もう始まっている「新たな産業革命」を企業はどう生き抜けばよいか–ガートナーの提言より考察

 デジタルトランスフォーメーション(DX)、そしてAIの活用によるイノベーションは「新たな産業革命」とも言われる。そんな新たな時代を企業はどう生き抜いていけばよいのか。ガートナーの提言を基に考察したい。

新たな産業革命~江戸時代からNew Worldへ

「新たな産業革命はもう始まっている。企業は対応できないと生き残れなくなる」

こう警鐘を鳴らすのは、ガートナージャパン(以下、ガートナー)ディスティングイッシュトバイスプレジデントでアナリストの亦賀(またが)忠明氏だ。同社が8月27~28日に都内で開催した「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット」における同氏の講演での発言である(写真1)。

もう始まっている新たな産業革命で何がどう変わるのか。亦賀氏は、これまでの古い時代を「江戸時代」、これからの新しい時代を「New World」と表現し、次のように説明した。

「まず、江戸時代の産業や業務の在り方そのものが、New Worldではデジタルを前提としたものになっていく。産業については在り方を再定義する必要があるだろう。業務についてはデジタルを活用するのではなく、業務そのものがデジタルになっていくと捉えるべきだ。それに伴い、仕事のやり方や仕事を行う環境、そしてスキルやマインドセットも刷新していく必要がある。こうしてNew Worldに対応していかないと、産業も企業も衰退し、消滅してしまいかねない」

では、企業は、江戸時代からNew Worldへと移行していく新たな産業革命に向けてどう変わっていけばよいのか。亦賀氏は特に企業のIT部門がどう変わっていくべきかという観点から、図1を示しながら次のように説明した。図1:江戸時代とNew Worldにおける企業のIT部門の違い(出典:「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット」亦賀氏の講演資料)

図1:江戸時代とNew Worldにおける企業のIT部門の違い(出典:「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット」亦賀氏の講演資料)

「コンサバティブな江戸時代は、多くのIT部門は業務部門の下請けで、業務部門の要望に沿ってシステムを構築するのが役目だった。ただ、そのシステム構築もベンダーに丸投げするIT部門が多かった。しかし、イノベーティブなNew Worldでは、それでは通用しなくなる。IT部門は新たな産業革命で何が求められるかを理解し、IT活用のプロとしてテクノロジー駆動型ビジネスを模索していく必要がある。それに伴い、システムの構築は内製化を基本とし、ベンダーは戦略的パートナーとして共創していく関係になることが求められる。現状ではまだまだ江戸時代から抜け出せていないIT部門が多いが、まずはNew Worldへ移行する意思を明確に示し、New Worldへの移行に不可欠なクラウドやAIなどの新たなテクノロジーについても自ら積極的に使っていくことが重要だ」

その上で同氏は、「コンサバティブなままでいいのか、イノベーティブに変わりたいのか、経営トップが企業としてどうするのかを明確に示すことが大事だ」と強調した。

ちなみに、同氏によると、変わろうとするタイプは「時代の変化に合わせてスキルを身に付け、自分事として仕事の仕方を改善する。何でも自分で調べ、自分で学び、使えるところで割り切って使い、仕事を効率化する。そして、顧客およびパートナーとの関係を大事にする」だという。

一方、変わろうとしないタイプは「何事も人ごとで『うちは違う』と言い張り、自分の会社が世界の中心だと思っている。世の中の変化を無視し、スキルも身に付けず、業務改善もしない。何でも人に手取り足取り、完璧にお膳立てしてもらわないと何もしない。顧客や従業員の満足、テクノロジーによる革新など関係ない」というのが、従業員のマインドセットの違いだとか。

かなり極端な比較の表現だが、特に変わろうとしないタイプの「何事も人ごとで無関心」「手取り足取りのお膳立てが必要」との指摘は、程度の違いこそあれ、今も多くのケースに見られるのではないだろうか。

「チーフ産業革命オフィサー」(CIRO)を新設せよ

亦賀氏はさらに、DXにおける企業内でのIT部門の役割を巡るアンチパターンについて、図2を示しながら次のように説明した。

図2:DXにおける企業内でのIT部門の役割を巡るアンチパターン(出典:「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット」亦賀氏の講演資料)
図2:DXにおける企業内でのIT部門の役割を巡るアンチパターン(出典:「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット」亦賀氏の講演資料)

「DXに取り組み始めた企業が多くなってきた中で、最悪のパターンは何かというと、まずデジタルのことならIT部門だと考える経営者がDX推進をIT部門に丸投げする。経営者から命令されたIT部門はDXらしきシステムを開発して業務部門に持って行って『使ってください』とお願いする。一方、システムだけ渡された業務部門はそれでどのような効果を生み出せるのか、業務改革につながるのかを見いだせず、反発する。そうした中、DXが進まない状況にしびれを切らした経営者は『どうなっているのか』とIT部門を責めるといった悪循環だ。こうなってくると、IT部門は疲弊していくだけになる」

図2の左に示したのが、その悪循環の構図だ。これについて同氏は、「まず、経営者はDXを決してIT部門に丸投げしてはいけない。なぜか。それはIT部門の能力が不足しているからではなく、オーナーシップの問題だからだ。DXはすなわち全社にわたる業務改革であり、AIをどんどん活用していくことによって新たな産業革命に発展する。しかもその動きはもう既に始まっている。IT部門にそこまで進めるオーナーシップを持たせている企業はないだろう」と説明した。

では、どうすればよいのか。亦賀氏は図3を示しながら、次のように述べた。

図3:「チーフ産業革命オフィサー」(CIRO)の新設を提案(出典:「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット」亦賀氏の講演資料)
図3:「チーフ産業革命オフィサー」(CIRO)の新設を提案(出典:「ガートナー デジタル・ワークプレース サミット」亦賀氏の講演資料)

「新たな産業革命の動きを見据え、AIをはじめとしたデジタル技術もフル活用した上で、企業をNew Worldに導いていく『チーフ産業革命オフィサー』(Chief Industry Revolution Officer=CIRO)を新設することを提案したい。CIROに産業革命を見据えた企業改革を大胆に進めてもらうようにすればよい」

図3にはCIRO像を浮かび上がらせるために、「戦略家」「軍師」「ファシリテーション型リーダーシップ」「クリエーター」「アーティスト」といったキーワードが並んでいる。同氏は講演の最後に改めて「新たな産業革命はもう始まっている」と述べ、「企業はCIROを任命してトランスフォーメーションを加速せよ」と提言した。

筆者も同意する。最高経営責任者(CEO)の参謀としてそれぞれに役目を担うCxOとも密接に連携することが求められるが、何よりも「自社が新たな産業革命のまっただ中にいることを全従業員に強く意識づけして行動変容を呼び起こす」のが最大の役どころではないか。そんな日本企業がどれくらい出てくるか、注目していきたい。

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