人間とAIが共創するために必要なこととは──『雇用の未来』を記したオズボーン氏らAIリーダーが考える

 2023年11月28日~29日に「データ + AI + CRM + 信頼でこれからの時代をリードする企業へ」と題して開催された「Salesforce World Tour Tokyo」では、最新のAIの動向、企業がAIにどう取り組むべきかなどを伝えるセッションがあった。その中の一つに「マイケル・オズボーンほかAIリーダーが語る。AIとの共創術、“信頼”の築き方」とのテーマで、論文『雇用の未来』を記した英オックスフォード大学 教授のマイケル・オズボーン氏をはじめ、AI事業を国内外で推進するリーダーが一堂に会した。人間とAIが協働し共創するビジネスの未来形、AIとの信頼の築き方についてディスカッションの模様をレポートする。

AIからヒントを得ながら最終判断は人が行う

まず、モデレータを務めたシナモン 代表取締役Co-CEOの平野未来氏は、『雇用の未来』では20年後に50%の人類の仕事がAIや機械で代替、あるいは消滅するとされていたことを挙げ、実際にどのような変化が起きているかを訊ねた。この10年でAIは大きく発展してきた。そして、オズボーン氏が論文を執筆した2018年当時は重要な要素が2つあると考えられていたと言う。

AIで自動化されるもの/されないものは、人間がAIより優れているかどうかに関わる。優れているのは、クリエイティビティと社会的なインテリジェンス部分だ。ところがオズボーン氏は、生成AIが登場し「機械がよりクリエイティブなものになりました。そしてより社会的、社交的になりました」と話す。素晴らしい画像が生成され、ChatGPTは人間とスムーズなやり取りができる。これらは新しい生成AIが、かなり社会的なインテリジェンスを持つことを示しているとした。

シナモン 代表取締役Co-CEO 平野未来氏

とはいえ、様々な側面で人間はまだAIより優位なところがある。たとえば生成AIから価値を得ようとすれば、適切なプロンプトが必要で、プロンプトでは人が目的に合うものを選ぶ。またAIのアルゴリズムは、これまでに人が生み出したものを真似しているに過ぎず、AIがクリエイティブ性を持つとはいえ、新たな音楽家や名だたる芸術家になることとは異なる。そのため、イノベーションを起こしたければ、人間が必要になると指摘した。

オックスフォード大学 教授 マイケル・オズボーン氏

それに、AIには制約もある。結果が求めるものと違ってもAIにはそれが分からない。間違いが「どこに」「どのように」インパクトを与えるかも分からないだろう。そのためAIの適用は、慎重に行わなければならない。そうでなければ、同じ仕事を人間がやったほうが良いともなる。

人はAIより優れているが、生成AIでテキストや画像など様々なコンテンツを生み出せるようにもなっている。この領域はどのように進化しているかを、平野氏がStability AI Japan 日本代表のジェリー・チー氏に訊ねた。既に広告やマーケティング、インテリアやプロダクトデザイン、建築、ゲーム開発など様々なところにクリエイティブAIが活かされている。

たとえば広告キャンペーンなどのアイデア出しで、多様なパターンを作るのにAIが活用できるという。広告ディレクターなどは、それにより迅速かつ効率的に広告の方向性を決められる。またゲームやメタバースの世界では、リアルタイムにコンテンツが生成でき、ユーザー体験が大きく変わりつつあるとも指摘した。

対して、人間しかできないのは、プロデューサーやキュレーター的な仕事だと述べる。どの仕事を人間に、どの仕事をAIに任せるかのプロデューサー的な仕事や、数多く出てくるAIの答えの中から「会社の状況などに合わせどれが適切かを考えるのは、人間のほうが得意です」とチー氏。AIからヒントを得ながら、最終的な判断は人がやるべきだと言う。

