全力で取り組まない「85%ルール」が最高のパフォーマンスを引き出す

Anchiy/Getty Images

サマリー:最大限の努力が最大限の結果につながると、信じてきたマネジャーは少なくないだろう。しかし、この手の古いマインドセットは、実際、高いパフォーマンスにつながらないだけでなく、バーンアウト(燃え尽き症候群)を.生む。代わりに必要なのは、従業員の能力を最大限に引き出す新たなマネジメント・マインドセット「85%ルール」だ。つまり、最大限の努力を控えるという方法である。

旧来のマネジメント・マインドセット

バーンアウト(燃え尽き症候群)という昨今の問題を、ウェルネスアプリで解決しようという試みが一部の企業で行われている。しかし、それだけでこの問題を解決することなど、とうていできない。代わりに必要なのは、あらゆるマネジャーや組織がマインドセットと文化を変えることである。

「最大限の努力=最大限の結果」という等式は、パフォーマンスのピークをめぐる古い考え方だ。実際はそうならないものだが、いまだにこの等式を信じているマネジャーは多い。

彼らは「セルフケアを実践する」などと口ではうまいことを言うが、その根底には「痛みなくして得るものなし」「勇気なき者に栄光は訪れない」「110%の力を尽くせ」など、やる気を出させるために1980年代に流行ったダメなせりふを吐く人たちと同じような発想がある。

部下に週80時間以上の労働を要求する一方で、ストレス対策として金曜のヨガを勧めるマネジャーは、意図せずして有害な矛盾を生み出している。まさしく、心理学でいうところの「ダブルバインド」の典型例だ。従業員はそうした矛盾を指摘することができず、さらに「矛盾を指摘できない」という事実を指摘することもできない。

その結果、燃え尽き症候群の広がりを阻止しようとする多くの取り組みが、狙いは素晴らしくても、実際には機能しない。個人の頑張りすぎが疲労困憊の唯一の原因だと考えていては、見当違いな問題に取り組むことになるだけだ。

マッキンゼー・アンド・カンパニーのバーンアウトに関する研究は、次のように指摘している。「15カ国すべてにおいて、また評価の対象となったすべての側面で、職場での有害な行動が、燃え尽き症候群と退職の意思を占ううえで圧倒的に最大の予測因子だった」

この手の古いマインドセットは、高いパフォーマンスにつながらないだけでなく、有害性が燃え尽き症候群を生み、それがさらなる害を生むという負のスパイラルにつながってしまう。代わりに必要なのは、従業員の能力を最大限に引き出すための、データに基づいた新たなマネジメント・マインドセットだ。望ましいのは「最大限の努力=最大限の結果」ではなく、「最適な努力=最大限の結果」。つまり、努力を減らすことで、より多くの成功を手に入れることである。

新しいマネジメント・マインドセット

そこで効果を発揮するのが「85%ルール」だ。これは、最大限のアウトプットを得るためには、最大限の努力を控える必要がある、という直感に反するルールを指す。常に100%の力で努力していると、燃え尽き症候群に陥り、最適な結果を得られない。

たとえば、短距離走の選手がスタート直後から100%の力で走るよう指示されると、レース全体の記録は遅くなってしまう。オリンピックで9個の金メダルを獲得したカール・ルイスは、「痛みなくして得るものなし」という考え方はばかげていると語っている。「トレーニングは理にかなったものであるべきだ。多くの場合、痛みを感じるまで自分を追い込むよりも、休むことのほうが大切だ」

ルイスのコーチを務めたトム・テレズは、短距離レースで実力を発揮できる選手は、顎と顔、そして目をリラックスさせていると語っていた。「歯を食いしばってはいけません。歯を食いしばると、その緊張が首や体幹から脚に伝わってしまいますから」

部下の燃え尽きを防ぎ、チームの成果を上げる方法

「今日の仕事はここまで」という時間を設定する

可能であれば、マネジャーは「今日はここまで」と仕事を切り上げる時間を設定すべきだ。勤務時間について曖昧な態度を取っていると、決断疲れや成果の減少につながったり、従業員からマイナスの評価を受けたりするリスクが生じる。

