あなたが「よい聞き手」に変わるための5つの方法

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相手の目標達成や問題解決を支援するうえで、どのように話を聞くかは重要なカギを握る。多くのリーダーがその重要性を理解してはいるが、「よい聞き方」を実践できている人はあまりに少ない。筆者らは、まず自分のリスニングスタイルを把握することが大切だという。そのうえで、本稿で示す5つの方法を実行すれば、よい聞き手に変わることができる。


 優れたマネジャーは聞くことの重要性を知っている。しかし、よい聞き方を知っている人はあまりに少ない。「アクティブリスニング」のような一般的なテクニックでさえ、逆効果になることがある。結局のところ、発言するための時間を割り当てたり、発言者の言葉をオウム返しにしたりするだけでは、相手の話を理解することはできないのだ。

3つのよく交わされる会話について考えてみよう。

従業員「取締役会でプレゼンすることに不安を感じています」
上司「あなたはよくやっています。私は緊張せずにプレゼンができるようになるまで何年もかかりました」

同僚A「休暇を本当に必要としている」
同僚B「山の中にある、ひなびた保養地に行くべきだ。私はそこから戻ったばかりで、この何年かで最高の休暇だった。情報を送るよ」

患者「この手術が怖いんです」
臨床医「担当の外科医は、この手術を何百件も執刀してきました。合併症の発生率も低いですよ」

ここで示した善意の回答は、ひどいものではないが、発言者のニーズを満たすこともなければ、懸念に対処するものでもない。

取締役会の心配をしている従業員は、早計な励ましではなく、批判的なフィードバックを求めているかもしれない。休暇が必要だという同僚Aの軽い発言は、旅行の情報では対処できない深刻な問題を暗示している可能性がある。そして患者は、医者が安心感を与えようとすることで見逃されるような、感情の奥底に潜む実際的な懸念を抱えているのかもしれない。

これらの例は、リーダーシップの重要な側面を示している。多くの人は習慣になっている方法で話を聞くことで、対話の機会を逃している。他の重要なコミュニケーションスキルと同様に、よい聞き方をするためには、達成したい目標や自分の癖を認識し、どのように対応するか選択することが重要だ。

幸いなことに、練習を重ねることで、誰もがより効果的な聞き方を実践できるようになる。

聞き方のスタイル

よい聞き方の学習は、自分がいかなるタイプのリスナー(聞き手)であるかを理解することから始まる。筆者らは救命医療の臨床医として、またラーニングカンバセーション(学習会話)を最適化する方法を教えるデブリーフィングの専門家として、次の4つのリスニングスタイルがあると気づいた。

分析的なリスナーは、中立的な立場から問題を分析することを目的とする。
関係性重視のリスナーは、人とのつながりを築き、メッセージの根底にある感情を理解することを目的とする。
批判的なリスナーは、会話の内容と話し手自身の信頼性を判断することを目的とする。
タスク指向のリスナーは、重要な情報を効率的に伝達するために会話を構成する。

これらのスタイルをダイナミックに使い分ける能力を身につけることで、話し手のニーズと最も適切なリスニング技術をマッチさせ、影響力のある会話を実現できるようになる。それが、聞く力を高めるための第一歩だ。

聞く力を高める5つの方法

よい聞き手になるには、聞き方を理解するだけでなく、行動が必要だ。聞く力を高めるうえで最も重要な5つの方法を紹介しよう。

(1)聞く理由を明確にする

私たちが、自分なりのやり方で話を聞く理由は無数にある。効率的なため、対立を避けるため、注目を浴びるため、サポートするため、あるいは単に楽しませるためということもある。このような理由が繰り返し、(そしておそらく無意識に)優先して採用されると、それ以外の聞く目的がおろそかになる。

会話を始める時、その目的は何か、その場でどのように聞くことがベストなのか、少しだけ考えてみてほしい。話し手が求めているのは、遠慮のない批判なのか、分析的な省察なのか、それとも感情的なつながりなのか。

相手の話に耳を傾ける準備ができていないこと、たとえば表面的に聞いていることもあるだろう。そうであれば、その瞬間に自分が与えられる以上の対応を求める相手に、その事実を共有すべきだ。

(2)ふだんの聞き方を認識する

「いつも」の聞くスタイルが、目標達成を妨げているかもしれない。あなたは常に効率的で、楽しげで、明瞭で、協力的でいることにより、相手からポジティブなフィードバックを受けているかもしれない。しかし、既定路線になっているそのスタイルが、他の目標を達成するために、異なるスタイルを適用することを妨げている可能性がある。

たとえば、時間に追われるような環境では、迅速な意思決定を行うために、タスク指向や批判的なリスニングスタイルが必要とされることがよくある。そのスタイルは、仕事の場合は常に有効かもしれないが、迅速な意思決定のサポート以上のものを必要とする家族や友人に対して頻繁に適用すると、逆効果になることがある。

