多様な人材と柔軟な組織運営–DXが定着した企業の要件(その3)

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の定着化のためには、デジタルが前提となる将来の要件を満たす人材を確保・育成していかなければなりません。また、会社全体としても優秀な人材を確保し、活躍できる組織運営環境を整えていくことが求められます。

人材の多様化を前提に考える

前回は、DXが定着した企業の5つの要件の2つ目の要素として「データドリブンな意思決定」を挙げました。今回は、これに続いて「多様な人材と柔軟な組織運営」について考えていきます。

DXの定着化のためには、デジタルが前提となる将来の要件を満たす人材を確保・育成していかなければなりません。今後、少子高齢化によって日本人の就労人口が減少することが懸念されていますが、企業は人材の不足を補うために、高齢者、子育てや介護中の人々、外国人などの雇用を促進すると考えられます。

就労者のダイバーシティーが進行するにしたがって、多様な雇用形態や就労形態に対応した職務環境を提供することが求められるようになるでしょう。また、多様な雇用形態が浸透するだけでなく、在宅勤務、非常勤、副業・兼業といった自由度の高いワークスタイルもより一般的になっていくでしょう。そのような働き方を提供できなければ、優秀な人材を集めることがますます困難になっていくと考えられます。

会社全体としても組織運営の在り方を見直し、多様性を持った人材が活躍できるような柔軟な組織運営を実現していくことが求められます。特に、デジタルを前提としたビジネスにおいては、事業や業務の全てを、従来のように社内の固定的な組織だけで完結して遂行することは多くありません。他社との協業や業務提携、企業や業種の枠を超えたエコシステムの構築、アウトソーシング、合弁、吸収合併などによって、事業や業務を実現していく割合が増加します。これらを円滑に進めるには、制度の緩和や整備に加え、場所や組織を問わない協調的な業務が遂行できる職場環境やコラボレーションの仕組みが必要となります(図1)。

組織のトライブ化を促進する

DXの定着化においては、DXを中心的に推進する専門組織の体制作りだけでなく、全社のあらゆる組織をデジタルの時代に即したものに変革する必要があります。

今後、デジタル化が進展し、多様な人材や働き方を受け入れていくことで、組織は「トライブ化」していくと予想されます。「トライブ」とは、もともとは「部族」を意味し、何らかの共通の興味や目的を持ち、互いにコミュニケーションの手段があることで緩やかにつながっている集団を指します(「トライブ~新しい“組織” の未来形」セス・ゴーディン著、講談社)。これまでの組織は、基本的にピラミッド型の階層構造で成り立っており、情報の流れは上意下達、意思決定はトップダウン型、上位と下位の情報格差が大きい、他の組織は見えない、といった特徴を持っていました。成熟した事業を円滑かつ安定的に運営するには、この構造が向いていたといえます。

一方、トライブ化が進行した企業組織は、所属するメンバーが固定的でない、情報の流れや指揮命令系統がいわゆる上意下達ではなく対等で縦横無尽である、部署や会社という枠を超えた協調や交流が実現されている、といった特徴を持ちます。そうした組織で遂行される業務(主に知的業務)は、社内外を問わずそれぞれの得意領域を持ったメンバーがチームを形成し、プロジェクト型で遂行され、成果が分配されるようになるでしょう。その結果として企業と個人の関係は、「雇用と就労」から「場の提供と貢献」に変わります(図2)。

柔軟な組織運営の究極の姿とは、部門や社内という枠を超えて多様な人材が集まり、誰もが活躍できるトライブ型の組織といえます。会社は、目的やビジョンを共有した個人が集って成果を出すための環境を提供し、集まった個人はその目的やビジョンのために仕事をすることで貢献し、成果に見合った報酬を得るということです。

部門や部署は固定的なものではなく、流動的なものになります。マネージャーの役割も管理者ではなくリーダーへと変わります。リーダーの仕事は、チームのメンバーを管理することではなく、メンバーが創造的な活動をする場と機会を提供することです。メンバーが外部と接触する機会を作って刺激を与えたり、他部門のメンバーと意見交換する場を設けたりして、チームを活性化させることがより重要になります。

メンバーに対しては、細かい業務指示を一つ一つ与えるのではなく、ある程度まとまった任務を権限とともに割り振り、メンバーを信頼してそれぞれの自己管理に任せることが求められます。これを実現するために企業は、所属や雇用形態を問わず多種多様な専門性を持った人材が、互いに協力し最大限のパフォーマンスを発揮できるような制度や環境を整えなければなりません。

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