有害なマネジャーは、その日の仕事を強制的に切り上げさせる、合理的なタイミングを設定するのは不可能だと考える。ある同僚は、上司から「夕食の時間に帰宅して家族と食卓を囲みたいなら、ここでは出世できない」と、はっきり告げられたという。

一方、取引型マネジャーは、仕事を切り上げる時間を設定することを必要悪と見なしている。彼らは「設定しなければならないから、やるしかない」と、不本意ながらも従業員に時間を守らせようとする。

これに対し、変革型マネジャーは、従業員に適切なタイミングで仕事を切り上げるよう強く求める。たとえば、あるプライベートエクイティファームで、好印象を与えたい新入社員が遅くまで会社に残っていたことがあった。彼は過去に働いてきた会社で、人一倍の努力をすることで称賛されると学んできていた。だが、今回の会社と今回の上司は違った。他の社員が退社しても、彼がまだデスクに残っているのを見た上司は、「どうして、まだ残っているんだ」と尋ねた。「この会社では、緊急事態でない限り残業はしない。明日の朝、フレッシュな気分でいてほしいから、もう帰ってください」

最大限を少し下回る、無理のない努力を求める

努力と疲労は、パフォーマンスの質について混乱を引き起こす要因だ。自分が最大限の努力をしていると認識していると、それが実際に最大の結果をもたらすと勘違いしてしまう。しかし実際には、最大限の努力と最高のパフォーマンスは必ずしもイコールではない。マネジャーはこの点を利用して、チームメンバーに対し、彼らの感じる最大限のキャパシティをやや下回る程度の努力をするよう促すといい。

従業員がこの絶妙なバランスを見つけ、それを維持できるようサポートするために、マネジャーは「100%の力で取り組むのは、どのような状態ですか」と問いかけ、そのうえで「どうしたら、それを85%のレベルに近づけられますか」と尋ねよう。この知覚的な労作レベルという考え方は、潜在的な(あるいは隠れた)疲労を予防するためにリハビリで使われる概念だが、マネジャーが従業員に労力の絶妙なバランスを維持させる目的でも使用できる(下図参照)。

私のせいで、あなたの仕事が必要以上にストレスフルになっていないか」と問いかける

トップパフォーマーはもともとみずから高いモチベーションを有している。そのため、他の人と同じように管理しても、彼らを疲弊させてしまうだけで、退職リスクにつながってしまう。イェール大学のセンター・フォー・エモーショナル・インテリジェンスとファース財団が米国人従業員1000人以上を対象に行った調査では、そのうち20%はエンゲージメントが高く、同時に重度の燃え尽き症候群に陥っていると回答した。

エンゲージメントと疲労が重なるこのグループは、仕事への情熱が強い一方、多大なストレスと不満も抱えている。このタイプの従業員は、仕事を辞めるリスクが最も高い。それも、エンゲージメントの低い従業員以上に、だ。

この結果から、企業が最も有能な従業員を失う原因は、エンゲージメントの欠如ではなく、むしろ強いストレスや燃え尽き症候群であることがうかがえる。

そうした事態を回避するために、マネジャーはトップパフォーマーにシンプルかつ強力な問い──「私のせいで、あなたの仕事が必要以上にストレスフルになっていないか」 ──を投げかけよう。そして、状況を改善するために必要な行動を取るべきだ。

「85%の正しい判断」でよいと伝える

チームとして意思決定を行う場面で、「100%の完璧」を求めてはならない。「85%の正しい判断」で許される場合は、その旨を部下に伝えよう。

完璧主義者には、以下の2つのタイプがあることが研究で明らかになっている。1つ目は「卓越性を求める」完璧主義者で、自分にも他人にも高い基準を要求する。2つ目は「失敗回避型」の完璧主義者。彼らは自分の仕事が十分でないのではないかという不安を常に抱え、完璧でなければ周囲から評価されない、と恐れている。

85%の正しい判断を求めることで、最もパフォーマンスの高い従業員から不要なプレッシャーを取り除くことができる。そうなれば、100%の正しい判断を下そうとして行動を起こせなくなることなしに、チームを前進させ続けられる。

