“カスタマーゼロ”で顧客を導く「Agentforce」活用成功の秘訣

 Salesforceは、AIエージェントが全ての従業員と協働する働き方として「エージェンティックエンタープライズ」を提唱し、AIエージェントプラットフォーム「Agentforce」を提供している。同社でAgentforceの活用を率いるエグゼクティブバイスプレジデント(EVP) 兼 最高デジタル責任者(CDO)のJoe Inzerillo(ジョセフ・インゼリロ)氏に話を聞いた。

Salesforce EVP 兼 CDOのJoe Inzerillo氏

同社は、“カスタマーゼロ”として顧客とほぼ同時にAgentforceの社内利用を開始した。最初はカスタマーサポートに導入し、現時点で約200万件の対話を処理しているという。AIエージェントが一次対応を担い、二次対応を人間が担うことで、顧客満足度は導入前と同等かそれ以上に向上し、人間のオペレーターは顧客支援などのほかの業務に時間を費やすことができている。

社内と市場の同時に投入することにリスクを感じなかったのかと聞くと、同氏は「確かに感じた。しかし、私たち自身の経験に基づいた、『AIエージェントのライフサイクルを安全に構築する方法』をお客さまに教えることができる。変革はいかなる場合も困難だが、より安全に実行する方法を見つけることができれば、より大きな変革が可能になる」と述べる。

同氏は、営業チームを支援する「Agentforce for Sales」で提供されている「Agentforce Sales Development」をAgentforceの好事例として紹介した。

Agentforce Sales Developmentは、AIエージェントがサービスに関する質問に自律的にメールで回答し、顧客からの問い合わせに適切に対応する。また、営業担当者に代わって会議の日程調整などを行い、インバウンドリードを24時間体制で行う。

従来、同社では顧客となり得るウェビナー参加者などの情報を基に、サービスの販売方法を担当者が模索していたが、人員不足のため多くは一斉送信の自動応答で対応していた。しかし、Agentforce Sales Developmentによって、これまで取りこぼしていた見込み顧客とAIエージェントが1対1でが対話することで、数千万ドルのパイプラインを生み出したという。

「この見込み顧客への対応は、自動メールが送信される以外には何も起きていなかったため、Agentforceの導入に関してリスクは非常に低かった。私たちが何をしても、以前より良くなるはずだったからだ。そして、試行錯誤することで新しいことに挑戦し、AIエージェントの能力を向上できた。私たちは、ほとんど価値のなかった安全なものから着手し、それを価値あるものに変えた」と振り返る。

また、グローバルで課題となっているデータのサイロ化について、同氏はAgentforceを活用する上で大きな問題ではないとする。Agentforceは「Data 360」の上に構築されており、企業のさまざまなシステムやデータに接続することで、あらゆるデータをAIエージェントが利用できるようにしている。

AIエージェントが人間の助けを必要とするのは、相反する二組の事実がある場合で、例えば「太陽が照っているが、寒い」という事象は人間であれば理解できるが、AIエージェントは異なって見える2つが同時に存在することに問題を感じる可能性がある。同氏は、AIエージェントは、データの中に潜む矛盾点を見つけ出し、表面化させる助けになると説明する。

実際に、企業がAIエージェントを導入するに当たり必要なことは、「仕事を異なる視点から捉え、分解することだ」と話す。従業員の業務を代替させるためにAIエージェントを導入することは現実的ではないという。

そのために、まずはAIエージェントに「何ができるのか」「何ができないのか」を理解することが重要になる。そこで、カスタマーゼロとして経験を積んだ同社が、顧客に対してAIエージェントが何が機能するのか、そして何が機能しなかったのかも正直に伝えるように努めている。顧客はこうした情報を基に、AIエージェントが持つ能力に合わせて仕事を設計し、AIエージェントの活用を成功に導く。

また、AIエージェントは単なる追加機能ではなく、企業の仕組みや考え方を変える変革の一部であると同氏は言う。「一切の変革を望まない企業は、“エージェンティックエンタープライズ”に変革したい企業よりも、エージェントでの成功は低いだろう」と指摘する。

AIエージェントの活用を成功に導くには、自社について深く考え、何を変革できるか、AIエージェントをどのように活用できるかを真剣に考える必要があると語った。

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