Z世代に特徴的な「悟り」就活とは?–データで見る「見切りや決断の早さ」

 就職活動の早期化が加速するなかで、Z世代の学生は就活を早く始めて早く終えるという特徴があり、特に優秀層の学生たちにその傾向が顕著です。早期化の現状、その背景、また、企業はどのような対策をすべきなのか。Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬氏(くさぶか・いくま/現RECCOO COO兼CHRO)が解説します。

加速する就活の早期化。「早く始めて早く終える」がZ世代の特徴

就活の早期化が言われて久しくなりますが、最近はさらに加速しています。ただ、以前は、始まりは早まっているが、終わる時期は変わらない、つまり、就活が長引くことがリスクとして捉えられていました。ところが、最近は、就活を早く始めて早く終える傾向が見られます。

現在、2024年卒の学生たちに対して、インタビューを行っている最中ですが、すでに志望企業を絞っている学生が、去年の同時期に比べると増えています。「大学3年の夏前から動き出す」という意味での早期化はすでに当たり前になっていますが、彼らは年をまたぐことなく、志望企業を決めてしまう。従来は、大手企業の面接が行われる大学4年の6月頃を目掛けて動いていたのが、それも待たずに就活マーケットからさっさと姿を消す学生が多いのです。

背景として、Z世代の“悟り”感が伺えます。

彼らは、残念なことに将来に対する明るい期待、展望をそれほど強くは持っていないという特徴があります。そのため、就活に関しても、最低限の時間とエネルギーだけを使い、適度に名の知れた企業に絞った就活をし、後は残りの学生生活を楽しもう、と考えている人が多いようです。一生懸命に就活をして、より良い企業に入り、高給を取り、いい地位に就きたいといった、いわゆる”成功”への願望が薄れているようです。正確には”成功”の定義そのものが変化していると言うべきかもしれません。

Z世代は会社勤めに対するプライオリティが低い

今や、TikTok、インスタグラムなどを使い、誰もが何十万人にも影響を与えるインフルエンサーになれる可能性があります。何かに特化した能力を持っていれば、学生でも広告費などで何百万円、何千万円といったお金を稼ぐことができるのです。多くのフォロワーが付いて成功している友人が身近にいる、そんな学生生活も珍しくはないのです。

そうなると企業に入って、コツコツと働き、何十年か後にそれが大きくなって返ってくるというイメージは描きにくいと思われます。会社勤めの経験から得られる「社会人としての素養」もあるとは思いますが、それがなくとも生活できるし、それでよしとする傾向がZ世代にはあります。企業や組織に所属しなければいけない、という感覚が薄く、会社に勤めることそのものへのプライオリティが低くなっているのです。

また、日本経済に関してあまり明るいニュースが聞かれない今、一生懸命、就活して会社に入り努力したとして、その先で何か得られるのか?と疑問に感じているのでしょう。それまでの世代のように、なるべく多くの企業に貪欲に申し込み、ハイレベルな企業にも記念受験的にチャレンジするような姿勢は薄れ、ある程度知名度があって、自分が興味を持てる企業だけエントリーしている様子が伺えます。

さらに、転職へのハードルも低くなり、新卒採用という入口で一生懸命にならなくても後から挽回できると考えている人も多くいます。

優秀層ほど早く動き出すが、企業側の準備ができていない

特に偏差値上位校の学生など“優秀層”と呼ばれる学生ほど早期に志望企業を絞り、内定をもらったら就活を終わりにする傾向があります。

企業側もその動きに合わせないと、彼らを採用できないという不安があり、オファーを出す時期が早くなっている。まさに、いたちごっこで、今後も就活の早期化が加速する恐れがあります。

ただ、就活の始まる大学3年の夏前までに企業側は十分な準備ができていません。結果として学生は企業を訪問したり、説明会に行くような機会をあまり持てない。就活に役立つ情報がマーケットにそれほど出ていない状況で志望企業を絞っているのです。何かのきっかけで出会った企業が、知名度があり、レピュテーションがよければ、そこに決めてしまいます。たくさんの企業を訪問し、自分にとってベストオブベストの会社を選ぶためには、多くのエネルギーが必要です。しかし、彼らはそこに多くのエネルギーを割くことに意味を見出せない。これがZ世代の“悟り”です。

以下、データを参照しながら、Z世代に特徴的な、就活における見切り、決断の早さを解説します。

インターンのエントリー数が30%も下がっている

下記データ【24卒夏インターントレンド(23卒比較)】の「エントリー平均」を見ると、2024年卒の学生は、3年夏のインターンシップのエントリー数が30%以上、下がっています。

いろいろな企業にエントリーして情報収集することをせずに志望業界を決め、ターゲットを絞っている様子が伺えます。絞る根拠は、企業の知名度、自分がその企業に持っている印象など、主観的なものだと思われます。

24卒夏インターントレンド(23卒比較)

「入社5年未満の転職に抵抗がない」が50%。転職を前提に就活している可能性も

次に、転職意向に関するデータを見てみましょう。

2023年卒の学生を対象にしたアンケートでは「キャリアアップ目的の場合」というポジティブな理由でも、入社1~5年未満の転職に抵抗がないと答える人が合計50%を超えています。「入社後にギャップを感じた場合」は、さらにその数字が上がります。つまり、学生の半数以上は転職に抵抗がなく、転職を前提に就活している可能性があり、一つの会社で長く働くという感覚が薄れているのです。

(2023年卒)キャリアアップ目的の場合

(2023年卒)入社後にギャップを感じた場合

一方、コロナ前に就活を終えた2020年卒の学生のアンケートでは、「5年以内」は8.7%で、10年以内を合わせても20%以下です。

(2020年卒)2019年2月実施学生アンケート

コロナ後に学生たちが転職に対してさらにオープンになった理由ですが、コロナ下で情報が十分に集められなかった不安な状況が影響しているようです。少ない情報を元に決断しなければならなかった彼らは、「一生を捧げる企業を選ぶのではない、合わなければ転職すればいい」と考えた。そうすることで精神衛生を保っていたのではないかと推測できます。

データでも明らかな、優秀層の早い動き

最後にひとつ、2022年10月に調査した「学生全体と優秀層の動きを比較したデータ」を紹介します。「就職活動の情報収集開始時期」について尋ねたところ、優秀層では12月ごろから約20%以上が活動的であるのに対し、学生全体では10%を下回る程度の学生しか活動していないことがわかりました。

また、「内定承諾をするタイミング」についても、優秀層はより早期から意思決定し始めており、4年生の6月までにはほぼ市場からいなくなっています。対して、学生全体で見ると、7月に入ってからもおよそ4分の1はまだ内定承諾を迷っていることがわかりました。

かつては就活に対し、学生たちは長いキャリアの入口を簡単に決めるのは危険だという意識がありました。大学の先輩あるいは両親に意見を求めたり、自らいろいろな会社の説明会に行って情報収集しようという一生懸命さがあったのです。ところが現在では、会社勤めにプライオリティを見出せず、就職後3?5年以内の転職も珍しくありません。そのため、全体的な傾向として就活に対する、一生懸命さ、熱意が低下しているように感じられます。

このような学生たちに対して企業はどう向き合えばいいのでしょうか?

次回は、Z世代の“悟り”就活の背景を掘り下げて、企業の対応策について解説します。

草深 生馬(くさぶか・いくま)

株式会社RECCOO CHRO

1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。

2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。

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