HBR Staff 新型コロナウイルス感染症が終息しても、コロナ前の働き方に完全に戻ることはなく、リモートワーカーが増加することが予想される。企業はコロナ禍の経験を活かして、リモートワークやハイブリッドワークが常態化する未来の働き方を設計しなければならない。すなわち、オフィスワークを前提とした会社の制度やマネジメント慣行を見直す必要がある。本稿では、それぞれの検討を進める際に重要なポイントを示す。
Source: あなたの会社は長期的なリモートワーク戦略を策定しているか – HBR.org翻訳マネジメント記事
コロナ後にリモートワーク化が進むという点では、ほぼすべての予測が一致している。要するに、圧倒的大多数の企業で、コロナ前よりもリモートワークが拡大すると予想されているのだ。
コロナ禍での行動制限が緩和されるのに伴い、企業のリーダーは、自社にとって最適なリモートワーク戦略を決定する必要がある。2020年の前半に突然、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてリモートワークへの移行を余儀なくされた時とは異なり、今回は自発的かつ計画的に働き方の転換を進められるはずだ。
しかし、PwCの最近の調査によると、その調査対象となった米国の133人の企業幹部のうち3分の1近くは、コロナ後のリモートワークに関する方針を「流れに任せる」としか述べていない。
筆者らは企業リーダーに対して、単に事業活動を「平時に戻す」のではなく、コロナ禍のリモートワークの経験を活かし、未来のリモート型もしくはハイブリッド型の働き方を意識的に設計するよう勧めたい。リモートワークに関する方針や慣行を戦略的に検討すべきだ。会社組織を率いるリーダーも、小さなチームを率いるリーダーも、そのための計画立案を始めたほうがよい。
筆者らがこれまで取り組んできた学術研究、そして幹部教育とコンサルティングの経験から言うと、リーダーたちが下さなくてはならない重要な決定は、大きく2種類に分けられる。1つは会社の制度に関わるもの、もう1つはマネジメント慣行に関わるものだ。本稿では、それぞれの領域で新たに生まれつつある重要なトレンドを紹介したい。
会社の制度
自発的にリモートワークを導入する際は、会社の制度をアップデートし、さまざまな場所で仕事をする働き手のニーズに応えられるものにしなくてはならない。既存の制度を見直すにあたっては、以下の問いに答える必要がある。
●自社で最適なリモートワークの割合はどの程度か
選択肢としては、リモート中心、ハイブリッド型(週に2、3日だけオフィスに出勤する)、オフィス中心の3パターンがありうる。自社に適した制度を決定するうえでは、以下の戦略的要素を考慮に入れる必要がある。
・業務の性格:リモートワークに最も適しているのは、協働やすり合わせの必要性が小さく、個人単位で行う仕事だ。協働の要素が大きい仕事もリモートワークでうまく行える可能性はあるが、そのためにはより多くの労力が必要となる。
言うまでもなく、リモートワークができない仕事もあるが、そうした仕事の種類は一般に思われているよりも少ないのかもしれない。企業はリモートワークの領域を押し広げ続けている。
ロボット工学や拡張現実(AR)などのテクノロジーを駆使して、製造業の現場でリモートでの機械整備を行ったり、医療現場でリモート検査やリモート診断を導入したりする動きも見られる。
・働き手の経験:新入社員や昇進したばかりの人物は、しばらくの間はオフィスに出勤して働くことの利点が大きい。そのほうが人間関係を築きやすいし、暗黙知はオフィスで働くほうが吸収しやすい。もしリモートワーク中心に移行するのであれば、リアルタイムでバーチャル・オリエンテーションを開催したり、合宿研修を行ったりするとよいだろう。
・働き手の選好:人によって性格も違うし、リモートワークを好む度合いも違う。そこで、一人ひとりの選択も考慮に入れるべきだ。また、どのような働き方をしたいかという話し合いは、最初に1回行うだけでなく、新しい働き方が定着した段階であらためて行うことが望ましい。
・温室効果ガスと不動産コスト:環境へのダメージを抑えることやビジネスを成長させやすくすることを考えれば、オフィスへの出勤を減らして、温室効果ガス排出量と不動産コストを抑えるほうがよいだろう。
●WFA(ワーク・フロム・エニウェア)を検討する用意はあるか
WFAとは、業務の生産性を落とさないことを条件に、社員が自分の好きな場所で働くことを認める形態だ(ただし、たいていは米国内やEU内といった一定の制約がある)。
WFAに関する初期の研究によれば、勤務場所を柔軟に選べるようにした場合、働き手は、それまでより大きな人生の目標を追求するようになり、「居住地への満足感」が高まる。その結果、在宅勤務(WFH)よりも生産性が向上する可能性もあるという。
WFAを導入することの戦略上のメリットとしては、潜在的に採用可能な人材の層が厚くなることに加えて、引く手あまたの人材の獲得競争で有利な立場に立てることを挙げられる。
