未来の可能性と選択肢がひらかれた社会をつくる「日本版Smart Societyプロジェクト」 – Cogitans in Talk

前回の鼎談では、産官学連携によるCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)によって日本の社会課題の解決を目指す「日本版Smart Societyプロジェクト」の第1弾、「デジタル防災訓練」について紹介した。今回は、プロジェクト全体のコンセプトと、それによって実現を目指す未来像について、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com) 執行役員 イノベーションセンター長の稲葉秀司氏と、CSVの実現やメガトレンドなどに深い知見を持つモニター デロイトの三室彩亜氏に話を聞いた。

圧倒的に生産性が高く、人にやさしい社会にしたい

――NTT Comが「日本版Smart Societyプロジェクト」を立ち上げるに至った背景や課題意識について、聞かせてください。

稲葉 背景にあったのは、「日本の未来」に対する危機感です。特に、日本は人口減少と少子高齢化が“同時かつ急速に”進展する、世界に類を見ない国だからです。

令和3年6月に国土交通省から出された「国土の長期展望」最終とりまとめによれば、日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに減少の一途をたどっています。そして、高齢(65歳以上)人口は2015年の3387万人から2050年には3841万人に増加します。総人口における割合(高齢化率)は約38%です。一方、彼ら彼女らを支える生産年齢(15〜64歳)人口は、2015年の7728万人から2050年には5275万人と約3分の2に減少します。1人の高齢者を支えるのに必要な働く世代が1.5人を切るのも、もうすぐそこに迫っています。

稲葉秀司NTTコミュニケーションズ株式会社
執行役員イノベーションセンター長

そして、仮に1人当たりの労働生産性を現状と同等とするなら、2050年にはGDPはいまの3分の2の規模に縮小するといわれています。人口減少という“量的変化”が避けられないのであれば、働き方改革やテクノロジーへの資本投入といった“質的変化”を促していくしかありません。

私たちNTT Comを含むNTTグループは、ICTやデジタルで、そうした質的変化を支援できる力を持っています。その力を使って社会課題の解決という大きなテーマに少しでも貢献できないかという課題意識が、「日本版Smart Societyプロジェクト」を立ち上げた背景にあります。

――高齢人口が増え続ける中でGDPが減少してしまうと、社会保障制度を含めて社会基盤を維持することが難しくなります。

稲葉 人口減少や経済の縮小が進むと、社会に歪みが生じます。その最たるものが、格差の拡大です。ICTやデジタルの力で生産性を上げるというのはNTTグループの大きなテーマの一つですが、一方で、すべての人々が格差で分断されることなく、明るい未来を手に入れられるようにすることも、社会基盤を担ってきた私たちの使命だと思っています。

私個人としても、以前から「日本を圧倒的に生産性が高く、人にやさしい社会にしたい」という根幹のテーマを持っていました。そうした思いに共感してくれる社内メンバーが集い、さまざまな議論を重ねる中で、「日本版Smart Societyプロジェクト」が形づくられていったのです。

――NTTComとモニター デロイトが互いに共感し、「日本版Smart Societyプロジェクト」に取り組むことになった経緯はどのようなものですか。

稲葉 以前にモニター デロイトからCSVに関するレクチャーを受けたことがあり、経営のマネジメントサイクルにおいて長期と短期をダイナミックに行ったり来たりしながらフレキシブルに軌道修正を図っていく「Zoom out/Zoom in」の考え方などに共感を覚えました。

社会課題の解決は一企業だけでできるものではありませんから、プロジェクトを立ち上げるに当たって、まずは一緒に取り組んでくださるパートナーを募ろうということになりました。我々が思い描いている2030年の社会の姿に、共感と、具体的なアイデアの両方を持つモニター デロイトも、その一つでした。

三室 コンサルティングという仕事においては、さまざまな企業などから「このようなスキルや業務を提供してほしい」という書類を見る機会がありますが、NTT Comが描いていたのは、未来への思いがこもったレターのようなもので、心動かされる内容だったのを覚えています。

何より、短期的な事業収益やビジネスの変革ではなく、CSVの観点に立って、「2030年までにこんな社会をつくりたい」という時間軸を置いていることが、熱意を象徴しているように感じました。

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