景気後退を前提に予算計画を策定するための4つの教訓

景気後退のシグナルが点滅する中、企業が事業計画や予算計画を策定するには、さまざまな困難が伴う。数多くの取捨選択に悩みながら、手をつけられるところから少しずつ経費を削減して何とかしのごうとしても、それでは不十分であり、むしろ困難をもたらす可能性さえある。このような状況で必要とされているのは、具体的なアクションだと筆者らは指摘する。堅調な企業でさえも、不確実性に対応せざるをえないなか、事業計画や予算計画の策定において講じるべき4つの措置を論じる。

堅調な企業も不確実性の荒海に飲まれるリスク

多くの経済指標が、赤く点滅している。企業再生や組織再編の専門家の5人に4人が、自分がいる地域の景気後退を予想している。また、4人に3人は、産業構造の大きな変化を予想しているという。

先行きの不透明感が著しく高まっている中、企業は事業計画や予算計画を策定する時期を迎えている。大不況が到来する可能性を前に、さまざまな取捨選択に頭を悩ませているのだ。

このような状況を、通常通りの予算計画で乗り越えることは困難である。あちらこちらから少しずつ経費を削減して、あとは「最善を祈る」というような見せかけの引き締めでは、不十分だ。そのようなアプローチは、危険をもたらす可能性さえある。いま必要とされているのは、アクションだ。

筆者らの会社アリックスパートナーズは、経営難に陥った企業を長年にわたって支援してきた豊富な経験から、物事を放置するとどのようなことになるかを知っている。

そこから得られた4つの重要な教訓に従えば、多くの企業が安全な状態を守ることができたはずだ。そして2022年以降は、堅調に見える企業さえも、不確実性という霧深い荒海に入り込もうとしている。いまこそ、これらの教訓をすべての企業に適用すべきである。

●自社に財務の「警報システム」を整備する

ほとんどの企業は、危険に気づくのがあまりにも遅い。その理由の一つは、事業部門の予算は通常、売上高と経費(損益計算書に使われる項目)を追跡しているが、キャッシュフロー計算書や賃借対照表の項目については確認していないからだ。

損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の3つは、経営幹部レベルでは結びつけて検討されるが、現場レベルでも損益に関わる者は目を配らなくてはならない。

彼らは受注減少や在庫拡大、あるいは支払遅延に真っ先に気づく可能性が高いにもかかわらず、資本コストを事実上無視し、企業における資金や貯蓄の情報源として賃借対照表に目を向けることはめったにない。その結果、自分が現場で目にしている物事の幅広い意味合いを、しばしば見落としてしまう。

事業部門を動かしている誰もが、その事業の3つの側面(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)を見られるように、事業計画や予算計画、そして月間レビューや四半期レビューの仕組みを再設計することが欠かせない。

売上高の最も脆弱な部分はどこか、需要が急減したらどうなるかを理解する。どのコストを削減する必要があるか、どの資産が影響を受けるか、どのような兆候を警告と見なすべきかを把握することだ。

●キャッシュの創出を最大化する

状況が厳しい時、あるいは何かがおかしいと感じられる時は、キャッシュこそがキングだ。金利が上昇している時は、特にそうだ。したがって、自社の事業計画に運転資金管理イニシアティブを盛り込むことである。

キャッシュの創出を高める方法には、債権・債務管理方法の変更、在庫削減、物流のスピードアップなどが含まれる。いつまでに、どの部門が、どれだけ現金を確保できるかを具体的にしたうえで、その進捗状況と実際のキャッシュの創出を積極的に監視する。

与信枠を縮小して、現金を増やす。さらに、賃借対照表の内容をしっかりと検証する。トラックは借りるよりも所有したほうが、手元の現金は増えるか。まだクラウドに移行していないIT資産は、どのくらいあるか。資産や工程をアウトソースすれば、固定費は変動費に変わり、現金のニーズを調整できる。