ただし、企業のリーダーは、WFAで社員が別々の時間に働くことで生まれる恩恵を最大化する一方で、スケジュールの決定や業務のすり合わせなどが難しくなることに対処しなくてはならない。また、自宅で仕事をする人の数が増えたり、職種が拡大したりすれば、リモートワーカーに影響を及ぼす州ごとの税制も変わっていくだろう。
●強力な企業文化をどのように維持するか
リモート型もしくはハイブリッド型の働き方への移行が進めば、企業文化を強化したり、洗練させたりする必要が出てくるかもしれない。社員がばらばらの場所で働く場合、重要な規範や価値観、前提を共有することがOriginal Postages/viewpoint-why-remote-work-doesnt-have-to-dilute-your-companys-culture.aspx" target="_blank" rel="noreferrer noopener">難しくなる。
バーチャル環境で企業文化を維持する手立てとしては、共通の体験を育むための社員集会や昼食会、価値観が浸透しているかどうかをチェックするための状況確認、重要な活動についてのコミュニケーションの徹底などが有効だ。
●自社の人事制度のどの部分をアップデートする必要があるか
リモート型もしくはハイブリッド型の働き方への移行を目指す企業は、さまざまな人事制度や慣行を変更しなくてはならない場合がある。
・採用戦略で重んじるスキルや能力を変える必要があるかもしれない。たとえば、自分でモチベーションを維持する能力、主体的に行動する能力、円滑なバーチャル・コミュニケーションを行う能力などが重要になるだろう。
・勤務形態や居住地による給料の調整など、給料決定のあり方も考え直すべきだ。ある調査によると、働き手の約44%は、恒久的にリモート勤務ができるのであれば、給料が10%減ってもよいと考えている。フェイスブックやツイッターのように、本社ではなく、物価の安い地域での在宅勤務を選択する社員の給料を調整する方針を、すでに明らかにしている企業もある。
・福利厚生制度も、これまでのように職場で利用するタイプのものばかりでなく、リモート環境でも利用できるものを増やすべきかもしれない。たとえば、筆者らの顧客の一人が働く会社では、スポーツジムの利用権に代わり、オンライン・フィットネスの「ペロトン」の利用権を提供し始めているという。
●どのような新しいタイプの研修が必要か
リモートワークにおいては、テクノロジーや企業方針に関する研修と同等もしくはそれ以上に対人関係面の研修が重要だと、企業は気づき始めている。最近の調査によると、企業幹部の64%は、マネジャー向けにバーチャルなチームのマネジメントについての研修を行う意向だという。
一方、筆者らの調査によると、コロナ前、社員にバーチャルワークに関する研修を行っていた企業は30%に留まっていた。しかも、その研修はソフトウェアの使い方と会社の制度を学ばせることにほぼ終始していた。
筆者らは企業に対して、リモートワークに有効だとわかっている「対人」スキルの研修を行うよう勧めている。具体的には、職場ルールの確立、信頼関係の構築、好ましいバーチャル・コミュニケーションのあり方の指導、バーチャルな職場への社交の要素の導入などを目指すとよいだろう。
たとえば、いわゆる「バースト性の高い」コミュニケーション(アイデアの提案とそれに対する返答が素早く活発に行われる)は、生産性を向上させ、リモートチームの成果を高める効果があると実証されている。そこで、そのようなコミュニケーションの方法をトレーニングすることも効果的かもしれない。
また、ハイブリッド型の働き方を導入するうえでは、リモート勤務のメンバーとオフィス勤務のメンバーの間の公平性を確保するために、ハイブリッド型チームのマネジメントに関する研修を行うことも有益だ。
マネジメント慣行
適切な制度を設けることに加えて、リモート型もしくはハイブリッド型の働き方に適したマネジメント慣行を取り入れることも重要だ。リモートワークを長期的に導入する際、マネジャーは以下の点を検討する必要があるだろう。
●健全なリモートワーク環境をどうやって築くか
リモート型もしくはハイブリッド型のチームを長期にわたってマネジメントするうえで特に重要な要素の一つは、リモートで働きやすい組織風土を築くことだ。ここで言う組織風土とは、組織文化とは異なり、社員が職場環境に対して抱いている認識を意味する。
この目的を達成するためには、リーダーの後押しの下、リモート環境での同僚同士の関わり方についての宣言を発してもよいだろう。コロナ禍が始まってほどなく、IBMの社員たちは「在宅勤務に関する誓い」を作成し、リモート環境でどのようにコミュニケーションを取り、同僚と接するべきかというルールをまとめた。
最終的に、この現場レベルの取り組みがCEOのお墨つきを得たことにより、リモートワークで守るべきルールに関して強力なメッセージが全社に向けて発信された。このような声明や方針をリーダー主導で打ち出せば、コロナ後のリモートワーク環境に好ましい影響を及ぼせるだろう。
●社員が仕事と家庭を両立するのをどうやって助けるか
リーダーは、リモート型もしくはハイブリッド型の職場環境で社員が仕事と家庭を両立させる手助けができる。たとえば、完璧なバランスを取ることを目指す必要はなく、自分に最適なリズムを見出せばよいのだと、手本を示すことも有効かもしれない。