子ども「今日は学校に行かない。友達がいないんだ」
親「友達はいるじゃないか! サリーの誕生日会に招待されたばかりだ。今日の休み時間には、新しい子3人に挨拶しよう」

この例のように、感情表現がタスク指向や批判的なリスニングスタイルで迎えられると、相手の根底にある価値観や懸念を深く理解する、あるいは肯定し共感することで実用的な情報を得るといった、貴重な機会を逃す可能性がある。

このような場合、コーチングしたり、親しげに「大丈夫だよ」などと誤った励まし方をしたりすることは、話を聞いていないという印象を相手に与え、話題の共有を躊躇させることになりかねない。

(3)注目されるべきは誰かを意識する

リスニングスタイルだけでなく、相手の話にどう割り込むかで話の焦点が変わる。私たちは、自分の個人的な話を挟むことが共感や関係構築につながると思いがちだが、それをやることで相手のメッセージの全体像が把握できなくなる。

口を挟むことは楽しく、人とのつながりを深めるのに役立つこともある。しかし、意識せずに行うと、話し手との距離が遠ざかり、話の焦点が戻らないおそれがある。たとえば、医師が共感を示して、患者とつながるためにコメントを挟むと、その会話が患者の関心事に戻ることはほとんどない、という調査結果もある。

聞き手が口を挟むことの影響を認識して、話し手のメッセージに関心を持ち続ければ、相手のメッセージを見失うことなく話を戻し、自分の焦点を共有することができる。個人的な考えを共有したら、そのあとで焦点を戻すのだ。

同僚A「休暇を本当に必要としている」
同僚B「私は山の中にある、ひなびた保養地から戻ったばかりで、生き返ったよ。あなたに何が起きたのかな。話してみない?」

4)会話の目的を達成するために、リスニングスタイルを適用する

ストレス要因が増えると、実行機能と認知的柔軟性に負荷がかかり、通常のリスニングスタイルを適応することが難しくなる。そこに問題はない。話し手と会話の目的に集中することで、その状況のニーズに適応することができる。

たとえば、不安を示す患者に肯定と好奇心をもって対応することで、臨床医は貴重な情報を得ることができ、患者のニーズにより効果的に応えられる可能性がある。

患者「この手術が怖いんです」
臨床医「合併症の発生率は非常に低いですが、不安に思うのは当然です。大きな手術ですから。[間を置いて]何が最も不安ですか?」

臨床医は、最初に安心感を与えるような返答をし、アウトカムに関するデータを提供したくなるものだ。それを完全にやめるのは不自然だと感じるかもしれない。しかし、相手の感情を理解し、それを探ることで、患者は自分の話を聞いてもらい、肯定してもらえたと感じられる。

臨床医は、その患者の前回の手術で心拍に危険な乱れが生じたことや、彼女の兄弟が最近手術を受けて脳卒中になったことを知るかもしれない。患者に自分の話を聞いてもらえたという感覚を与えるだけでなく、状況を複雑化させている問題について知ることで、治療前や治療中における患者のケアの仕方が根本的に変わるはずだ。

(5)「自分は何か見逃していないか」と問う

会話を始めた人が、その会話から何を得ようとしているのかわからないと、その目標を確かめることは難しいかもしれない。目標のあいまいさ、弱さを共有することへの不安、その場の感情、業務計画のプレッシャーは、何かを発見するためのプロセスの一環かもしれない。このプロセスは聞き方で大きく左右されるため、いま行われている会話が生産的かどうか、見逃しているものは何か、よく考えなければならない。

機械的に応答する前に数秒間考えることで、通常では把握しにくい重要な機会を明らかにできるかもしれない。問題解決を試みる多忙な親が、子どもの体験を理解したいという長期目標を持っているのであれば、まずは関係性重視のスタイルで聞き始めると、うまくいく可能性がある。

子ども:今日は学校に行かない。友達がいないんだ。
親「それはつらい気持ちだね。[間を置いて]それについて話をしたい?」

安心させたい、解決策を提示したいという気持ちを抑制し、詳しく話を聞くことで、不安を示す発言の裏にあるものを深く理解することは、緊急の意思決定が不要な時に会話の中に取り入れて、聞き方の方向性を決めるのに役立つ分析的なリスニング技術だ。

よい聞き方の効果

プレゼンテーションを控えて緊張する従業員について、再度考えてみよう。上司が次のような返答をしたらどうだろう。

従業員「取締役会でプレゼンすることに不安を感じています」
上司「私もプレゼンを始めた時は緊張しました。何が不安ですか?」

この反応は、最初のコメント(「あなたはよくやっています。私は緊張せずにプレゼンができるようになるまで何年もかかりました」)とはまったく異なり、上司が従業員の不安の背後にある悩みに耳を傾けていることを示している。

聞き方を工夫することで、積極的に、会話に参加することができる。また、相手が本当に重視していることを提示しやすくなり、じっくりと問題の核心に迫ることができれば、より効果的だ。新しい聞き方を意図的に適用することで、関係を築き、他者を理解し、協力して、問題をより効率的に解決することができる。

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