●潜在的なシナリオを作成する

不況のレベル(軽微、中規模、大型)によって、事業部門全体あるいは一部が受ける影響を予想する。具体的に考えることが重要だ。

インフレに対して最も脆弱な領域はどこか。需要減に弱い領域はどこか。サプライチェーンの混乱に最も影響を受ける領域はどこか。それぞれのケースで、誰がリーダーとなり、どのような対策を講じるかを考える。

そのうえで、3つのシナリオを想定して、それぞれの対応策を用意する。いわば、いざという時、すぐに引くことができる3つのレバーだ。

第1のレバーは、気軽に引けるものである。長期的なダメージを生じさせることなく、現金を溜め込む措置といえるだろう。たとえば、採用や出張の凍結、裁量的支出の削減、マーケティング費用の一部削減といった対応だ。

第2のレバーは、第1のレバーよりも痛みを伴う。景気の落ち込みが深刻で長いと見なした時に引くものだ。これには、新製品の発売延期や保守整備以外の設備投資の削減が含まれる。

第3のレバーは、危機的な状況を前提として用意する。レイオフや組織再編、資産や事業の売却のように、事業が突然大きなトラブルに陥った時に引くものだ。できる限り、競合他社の対応も予想してみる。不況の時、ライバル企業が最も打撃を受けるのはどの部分か。彼らはどのような対策を講じるか。

これらのシナリオが必要ではない、いまこそ用意をすることが重要である。そうすることで、いざ問題が生じた時は、どう対応するかではなく、いつ対策を講じるかを判断すればよい。またそれぞれのレバーを引くべきタイミングを判断する指標を、あらかじめ設定しておくことで、警告を無視しにくくなる。

さらに、月間レビューや四半期レビューの機会を利用し、計画に照らして実績を評価するだけでなく、計画の前提自体を再確認しよう。状況が急変している時には、半年前には事実だったことが、もはや事実ではなくなっていることがある。それはあなたの予想が間違っていたのではなく、状況が変わったのだ。

●前年をベースに考えない

経費と売上高は、積極的に確認する必要がある。前年に基づいて予算を考えるのではなく、あくまでもゼロベースの思考で、事業がどこでどのように価値を生み出しているか、あるいは生み出していないかを把握することが欠かせない。

大半の企業は、経常支出に蓄積した項目を整理する時にしか、このアプローチを採用することはない。だが、これは構造改革や作業負荷軽減の機会を見出すための強力な方法である。

売上予測を立てる時も、同じように厳格な姿勢で取り組もう。予算のほとんどは、売上高よりもコストに厳しい目が向けられる。CFOは、営業チームの売上予測を軽視する一方、コスト面を軽視することはけっしてない。

この問題を是正するには、まず、大口顧客に注目することだ。つまり、あなたが定期的に率直な会話を交わしているはずの相手である。そして、コストに対して行うのと同じように、売上高の増減のすべてについて、いつ、誰によって、どのように引き起こされるかを明確にする。できる限りの範囲ではあるが、これは事業計画の数字の証拠になるだろう。実際にこれらがどう反映されたかは、月間レビューおよび四半期レビューで確認する。

顧客の収益性を分析することで、売上高計画にさらなる価値をもたらすこともできる。多くの場合、顧客の20%は実際には、自社に損失を与えている。健全な企業ならば、定期的に顧客リストを見直し、整理しなくてはならない。

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本稿で紹介した4つの措置をいますぐ講じれば、厳しい時期に備えることができる。また、これらの措置を制度化することで、他の企業よりも、レベルの高い事業計画や予算計画を策定することができるだろう。それらは、単に事業や予算を管理するだけでなく、具体的なアクションを念頭に入れた計画になるはずだ。

仮に景気後退が起きなければ、それはそれでよい。より強力で、より大胆な事業が構築できているはずであり、自社の事業活動にすぐに使える資金の準備もできているのだ。

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/8948

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