Nutanixは年次カンファレンス「.NEXT 2024」を2024年5月21日から23日にかけてスペイン・バルセロナで開催した。最終日となる23日には、メディア向けにCEOのRajiv Ramaswami(ラジブ・ラマスワミ)氏と、日本法人であるニュータニックス・ジャパン社長の金古毅氏へグループインタビューできる機会が設けられた。本稿ではその様子をお届けする。
Nutanix AHV―10年の進化とエンタープライズ市場での台頭
Nutanixは、ストレージを使わずにサーバーだけで仮想化環境を実現するハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)の世界的リーダーだ。自社のソフトウェアと親和性の高いものとして「Nutanix AHV(Acropolis Hypervisor:以下、AHV)」というハイパーバイザーを提供してから2024年で10年が経つ。この間、顧客のニーズに沿ってNutanixはどのように変化してきたのか。
ハイパーバイザーの先駆けはVMwareであり、Nutanixはその10年後にAHVを立ち上げた。当時、ハイパーバイザーに関する多くのオープンソースの作業が進んでいたことから、AHVはKVM(Kernel-based Virtual Machine)に基づいて構築されたという。Nutanixはハイパーバイザーを個別に販売せず、プラットフォームに含める方針を取ったため、Nutanixプラットフォームを採用した顧客はAHVとVMwareのどちらを利用するか選択できる余地が生まれたのだ。
ラマスワミ氏は「この10年間で、AHVは多方面に進化し、今日では真のエンタープライズクラスのハイパーバイザーとなった」と振り返る。エンタープライズが求める数々の機能を備え、アプリケーションベンダーや他のコンポーネントから必要なエコシステム認証も取得している。
多くの技術パートナーがAHVをサポートしており、そこにはバックアップやエンドポイントセキュリティ、ネットワークセキュリティなども含まれている。同時に、AHVはコア技術への投資を続けており、SAPなどの大規模なインメモリワークロードの実行が可能だ。ラマスワミ氏は「過去10年間でこれらすべての面で取り組んできた結果、今日では70%のインストールベースがAHVを採用している」と語った。
VMware買収による混乱をCEOはどう見るのか
今回の年次イベントでは、Dell Technologiesとの「Nutanix Cloud Platform for Dell PowerFlex」提供や、EnterpriseDB(EDB)との提携が発表された。Nutanixはかねてより様々な企業とパートナーシップを拡大しており、2023年にはCiscoと戦略提携を締結、その前にはLenovoやHPEとも協業している。
Dell Technologiesとの連携について、ラマスワミ氏は「我々の哲学は、顧客ができるだけ多くのプレーヤーからNutanixの製品を利用できるようにすること。今回の連携は、我々にとってもDell Technologiesから購入したい顧客にとってもメリットがある」と語る。
これまでNutanixは外部ストレージと連携していなかったが、BroadcomがVMwareを買収し、VMwareのライセンス体系変更を変更したことで状況が変わったとラマスワミ氏。「多くの顧客が既存のストレージを活用してNutanixと連携できるかを尋ねてきている。そのために、まずはDell PowerEdgeから外部ストレージシステムのサポートを始めることにした」と狙いを説明した。
なお、VMwareのハイパーバイザーをAHVに置き換えるには、HCIに移行する必要がある。ラマスワミ氏は「これこそが、外部ストレージパートナーとの連携を開始した理由だ」と強調。「顧客がDell PowerFlexの外部ストレージを使用している場合、スタンドアロンのAHVハイパーバイザーを展開できる。現時点ではサポートできる構成の数はまだ限定されているものの、今後は他のIPストレージベンダーもサポートする予定だ。従来はHCIを採用する必要があったが、今回の提携によって多くの選択肢を提供できるだろう」と見通しを示す。
また、EDBはエンタープライズ向けPostgreSQLの最大プロバイダーの一つだ。同社との提携については、モダンなアプリケーションで従来のOracleからPostgreSQLへの移行が進んでいることが背景にあるという。ラマスワミ氏は「我々にはデータベース管理ソリューションやサービスがあり、EDB PostgreSQLとNutanixを一緒に展開することで、素晴らしいソリューションを提供できる」とした。
