セールスフォースが新たに打ち出すAI戦略とは

 顧客関係管理(CRM)市場をリードするSalesforceが、近く新たなAI戦略を打ち出す。キーワードは「自律エージェント」だ。現在注目を集めている生成AIの次に大きなインパクトをもたらす技術とみられている。同社はこの新技術を本格的に取り込むことでCRMをさらに強化し、業務アプリケーションソフトウェアベンダーとして一層存在感を高めていきたい考えだ。

AI革命の波は「生成」から「自律エージェント」へ

Salesforceが近く新たなAI戦略を打ち出すことは、同社の日本法人セールスフォース・ジャパンが先頃開いたデータ基盤「Salesforce Data Cloud」の最新動向についての記者説明会で明らかになった。データ基盤の最新動向については関連記事をご覧いただくとして、その説明役を担ったセールスフォース・ジャパン製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部シニアマネージャーの前野秀彰氏が、本題の前にAIの取り組みにおける最新動向として言及したものだ。本稿ではその内容にフォーカスを当てたい。

前野氏はまず、押し寄せるAI革命の波として図1を示した。(図1)AI革命の波(出典:セールスフォース・ジャパンの会見資料)

(図1)AI革命の波(出典:セールスフォース・ジャパンの会見資料)

第1波として10年ほど前に登場した「予測」を挙げ、「当社でも2016年に提供を開始した『Einstein』によって予測AIをCRMに取り込んでいった」という。第2波には2023年来注目されている「生成」を挙げ、同社のCRMには生成AIを積極的に取り込んでいることを強調した。その積極的な姿勢の理由について同氏は、「AIがビジネスにもたらす効果として、業務に活用した際の生産性向上がよく話題に上るが、当社ではお客さまとの関係を強化することにこそ最も効果があると考えている」と説明した。

そして、これからのAI革命の波として、第3波に「自律エージェント」、さらにその先の第4波として、人間と同様に対応できる「汎用AI」を挙げた。

では、Salesforceが近く新たに打ち出すAI戦略とはどのようなものか。それを1枚の絵で見せたのが、図2だ。まず、中央から上に向かっている矢印は「PREDICTIVE」、すなわち予測AIだ。売上予測やリードスコアリングなど「次に何をするべきか」を示してくれるAIである。(図2)Salesforceの新たなAI戦略(出典:セールスフォース・ジャパンの会見資料)

(図2)Salesforceの新たなAI戦略(出典:セールスフォース・ジャパンの会見資料)

また、中央から右下へ向かっている矢印は「GENERATIVE」、すなわち生成AIだ。サービスの返信やコードの記述など「業務をサポートして」というニーズに対応したAIである。

そして、中央から左下へ向かっている矢印は「AUTONOMOUS」、すなわち自律エージェントだ。営業計画の策定や顧客サポートなど「代わりに業務をお願い」というニーズに対応したAIである。

このAUTONOMOUS、すなわち自律エージェントの取り組みが、同社の新たなAI戦略である。

人間と自律エージェントの関係に懸念あり

Salesforceの新たなAI戦略に向けた自律エージェントサービスとして、ここ2カ月ほどの間に先行して発表されているものもある。図2の左上に記されている3つのサービスが、それだ。顧客データとビジネスデータに基づいた自然言語対応のインテリジェントな対話型インターフェイスによって迅速かつ正確な顧客対応を行える「Einstein Service Agent」、見込み客と自然言語で自律的に対話し、問い合わせへの対応や営業担当者とのミーティングを設定する「Einstein SDR Agent」、顧客役としてヒアリングやプレゼン、交渉時のシミュレーションを行い、営業担当者と自律的なロールプレイを実行する「Einstein Sales Coach Agent」である。

自律エージェントは、Gartnerが先頃発表した「生成AIのハイプ・サイクル:2024年」でも今後の注目技術として取り上げている。同社のディスティングイッシュト バイスプレジデントでアナリストのErick Brethenoux(エリック・ブレテヌー)氏は、「自律エージェントはAIの能力を大きく変化させるものだ。その独立したオペレーションと意思決定能力は、ビジネスオペレーションを改善し、カスタマーエクスペリエンスを向上させ、新しいプロダクトやサービスを創出する。これはコスト削減や競争力強化につながり、さらには従業員の役割を『作業者から監督者へ』とシフトする組織的なワークフォースの転換をもたらすだろう」との見方を示している。

また、Gartnerは「2028年までに生成AIサービスとのインタラクション(やりとり)の3分の1に、自律エージェントが使われるようになる」とも予測している。

Salesforceはこうした自律エージェントサービスを新たなAI戦略として、9月17~19日に米国サンフランシスコで開催する「Dreamforce 2024」で大々的に打ち出す予定だ。

自律エージェントは業務アプリケーションにとって、オペレーションを自動化する技術として大きなイノベーションになり得る。その際、Brethenoux氏の言うように人間は「作業者から監督者へ」とシフトすることが望ましいが、果たして本当にそうなるか。人間が自律エージェントに重要な意思決定まで頼ってしまうことにならないか。その行方を凝視する意味でも、業務アプリケーション大手のSalesforceが自律エージェントに本格的に取り組む動きに注目したい。

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