【事業開発の達人たち】ドアツードアの利便性よりも全体最適で–CTC三塚明氏が挑む「地方型MaaS」【前編】

 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発に通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。現在は特別編として、森ビルが東京・虎ノ門で展開するインキュベーション施設「ARCH(アーチ)」に入居して新規事業に取り組んでいる大手企業の担当者さんを紹介しています。

伊藤忠テクノソリューションズ(略称:CTC) 未来技術研究所 スマートタウンチーム チーム長の三塚明さん(右)

今回は、伊藤忠テクノソリューションズ(略称:CTC) 未来技術研究所 スマートタウンチーム チーム長の三塚明さんにご登場いただきました。三塚さんは地方自治体の困りごとを解消すべく、現在MaaS(Mobility as a Service)領域の新規事業に取り組まれています。前編では、三塚さんが現在進められている事業の内容と意義について伺いました。

新規事業で共通課題の解決に挑むSI会社

角氏:三塚さんとは、先日の配信番組(テレビ東京「新規事業のパーパスは何だ⁉『生きづらいです2022』LIVEPITCH」)でお会いしたばかりですが、まず改めてCTCがどんな会社なのかを教えていただけますか?

三塚氏:はい。CTCは、システムの設計・構築から運用・保守サポートまで行うシステムインテグレーター(SI会社)です。事業内容としては、主に海外の先進のIT商材を日本に持ってきて、様々なハードウェア・ソフトウェア、クラウドサービスを組み合わせたシステム構築サービスを提供しています。

角氏:その中で未来技術研究所はどんな役割を?

三塚氏:当研究所は、2017年に新しい事業領域を探索することを目的として発足した社内組織で、私は発足時から所属しています。ミッションは、世の中の課題を解決するという観点から、社会課題の解決に向けた事業やテクノロジー起点の新しいビジネスを考えることです。

CTCは海外のサーバーやルーターなどを扱ってきた中で、プロダクトアウト的な動きのイメージがありました。わかりやすく表現すると、商材ありきというビジネスモデルです。ただ基本的にはお客様の課題を聞いて、そのお客様の課題を解決するというシステムインテグレーション(SI)事業です。いずれの場合でもCTCの役割はITの提供にとどまり、そのITを活用して課題解決を行っているのはお客様自身でした。そこで未来技術研究所では、世の中全般共通の課題をIT活用によりこちらから解決しに行くという形で新規事業開発に取り組んでいます。

技術と顧客の理解で新規事業開発の道へ

角氏:三塚さんご自身は、どういう流れで新規事業や社会課題解決の道に進まれたのでしょう?基本受託型ビジネスとなるSI会社でその道を進む人は少ないと思うのですが。

三塚氏:以前は別のソフトウェア企業にいて、メーカーなどから研究開発の一部を請け負い、受託で研究開発をしていました。まずその時は、課題を持っている会社の研究開発に携わり、一緒に解決策を考えていたのです。CTCに来てからは、主力製品ごとに置かれている「製品主管」というポジションで複数のソフトウェア製品に携わってきたのですが、製品導入と並行して業務コンサルも手掛けてきました。

その時にお客様の課題も見てきましたし、同じような業界を担当していると共通の課題もわかるようになります。課題の解決策についても、国内外のメーカーと色々話をしてきました。結果的に私のキャリアは、世の中の課題解決のために何をすればいいのかという一本の軸でつながっているのです。

角氏:なるほど、三塚さんはもともとエンジニアでありながら、顧客ニーズを把握してお客さんの課題を指摘し、改善策の提案もされてきたと。コンサルから課題の把握、技術の理解、作るところまで全部できるんですね。

三塚氏:そうですね。開発からは遠のいていますが、モックを作るくらいはやります。

角氏:モックを見せれば相手の理解は早まりますからね。

三塚氏:いま取り組んでいるMaaSでは、そこは分析の部分に相当します。「どの地域にオンデマンド交通を置けばいいか」「何時から何時まで走らせるか」「車は何台あればいいか」「停留所をどこに置くのか」など、分析のシミュレーションは私自身でやっています。それがあることで、相手に納得していただけるんです。単に「いいMaaSプラットフォームがあります」と勧めるではなく、具体的にGISで統計データを使って、それを見て「このエリアだったらこれだけのニーズがあると思います」とちゃんと説明しています。

既存交通とオンデマンド交通を使い分ける

角氏:では、その流れで今取り組んでいるMaaSの話をお聞かせください。

フィラメントCEOの角勝

三塚氏:まずMaaSの定義ですが、MaaSとは複数の移動手段を組み合わせたものです。電車からバスに乗り換えて、バスに乗って目的地に着いたら歩く。その全体がMaaSで、その中の1つのモビリティとしてオンデマンド交通があるという考え方で事業を進めています。

角氏:確かにMaaSというと、利用者側の移動体験全般という曖昧な感じがしますよね。

三塚氏:MaaSには大きく3つに種別されます。まず「観光型」。宿泊や食事も含まれ、観光地を回るものです。次は「都市型」です。電車もバスも十分に運行している中で、大雨で電車が止まっている時にどのルートが一番早いのかを検索できたり、シェアサイクルなどの新しいモビリティまで利用範囲が広がっているのが都市型です。そして最後が、われわれがいま取り組んでいる「地方型」です。バスの本数が少なく、バス停までも歩いて30分などという不便な環境の中での地域交通の最適化に取り組みます。

角氏:その地方型MaaSでどのような挑戦をされているのでしょうか?