BroadcomのVMware買収による混乱は、Nutanixにとって好機となるのだろうか。ラマスワミ氏は「VMware買収による多くの懸念やマイグレーションの方法などが話題になっている。Nutanixも多くの顧客とこうした話をしており、日本でも話をすることが増えている。日本の顧客はあまり懸念を声高に示すことはないが、今回は強く表明していることに驚いた」と話す。こうした状況を踏まえて、世界中の顧客やパートナーと連携し、この状況に対応するために多くのプログラムを導入していると説明。全体的な方針としては「短期的な取引関係ではなく、顧客との長期的な関係を築きたい考えている」ことを明かした。
ビジョン「Run Everywhere」は実現可能なのか
続いて、クラウドやAIへの対応の仕方について話題が移ると、ラマスワミ氏は「以前はパブリッククラウドへの完全移行を目指す動きがあったが、現在は多くの企業がハイブリッド環境を採用する傾向にある」ことを示した。背景にはコスト高やデータ主権、プライバシーの懸念がある。さらに、生成AIの台頭によって、データがある場所でAIを実行したいというニーズも高まっているとした。今後は、アプリケーションとデータが複数の場所に分散する環境で運用することを認識し、それぞれの場所に適した運用モデルを持つようになることが予測される。
生成AIへの取り組みについては、「AI導入を簡素化する」ことを目指しているという。フルスタックのAIプラットフォーム「GPT-in-a-Box 2.0」を通じて、自動化やワークフローの簡素化、エンタープライズ向け機能の追加、第三者リポジトリとの統合などを進めることで、簡素化を推進するとした。
今回のイベントでは「Run Everywhere」というNutanixのビジョンがキーワードとして掲げられた。これは「クラウドネイティブアプリケーションを“確実にどこでも”デプロイできる」ことを目指すものだ。この目標の達成について質問されたラマスワミ氏は「まだ完全ではないものの、着実に進歩している」とコメントした。現在、Nutanix製品はデータセンターやAWS、Azure、そして世界中の約250の管理サービスプロバイダーで実行可能となっている。さらに、Kubernetesを管理するプラットフォーム、ストレージサービスとデータインフラ、PaaSサービスなどを通じて取り組みを続けているとし、「目標の実現には時間がかかります。この旅に終わりはありません」と語った。
アプライアンスベンダーから“総合的なプラットフォーマー”へ
今回の年次イベントで発表された戦略は日本市場でどのように実現される見通しなのか。ラマスワミ氏へのインタビューの後には、日本法人の社長を務める金古氏が取材に応じてくれた。
ラマスワミ氏は、VMwareの懸念が日本でも話題となっていることに言及したが、金古氏は日本の状況について、顧客やパートナーからのNutanixに対する期待は非常に大きいと話す。「日本では依然として3Tierのニーズが高く、特にDell Power Flexに関するAHV戦略の発表は顧客に大きなインパクトを与えた。また、Cloud Native AOSをベースにしたデータサービスの発表もあり、それに対する期待や今後の質問が多く出てくるだろう。『Run Everywhere』のビジョンを示せたと思う」と語る。
また、Kubernetesクラスターを安全に運用するための「Nutanix Kubernetes Platform(NKP)」のリリースについて金古氏は「データとアプリケーションの完全性を実現するという同社の方針から見て必然的な流れだ。これまで仮想化で実現してきた機能を、今後はKubernetesが重要な核となって担っていく。NKPによって、顧客はコンテナ管理の煩わしさから解放され、より付加価値の高い業務に集中できるようになる」と語った。
さらに、EDBとの提携が発表されているものの、日本では欧米に比べてPostgreSQLを採用する企業が少ないのではないかとの指摘も出た。これに対し、金古氏は「EDBが我々のパートナーとしてサポート対象になったことで、大きく流れが変わってきている。日本市場ではまだOracleの影響力が強く、ニーズの比重としては我々のNutanix Database Service(NDB)の方が多いのが現状ではあるものの、PostgreSQLに注目が集まっていることから、このエコシステムを構築していきたいと考えている」と回答した。
アプライアンスベンダーとして認識されることの多かったNutanixは、クラウドネイティブやAIの時代に対応した総合的なプラットフォームプロバイダーへと進化している。金古氏は「Nutanixが大切にしている“シンプルさ”が失われないように、我々の強みを生かしていきたい」と語った。
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