AI技術が急速に加速する中で、今後ビジネスパーソンの役割はどのように変わるのか。これについて松尾研究所 取締役 経営戦略本部ディレクターの金剛洙氏は、「生成AIはものすごく便利なもので、多くのビジネスパーソンの心強いパートナーとなるでしょう」と話す。

一方で、人間と生成AIには特性の違いがある。人間は、リアルタイムに学習ができ、小量の経験から予測する分布外汎化能力が高い特徴をもつ。そのため変化するビジネス環境では、まず人間がアクションを起こし、失敗してもいち早く修復し、そこからどうすべきかを考えアクションをとる。そのようなPDCを速く回すことが、ビジネスパーソンには重要になると指摘する。また現状のAIの利用には課題もあり「現状ではトランスフォーマーという技術が使われていますが、これには限界があります。それをどう突破していくかが一つのポイントになるでしょう」とも金氏は言う。

チーム/組織がAIと相互作用を図るには

個人の集合体であるチーム/組織をどうAIと相互作用させていくべきか。これについてオズボーン氏は「信頼できるAIが必要だ」と言う。同氏は、AI開発プラットフォームの提供および開発支援コンサルティングを行う企業であるMind Foundryを創業しており、保険会社と提携してAIを使い、21世紀の保険ビジネスを支える活動をしている。その中で、たとえばドライバーの年代による事故の可能性の予測なども実施しているが、保険のようなビジネスではAIの信頼性が極めて重視されるという。

生成AIにはハルシネーションで間違った答えを返すなど、大きな課題も生まれている。「間違っているだけでなく、AIが自信を持って嘘を言います」とオズボーン氏。AIは与えられたデータを基に回答しているので、すべてを把握しているわけではない。そのためこの技術を人の生活などに適用するには、人のインテリジェンスの優位性と組み合わせることが重要だと指摘する。つまり、最終的には人の判断が必要になると平野氏も指摘する。

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Stability AIでは「オープンであることが重要だ」とチー氏は言う。Stability AIは画像生成のイメージが強いが、テキストやサウンド、コードなど様々なものを生成できる。複数の形式を扱うAIモデルを用いて、APIなどで企業のデータを取り込みながらモデルをファインチューニングし、ビジネスに活用できるようにもする。日本にも研究開発チームを持っており、日本向けの画像生成モデルなども提供している。モデルのファインチューニングには、重いものも軽いものもある。重いものはStability AI社で行うことも可能で、軽いものは自由にモデルをダウンロードしユーザー自ら行える。用途に合わせ、オープンにファインチューニングできるようになっている。

Stability AI Japan 日本代表 ジェリー・チー氏

実際に、企業のDX担当者はAIにどのように取り組むことになるのか。松尾研究所は、東京大学大学院光学研究科の松尾研究室とビジョンを共にし、産官学共創のエコシステムの実現を目指している。松尾研究室でAIの研究を行い、そこで得た知見、成果を社会に還元し社会実装するのが松尾研究所となる。AIソリューション開発事業とAI教育事業を行っており、前者はAIをどう使うかを企業にコンサルティングするところから始まり、PoCを行い本番環境の開発まで手掛ける。教育では、企業の若手から役員に至るまでにAIの講義や研修を実施。松尾研究所では、これまでに多くの大企業にソリューションを提供しており、今後はスタートアップ企業にも拡げることを考え、VCファンドも立ち上げている。

金氏はかつて支援したAI活用のあるプロジェクトがなかなか進まないことがあったと話す。そのプロジェクトではマネジメント層に研修を実施したが、参加した30名ほどの役員でChatGPTを使ったことがあったのは2名しかいなかった。「企業の重役などは、生成AIが大事だと言っていますが、実際に手を動かしている人はそこまでいません」と金氏。その後研修で実際にChatGPTを使うと、参加した役員らはかなり興味を持ったという。さらに生成AIをどうビジネスに使うかのブレインストーミングを行い、出たアイデアをデモにして見せたところ、プロジェクトが一気に進んだのだ。「トップが真に実体験を持ち納得した上でプロジェクト進めることが重要だと分かりました」と話した。

