っていくことを表明した。この動き、ITサービスベンダーのこれからの方向性を示しているのではないか。
富士通の新たなAI戦略とは
まずは、富士通の新たなAI戦略の概要を紹介しておこう。
同社はかねて提供してきたAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」を新たにAIサービスとして商品化し、Fujitsu Uvanceの社会課題を解決するクロスインダストリーの4分野であるVerticalオファリングを中心に組み込んでいく。
さらにFujitsu Kozuchi、企業や業種を超えたデータ連携とトレーサビリティーを実現するブロックチェーン技術「Fujitsu Track and Trust」、「Palantir」や「Microsoft Azure」などのデータ基盤の3つで構成された新たなプラットフォーム「Fujitsu Data Intelligence PaaS」をFujitsu Uvanceのオファリングとしてサービス化し、テクノロジーコンサルティングサービスと併せて2024年3月末より国内、4月末より海外向けに提供していく構えだ。
Fujitsu Data Intelligence PaaSは、組織内外に散在する膨大なデータを意味の理解できる形に統合して意思決定を支援するもので、これにより、業種間で分断されたデータを統合的に連携・分析し、企業間のクロスインダストリーを活性化させ、これまでにない解決策や知見を導出することで、企業のサステナビリティートランスフォーメーション(SX)や社会課題解決を支援するとしている(図1)。
図1:富士通の新たなAI戦略の概要(出典:富士通の発表資料)
また、同社はスーパーコンピューター「富岳」を活用した大規模言語モデル(LLM)の並列計算学習手法の研究開発に加えて、独自にオープンLLMをベースに追加学習およびチューニングを実施して日本語性能を追求した特化型モデルを2023年12月に開発し、ベンチマーク性能でトップレベルを達成している。
現在は、画像やコード生成などの領域特化型の生成AIの独自開発、並びにこれらの生成AIやパートナー各社の複数の生成AIモデルを効率良く混合できる「生成AI混合技術」の開発も進めており、「GPT-4V」などの最先端の生成AIモデルと同等以上の精度を有することを確認しているという。
さらに現在、世界最大規模の10億ノードを越える関係性を検証できる当社独自のナレッジグラフと生成AI、データの確からしさを判別可能にするTrustable Internet技術を連携させることで、生成AIの課題である出力の不安定性を解消し、大規模かつ複雑な法規制や社内規則に準拠した正確な出力を保証する生成AIトラスト技術の開発も進めている。
これらの生成AI混合技術や生成AIトラスト技術に加えて、ローカルな環境でセキュアに利用可能なLLMについても、2024年4月から順次、同社の先端技術を無償で試せる「Fujitsu Research Portal」を通じて提供する予定だ(図2)。
図2:富士通が目指す生成AIモデルの全体像(出典:富士通の発表資料)
上記の話については、同社の執行役員 SEVP CTO, CPO 兼 システムプラットフォーム BG Co-HeadのVivek Mahajan(ヴィヴェック・マハジャン)氏と、執行役員SEVP グローバルビジネスソリューションビジネスグループ長 兼 全社 Fujitsu Uvance担当の高橋美波氏がオンラインで会見を開き、意気込みとともに詳細を説明した。会見の内容については関連記事をご覧いただくとして、以下では、この動きがITサービスベンダーのこれからの方向性を示しているのではないかという観点から、筆者なりの見方を示したい。
Tサービスベンダーの2つの方向性とは
特に今回の富士通の動きから、ITサービスベンダーにとっての「新たな事業モデル」と「生成AI活用法」といった2つの方向性が見て取れるのではないだろうか。
まず、新たな事業モデルについて参考になるのは、Fujitsu Uvanceだ。
- Gold-Age Movies
- B&W and Color TV Classics
- Hand-Picked Quality Films
- 1930s - 1980s Films
- Big Studio Favorites
- Save favorites list
- Resume watching where you left off
- Search by region, rating, decade
- Nested playlists
- User-friendly interface
改めてFujitsu Uvanceは、富士通が2021年に立ち上げたグローバルソリューションの事業ブランドで、2030年の社会の在るべき姿を起点に、その実現に向けて起こり得る社会課題をクロスインダストリーで解決するための取り組みを指す。具体的には、サステナブルな社会へ移行する「SX」をミッションに掲げ、社会課題を解決する4分野のインダストリー、それを支える3分野のテクノロジー基盤、合わせて7つの分野を重点領域として注力していくといった内容だ(図3)。
図3:Fujitsu Uvanceの全体像(出典:富士通の発表資料)
Fujitsu Uvanceで注目すべきは、事業モデルとして「業種業務軸の商品から社会課題軸のオファリングへ」「顧客IT部門の要件主導からイシュードリブン、コンサルティングリードへ」「個社対応のシステムインテグレーション(SI)からグローバル共通サービスへ」といった転換が必要になるのを明示していることだ。
要は、富士通にとってFujitsu Uvanceは事業モデルの転換なのだ。そして、ほかのITサービスベンダーにおいても今後、こうした事業モデルの転換が不可欠になってくるのではないかというのが、筆者の見立てだ。
もう1つの生成AI活用法について参考になるのは、上記で説明した生成AI混合技術だ。
筆者が会見の質疑応答で「生成AIの活用を推進している競合他社とは今後、どのような関係を築いていくのか」と聞いたところ、Mahajan氏は「当社は競合他社に対抗するのではなく、協業して混合技術を磨いていく」、高橋氏も「大いに連携していく。その中で当社の強みも見いだしながら、社会課題の解決に努めていきたい」と答えた。
生成AI混合技術は、要は複数のLLMを効率良く混合できる技術で、今後の生成AI活用の“肝”になると見られるだけに、ほかのITサービスベンダーにおいても対応が求められるだろう(写真1)。
写真1:オンライン会見で質問に答えるMahajan氏(左)と高橋氏
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最後に、富士通の新たなAI戦略に関して一言申し上げたい。同社はAI戦略の象徴として、生成AIをはじめとするAIを「わたしたちのバディ」と位置付けた。「バディ(Buddy)」は「相棒、親友、仲間」といった意味だ。AIの位置付けについては、Microsoftが「副操縦士」を意味する「コパイロット(Copilot)」を前面に打ち出してプロモーションを展開している。これについては富士通もバディと銘打って対抗する意識があるようだ。ならば、「相棒」でいいのではないか。グローバルで通じる言葉を、ということだろうが、「アイボー」をそのまま世界に広げようという姿勢の方が、日本発信の富士通らしいように思う。さしずめ、日本でバディと言っても多くの人がピンと来ないのではないか。再考の機会があれば検討してもらいたい。
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