本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日立製作所 代表執行役 執行役副社長 社長補佐 デジタルシステム&サービス統括本部長の徳永俊昭氏と、KPMGコンサルティング 執行役員 Sustainability Transformationユニットリーダー/パートナーの足立佳輔氏の「明言」を紹介する。
日立製作所(日立)は先頃、「Hitachi Investor Day 2024」を開催した。徳永氏の冒頭の発言はその中でデジタルシステム&サービス(以下、DSS)事業の成長戦略について説明し、生成AIの活用に向けて意気込みを述べたものである。
日立は、デジタルトランスフォーメーション(DX)事業として「Lumada」を前面に押し出している。Lumadaは、日立グループの幅広い事業領域で蓄積してきた制御/運用技術(OT:オペレーショナルテクノロジー)、AIやビッグデータ収集・分析などの情報技術(IT)、および製品・設備(プロダクト)を組み合わせ、顧客にとって最適なソリューションを提供するDX支援ビジネスモデルである。
徳永氏は今回のスピーチで、Lumadaにおいて「急速に進化する生成AIを活用して新たな成長機会を獲得していく」ことを掲げ、「顧客業務の生産性向上」と「高信頼のデータマネジメント・基盤提供」といった2つの領域において、図1に示した取り組みに一層注力していくことを強調した。以下、同氏の説明に基づいてそれぞれの取り組みの要点を記しておく。

図1:生成AIを活用した新たな成長機会(出典:「Hitachi Investor Day 2024」徳永氏の説明資料)
「GlobalLogicによるAI適用技術の蓄積」では、日立グループにおいて生成AI活用の先駆者であるエンジニアリング子会社のGlobalLogicがAI関連オファリングで10年以上にわたって業界をリードしていることから、これまで同社が培ってきた技術やノウハウを結集して安全で高信頼、高効率な生成AIを提供していく構えだ。
「ミッションクリティカル領域での生成AI活用」では、DSS部門が蓄積してきたミッションクリティカルなシステム開発の知見と生成AIを組み合わせて、先行している金融分野の顧客との協創を拡大している。既にシステム開発の生産性向上や業務効率化において顕著な効果を確認しており、今後、適用案件をさらに拡大する計画だ。
「OT領域への生成AI適用」では、日立が有するドメインナレッジや現場ノウハウを生かし、生成AIによってフロントラインワーカーのさらなる生産性向上に取り組んでいく。
「生成AIを機会としたデータマネジメント事業の成長」では、企業個々の独自データとオープンデータを適切に管理して価値を最大化する生成AI基盤で成長を加速させていく構えだ。
「データセンターの事業機会獲得」では、拡大するデータセンター需要をOTとデジタルのトータルインテグレーションで獲得していく姿勢だ。
徳永氏はその上で、「これまで説明した取り組みを含め、生成AIによってLumadaを次のフェーズへと進化させていく。具体的には、インフラストラクチャー開発、サービスエンジニアリング強化、生成AI人財拡充といった3つの領域に合計3000億円を2024年度中に投資していく」と明言した(図2)。

図2:生成AIへの重点投資(出典:「Hitachi Investor Day 2024」徳永氏の説明資料)
生成AIの活用における徳永氏の発言で、筆者には印象深いコメントが記憶に残っている。この3月に取材した際に聞いた次のコメントだ。
「生成AIをどう活用するかという前に、自分たちはどうなりたいのか、そのための課題は何かを明確にする必要がある。そうすれば、生成AIをどう使えば効果的かも見えてくる」
肝に銘じておきたいことなので、この機会に紹介しておく。
KPMGコンサルティングがこうした独自調査を行ったのは、日本企業におけるレジリエンスやBCP策定に関わる現状の取り組み状況や課題を明らかにし、従業員一人一人の危機対応能力を高め、かつ組織が一体となってレジリエンスを向上させることが目的だ。国内の上場および未上場の企業(約4000社に調査依頼し176件の有効回答を得た)を対象に実施し、日本における「事業継続計画策定の現況」と「オペレーショナル・レジリエンス(業務の強靭性・復旧力)の取り組みの現況」の2つのテーマについて考察している
レポートの内容については発表資料をご覧いただくとして、ここでは足立氏の発言に注目したい。
同氏は、「当社ではレジリエンスやBCPをテーマにした調査を10年前から実施してきたが、企業を取り巻く環境はここ数年大きく変化し、不確実性が増加した」とし、その要因も自然災害や地政学リスク、サイバーテロ、法令・規制違反リスクなどと広がっていることを指摘した(図3)。

図3:「レジリエンスサーベイ 2024」の特徴(出典:KPMGコンサルティングの会見資料)
その上で、同氏はそうした変化を俯瞰して2つのポイントを挙げた。
1つは、「有事と平時が常に表裏一体になってきている」ことだ。「有事と平時の切り分けが難しくなってきている」という。
もう1つは、「企業の事業継続性に求められる責任や役割が重くなってきている」ことだ。「サステナビリティー(持続可能性)やESG(環境・社会・ガバナンス)が重視される流れの中で、企業の責任や役割における範囲や深さが変わってきている」という。
特に1つ目については、「企業が経営戦略を策定する際は、社内外の状況を把握する必要があるが、その中に有事と平時が入り混じる世界をしっかりと踏まえることが求められるようになってきた」との変化を指摘した。
そして強調したのが、冒頭の発言である。さらに、「企業においてBCP対策は当たり前になりつつあるが、これからは『レジリエンス経営』を成長の機会としてどう捉えるか、オペレーションの中にどう落とし込んでいくかが非常に大事なポイントになってくる」との見方を示した。
「レジリエンス経営」というのは、激動の時代を生きる企業のキーワードになりそうだ。
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