オズボーン氏は、日本が英国に比べ人口動態的な変化が速いことを挙げ、それが企業でAIがどのように使われるかに影響すると指摘する。論文執筆後の10年を見ても、英国より日本はAIで自動化されることを歓迎しており、技術が労働人口減少などの問題の解決策になると考えている。その上で日本は技術に限界があることも認識している。このように日本の企業がAIに積極的なため、日本のパートナーと一緒にビジネスを進められたのはMind Foundryにとって有益だったとも言う。

クリエイティブな文化のある日本こそ価値を発揮するチャンス

日本企業は顧客情報の扱いやセキュリティの確保を重視する傾向があり、それがAI活用の妨げになるとの懸念がある。これに対して、ビジネスアプリケーションでAIを完全に信用するのは難しいとオズボーン氏。そのため、まずはLLMのモデルをビジネスのコンテキストの中で部分的に試してみると良い。その過程でビジネスにどのようなインパクトがあるかを考えるべきだ。ビジネスにおいて最も価値のあるデータは企業の中にある。そのことを理解し、そのデータを使い価値を出すところにAIを使うことが重要だとも言う。

AI画像生成の領域では、改めてオープンなモデルで中身が見えることが重要だとチー氏は話す。Stability AIのモデルも世界中の研究者が解析しており、どう改造すればどのような画像が生成されるかが論文やGitHubで明らかにされている。これにより、どのように使えば安全かが分かる。その上でインプットとアウトプットに危険性がないかを、AIと人で確認するのが良いとも言う。

金氏もセキュリティの懸念でAIの導入が止まるケースはあるとした。それに対し、まずは問題のない領域などから、小さくAIの利用を始めることを勧める。その上で人間とAIによるチェックのポイントを設ける。「生成AIに与えるデータに対してチェックをする別のAIを設けるのも良いでしょう」と金氏。今はかなりAIの利用にナーバスになっており、今後セキュリティに対する議論も醸成されれば、人々も慣れて、ナーバスな態度も緩和するだろうと付け加える。

松尾研究所 取締役 経営戦略本部ディレクター 金剛洙氏

最後は、生成AIを活用する上での日本の強みの話題となった。日本はクリエイティビティに対する文化や伝統が豊富で、クリエイターも多い。またAIを楽しくクリエイティブに活用している人が日本には多く、この日本のクリエイティビティをAIと組み合わせて生かせるだろうとチー氏は話す。

先行するOpenAIを使い倒すか、あるいは国産LLMを作るかの議論があるが、日本で“ネクストOpenAI”を生み出すのも興味深いと金氏。とはいえ日本のAIの研究レベルは、米国に比べ一周も二周も遅れているのが現状だ。その状況では日本だけで取り組むのは難しいので、ポテンシャルを秘めた海外のスタートアップを発掘し投資をするようなアプローチもあるとした。より抜本的に取り組むのならば「日本をAIの学習天国にするのもありでしょう」と言う。生成AIの規制は日本は諸外国に比べ緩いので、それを逆手にとり魅力的なAIベンチャーを大量に日本に誘致する。AIスタートアップが日本に集まればそこで雇用も生まれ、大学や研究者も巻き込まれればスキルも上がる。そこから1社でもネクストOpenAIが生み出されれば状況も変わるだろうと言う。

オズボーン氏は、日本企業の多くがまだトランスフォーメーションの過程にあり、これは問題でもありチャンスでもある。「これまでのDXではなく、AIを使ったDXで、21世紀のニーズを満たせるでしょう」と言う。今は非常にエキサイティングな時代であり、その中で見失ってはいけないのが、人間のインテリジェンスがAIより優れていること。そのため望むべき未来は、人間が作っていくべきだとも改めて指摘するのだった。

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