高圧的な言葉遣いに気をつける

マネジャーは、チームとコミュニケーションを取る際の言葉遣いに注意を払うことが重要だ。メールや会議で「大至急」「必要性」「緊急」といった高圧的な表現を使うと、チームメンバーに過度のストレスやプレッシャーを与えかねない。

そうした状況を避けるために不可欠なのは、本当の締め切り、その根拠、トレードオフの可能性について、オープンなコミュニケーションを促すこと。すべての要求を常に受け入れるよう従業員に求めるのではなく、「この業務を引き受けるために、断る必要があるものは何か」と尋ねてみよう。プロジェクトの選択に自主性を持たせることで、優秀な社員が高いパフォーマンスを維持しつつ、燃え尽き症候群に陥るのを予防できる。

会議を10分早く終了させる

最近、あるマネジャーから「どのようなマネジャーにでもなれるのなら、会議を早く終わらせるマネジャーになりなさい」という言葉を聞いた。筆者はこの指摘に、面白さと同時に真実味を感じた。

多くの従業員が、パンデミック当時の「ズームをする、食べる、寝る、それを繰り返す」という生活がいまだに続いていると感じている。たしかに、オンライン会議は以前よりはるかに増えている。そして、オンライン会議は対面での会議や電話で話すだけよりもすぐに、「人間の心身を疲弊させる」ことがわかっている。

マイクロソフトのヒューマン・ファクターズ・ラボの研究によって、会議の合い間に10分間の休憩を取ると、脳の働きに違いが生じることが明らかになった。短い休息がストレスの蓄積を防ぐ一方、次々に会議が続くと集中力と参加する意欲が低下してしまう。

研究チームは14人の被験者に、脳の活動をモニターする脳波計を装着したままビデオ会議に参加してもらった。被験者が参加したのは、2種類の異なる会議セッションだ。まず1日目は、休憩を挟まずに4つの会議に続けて出席し、別の日には同じく4つの会議に、10分間の休憩を挟みながら出席した。以下は、その際の脳波の記録だ。

図表の寒色は、合い間の休憩のおかげでストレスレベルが低下したことを示している。一方、休憩時間を奪われた人は、β波の活動が徐々に増加している。寒色から暖色への色の変化が示すように、時間の経過とともにストレスが蓄積していったことがわかる。この図表は、各会議の開始時のタイミングで、「休憩あり」と「休憩なし」におけるβ波の活動の相対的な差を表している。

マネジャーが会議を10分早く終わらせば、従業員が「赤い脳」に陥るのを回避し、最高の思考ができる「青い脳」に保つことができる。

自身の集中力も85%に設定する

マネジャー自身も自分の心を85%の集中度に設定し、頭が真っ白になるほどのストレスを抱え込まなくても大丈夫だとチームに示すことが重要だ。「深夜や週末に働くな」と言いながら、日曜の午前2時にメールを送りつけるマネジャーもいるが、行動は言葉よりも雄弁だ。

研究によると、従業員は多くのマネジャーが思っているよりもずっと敏感に、上司の意図を読み取ろうとしている。ヒヒは20~30秒に1回の割合で「ボス」であるアルファオスを見ている、という興味深い研究もある。人間もヒヒと大差ない。もしも夜遅い時間や週末にメールを書くのであれば、せめて月曜日の午前9時に送信されるよう送信予約をすべきだ。

* * *

85%ルールは直感に反するように思えるかもしれないが、燃え尽き症候群が深刻ないまの時代には妥当性がある。カンザス大学の心理学者であるスティーブン・イラルディが指摘したように、「人間は、栄養状態が悪く、座りっぱなしで室内で過ごし、睡眠不足で、社会的に孤立した、21世紀の狂乱の生活ペースに合わせてつくられてはいない」のである。

私たちはきっと、もっとうまくやれるはずだ。85%ルールを新たなマインドセットとして採用したマネジャーは、この狂乱を落ち着かせつつ、チームのパフォーマンスを向上させられるだろう。

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