三塚氏:地方は高齢者が多いのですが、公共交通が不便なので運転がおぼつかなくても自家用車を使わざるを得ません。でも自治体としては、公共交通に転換してほしいと思っています。そういった状況下で、駅やバス停に行く足として、乗り合い型のオンデマンド交通を使うというものです。バスがない時間帯には最終目的地まで行くのですが、バスがあるタイミングであれば徒歩の代わりとしてバス停まで乗り、そこからバスで病院なりスーパーに行ってもらうようにすると。それによって、今まで人が乗っていなかった時間帯や路線に誘客し、全体最適化しようという考えです。ただこれはちょっと微妙なところがありまして、純粋に利用者のことを考えるとドアツードアで移動する方が絶対に便利なんです。

角氏:ですよね。

三塚氏:技術的には可能なのですが、タクシーより安くしてしまうとタクシーの顧客を奪ってしまいますし、バス・電車よりも便利な交通網を整備して、自治体が公共交通の赤字補填をするのもおかしいという話になります。そのため我々のMaaSは、既存交通との乗り継ぎを前提とした全体設計になっているのです。

儲けを追及できない中で見つけたビジネスモデル

角氏:全体最適のバランスはとても微妙ですよね。そもそもビジネスとしての成立性が見えにくい気がしますが。

三塚氏:そこで最初から運賃ビジネスは考えていなくて、自治体から住民サービスの一環という形でお金を頂く形になっているんです。最初に統計データやGIS等を使いシミュレーションをして、1日の乗客を予測して年間の運賃を算出し、頂くお金を最初に決めます。後になって「やったけど赤字でした。補填して下さい」とは言いません。

角氏:自治体は予算が決まっていますからね。

三塚氏:予測より乗車数が少なくてもその分の赤字は我々が負担して、その代わり多く乗ったらその分の利益はわれわれがいただきます。コミットした乗客数を確保するためにITを活用し、他にもイベントを開き、クーポンを配り、広告も打ちます。単純にMaaS基盤としてCTC製品を使って下さいというのではなく、利用促進策も含めて全部我々が担うというビジネスモデルです。

角氏:なるほど、いわばIT版の「指定管理制度」ですね。

川崎市と直方市でオンデマンド交通の実証実験

三塚氏:これまで実証実験を2つの自治体で実施したのですが、第一弾として川崎市で、オンデマンド交通事態の課題を洗い出すための実証実験をおこないました。次に、福岡県直方市で全体最適のモデルを導入し、オンデマンドのエリアを2つ設定して実施しました。特徴的なのが、オンデマンド交通から別のオンデマンド交通に乗り換えるというパターンがあることです。世界的にもあまり例のない取り組みで、販売元である海外のプラットフォームメーカーに話したら驚かれました。

角氏:時間の調整が凄く難しそうです。ただそこまで苦労をしても、やはり利用者からはドアツードアを求められませんか?

三塚氏:それはわかっているんです(笑)。でも、バスに乗り換えて下さいと。なぜなら住民全体の利益を追求しているからです。そこのバランスは正直難しくて、今探っている最中です。

角氏:なるほど。でもうまくやるとバスの利用者は増えますよね。

三塚氏:いま効果の分析をしているところです。川崎の場合、利用者は事前のシミュレーションの想定の範囲内だったのですが、直方は想定外の動きが頻繁にあるんですよ。恐らくですが、川崎の高齢者は昔電車やバスで通勤していて、電車・バスが身近なんです。一方、直方の人は現役時代から車で通勤していたため、電車やバスに乗る習慣があまりない。多分その違いだと考察しています。

角氏:毎日乗り換えをしていた人も多いでしょうし。

三塚氏:なので、われわれのサービスを利用していただくためのハードルは、都市部では自家用車から公共交通へのシフトだけになります。ただ地方都市では、それにプラスして乗換そのもののハードルが高いので、最初はドアツードアにせざるを得なくなるのかなと。サービス内容が我々の狙うところからは一時的にずれるかもしれませんが、最終的なゴールは諦めずに取り組んでいきます。

角氏:考え方や実験がきめ細かいですね。顧客目線を経験していないエンジニアには、今の仮説は出てこないと思います。これまでの経験が生きているんですね。

三塚氏:私としても、何でもITで解決できるとは思っていません。当然、公共交通を運営しているバス会社さんは、何十年と利用者数を上げようと取り組まれてきた訳じゃないですか。それを尊重した上で、「じゃあITが無かったが故にできなかったことは何だろう?」と。そういう発想でアイデアが出てきている感じですね。

後編では、自治体向け事業の難しさと突破口について、これまでいくつも壁に突き当たってきた経験を踏まえてお話しいただきます。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

https://japan.cnet.com/article/35192435/

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