どのように仕事と家庭を両立すればよいかについて、社員はマネジャーを手本にする。境界マネジメントに関する研究によれば、リーダーはいくつかの面で社員が「線引き」を行う支援ができる。たとえば、以下のようなことが可能だろう。
・物理的/空間的な線引き(例:専用の仕事場を設ける)
・時間の線引き(例:仕事に最適な時間帯を見つける)
・対人関係の線引き(例:同僚に連絡を取ってよい時間帯を知る)
・認知面の線引き(例:仕事の統合と分割のどちらを好むか)
・行動上の線引き(例通勤がなくなっても仕事と私生活の切り替えをしやすいように、散歩をしたり、エクササイズ用のバイクを漕いだりする)
●心理的安全をどうやってつくり出すか
研究によると、高い成果を上げているチームには心理的安全がある。つまり、罰せられたり、仲間外れにされたりすることを心配せずに、社員が自由に発言し、支援を求め、アイデアを提案できるのだ。
心理的安全は、リモートワークでも極めて重要だ。そして、マネジャーの取り組みによってそれを強化することができる。具体的には、マネジャーは以下のような行動を取ればよい。
・問いを発する(部下の近況を尋ねるなど)
・弱い部分を見せる(自分の失敗談、たとえば重要なビデオ会議でうっかりして、自分の顔がネコになる加工アプリを使ってしまった経験などを披露する)
・全員の参加を促す(「どう思いますか」「意見を聞かせてください」「何か見落としていることはありませんか」などと尋ねる)
・リスクを伴う行動を奨励する(社員が新しいアイデアを試したり、新しいプロセスを提案したりすることを認める)
●従業員エンゲージメントをどうやって高めるか
研究によれば、思いやりや気遣いを示すなど、質の高いやり取りを少し行うだけでも、ストレスを和らげ、ウェルビーイングを高める効果がある。1日の間にこのようなやり取りがたびたび行われれば、社員の帰属意識が高まり、リモートワークに付き物の孤独が緩和される。
リモートワークで働く人たちを対象にした調査によれば、コミュニケーションのリズムの予測可能性が高ければ、生産性が向上し、同僚との信頼関係が強化されるという。
マネジャーはそうしたリズムを確立するために、部内のミーティングの機会を利用して、社員同士が絆を育んだり、個人的な関係を強化したりするようにすればよい。具体的には、一緒に歌を歌ったり、写真を見せ合ったり、愉快なエピソードを披露し合ったりすることも効果的だろう。
そのほかに、リーダーはチームの協働に関する慣行も確立すべきだ。ばらばらの場所で働くバーチャルチームの中で基本的な思考様式の共有を進めることにより、共通のアイデンティティと共通の認識を生み出せる。この点では、チームとして追求する目標を設定したり、情報の文脈を共有したり、チームのパーパスを明確化したりすることが有効だ。
これについては、これまでのオフィスにおけるチームづくりと変わらない。オフィスで働く社員とリモート勤務の社員の絆を育む効果のあるイベントは継続すべきだし、今後はそれに加えて、バーチャル雑談やバーチャル・オフィスアワーなどの機会も用意する必要がありそうだ。
●社員同士の信頼と責任ある行動をどうやって育むか
マネジャーはコロナ後の時代、リモートチーム内の長期的な信頼関係を築き直すことに苦労するかもしれない。リモートワークの場合、社員の行動やモチベーションを把握することがオフィス勤務より難しい。そのため社員の能力と信頼関係を育むことは、時として容易でない。
この点に関して、マネジャーはテクノロジーを活用することにより、適切な目標を設定し、随時アップデートしていけばよい。テクノロジーは、目標の達成状況についてフィードバックを行うためにも有用だ。
たとえば、ゼネラル・エレクトリック(GE)は、既存の成績管理システムを廃止して、代わりに「PD@GE」というコーチングアプリを導入した。これは、社員にリアルタイムで情報を提供し、フィードバックを行うためのものだ。マネジャーは年間を通して部下と接点を持つことで責任ある行動を促し、成長を後押しするものとされている。
はき違えてはならないのは、テクノロジーを導入する目的が、あくまでも社員と情報を共有し、社員を導くことにあるという点だ。テクノロジーは、リモートワークの社員が仕事を怠けていないかを監視するためのものではない。
コロナ禍が去れば、リモート型もしくはハイブリッド型の働き方を導入すべきか、導入する場合はどのようにそれを推し進めるべきかについて、戦略的判断を下さなくてはならない。意識的に計画を立てることにより、企業は主体的に自社の制度とマネジメント慣行を見直し、リモートワークのあり方を変えることができる。
この1年間で、あなたと社員たちがどれくらい学習できたかを振り返り、その新しい知識と経験を基に、自社にとって最適の職場を築けばよいのだ。
HBR.org原文:What Is Your Organization’s Long-Term Remote Work Strategy? March 24, 2021.
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