その顧客はチャットボットに嘘をついていないか

チャットボットやオンラインフォームをはじめとするデジタルインターフェースが、さまざまな顧客サービスで利用されるようになった。その結果、事実を偽り、自分が得をするように不正を働く顧客が増えている。人間が窓口の場合と異なり、ロボットに嘘をつくことに後ろめたさを感じることが少ないからだ。デジタルツールの導入を進める中で、企業はこの問題にどうすれば対処できるのか。本稿では、不正が起きやすい状況を理解したうえで、「嘘をつきそうな人」を特定して不正行為を防ぐための方策を論じる。


 アマゾンで商品を注文したとしよう。実際は商品が予定通りに届いているのに、届かなかったと言って返金を求めるようなことをしない理由は何だろうか。

あるいは、買ったばかりの新しい携帯電話を落として、画面を割ってしまったとする。新品に交換してもらおうと連絡すると、自動応答システムにつながり、届いた時点で壊れていたのか、それとも自分で破損させたのかと訊いてくる。あなたは何と答えるだろうか。

不正行為は、いまに始まったことではない。だが、チャットボットやオンラインフォームをはじめとするデジタルインターフェースが、さまざまな顧客サービスでより頻繁に利用されるようになり、自分の得になるよう嘘をつくことが、これまでになく容易になってきている。企業は、自動化ツールのメリットを享受しつつ、顧客に正直な対応を促すにはどうすればよいのか。

この問いに対する答えを追求するために、筆者は共同研究者とともに、2つの簡単な実験を行った。いずれも、被験者に影響を与えないやり方で正直な行動を測定するものだ。

まず、被験者にコインを10回投げるよう指示し、その結果に応じて賞金を与えると伝えた。一部の被験者には、ビデオ通話かチャットで調査員に結果を報告させて、他の被験者には、オンラインフォームか自動応答するボイスアシスタントボットを使って結果を報告させた。

被験者には、誰も見ていない場所でコイントスをさせたため、特定の被験者が嘘をついているかどうかはわからないが、集団としての不正率を推定することはできた(総合的に、コイントスの成功率は50%程度になるはずだ)。

その結果、被験者が人間に報告したコイントスの成功率は、平均54.5%だった。これは9%の不正率と推定できる。一方、機械に報告した場合の不正率は22%に上った。多少の不正はありうるとしても、被験者は、対デジタルシステムの場合、対人間の2倍以上もの確率で嘘をついていたのだ。また、9回や10回というありえないほど高い成功率を報告する、あからさまな不正は、対機械では対人間の3倍以上に上った。

次に筆者らは、フォローアップ調査を通じて、これらの結果をもたらす主な心理メカニズムとして、自分の対外的な評価に対する被験者自身の意識レベルが関係することを明らかにした。被験者自身が調査員にどう見られているかをどの程度気にしているか測定するために、一連の質問を行った結果、コイントスの結果を機械に報告した人は、人間に報告した人と比べて、調査員を身近に感じることはほとんどなく、結果として、自分の対外的な評価を気にすることが極端に少なかったのである。

そこで筆者らは、「デジタルレポーティングシステムを擬人化すれば、人間らしさを感じるようになって対外的評価に気を配り、嘘をつく可能性が低くなるのではないか」という仮説を立てた(筆者らの研究では、テキストのみでなく人間の声を用いた)。ところが、被験者は依然として同程度に嘘をついた。このことから、やり取りの相手が機械だとわかる限り、人間的な特徴を機械に与えても、それほど効果はないことが考えられる。

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