人生の優先順位が変わった従業員のモチベーションを引き出す方法

サマリー:一連のレイオフが過ぎても、従業員が企業に求めるものは多い。こうした中、リーダーは優秀な従業員を企業に惹きつけ続けるために戦略的に行動しなければならない。本稿では従業員のモチベーションを引き出すための4つの戦略を紹介する。

リーダーが最高の人材を惹きつけるための戦略

最近、企業のリーダーと話をすると、「もう誰もハードに働きたがらない」といったつぶやきをよく聞く。人を雇う側である企業は、成功するためなら何でもする、ハングリーで野心的で真っ直ぐに突き進むタイプの社員をいまだに求めている。ところが新しく採用された社員はまるで老練なエグゼクティブのように働き方の交渉をしてくるので、マネジャーは途方に暮れている。

最近、各社によるレイオフがあったが、それでも、従業員は相変わらず多くを求めている。フレキシブルな働き方やそのほかの福利厚生を強調する求人広告がそれを証明している。また、景気に関係のない真実がある。企業は最高の人材を採用して維持したいと考えている。それゆえ最高の人材が優位な立場にあるということだ。

それでも筆者のクライアントである上級幹部の面々は、よりコントロールを強めて「正常」に戻そうと、オフィスでの勤務時間を増やし、さまざまな指標を厳しくし、経済的逆風によって、かつてのような「上からの力」を取り戻せるのではないかと期待している。

どれも当てにならない、というのが筆者からの助言である。

人間の性質は根本のところでは変わっていない。人々は仕事に関わり、何か大きなことに打ち込みたいと思っている。しかし、カメラがズームアウトしていくように、より広くその背景までとらえると、仕事への思いにはさらに奥行きがあることがわかってくる。

仕事に情熱を持つこと、つまり仕事の内容ややり方を好きになることは、これまで同様に重要である。しかし、その情熱を生み出すものの範囲が広がり、深まったのだ。もはや、オフィスの喧騒の中で企業の目標をひたすら追求することが、キャリア構築の唯一の手法とは見なされない。この変化に追いつかないと、リーダーは閑散としたハイブリッド型オフィスで、必要最低限の仕事しかしない「静かな退職者」や短期で辞めていく人々を抱えて、ストレスをためながら事業を運営することになるだろう。

コロナ禍の3年が過ぎ、集団的トラウマが個々のビジネスパーソンの心理に及ぼす影響が見えてきた。人間性が露わになり、以前はありえないと考えられていた仕事のパラダイムも明らかになった。もう誰も見なかったことにはできない。

ガートナーの調査によれば、従業員はよりいっそう「人間的な価値提案」を求めており、回答者の65%が、コロナ禍を通して自分の生活の中で仕事が占めるべき役割を再考したと答えている。ワークライフバランスについては何十年も議論が重ねられてきたが、ついに人々はそれが何を意味するかを肌で感じ取ったのだ。

大きな問いは、「生活を仕事にどう合わせるか」から「仕事を生活にどう合わせるか」へと推移した。権力のある人々はとっくに後者に基づいて仕事をしていたという指摘はもっともである。英気を養うために長期の休暇を取る法律事務所のパートナーもそうだし、40歳でリタイアするためにそれまでの5年間を犠牲にするスタートアップ企業の創設者もそうだ。いまや、これは地位に関係なく誰もが抱く問いになったのである。

この傾向は、日々、実際に目にする。最近、有名コンサルティング企業に採用された22歳の女性と話す機会があった。その企業はアソシエートのスケジュールが過酷なことで知られていたが、すでに彼女と同僚は仕事を続けられなくなる境界線を定めていて、会社が求めに応じない場合はいつ辞めるかまで計画していた。

また、筆者は最近、リーダーシップ育成のセッションで、トップエグゼクティブたちに、2023年は何に情熱を傾けているかと質問した。予想通り、実現間近なプロジェクトについてのコメントがいくつかあったが、個人的な取り組みやウェルビーイングへの関心を挙げた人も同じくらいいた。確固たる地位を築いたリーダーであり、プロフェッショナルである人たちが、昇進や給与をコントロールしているメンバーの面前でそう話したのである。

雇用契約は、労働者一世代のうちに根本的に変化した。マッキンゼー・アンド・カンパニーによる2022年アメリカン・オポチュニティ調査によると、労働者の87%がいつどこで働くかを自律的に決めることを望んでいた。つまり、どのように働き、どのように成功を定義するかについての主体性を求めているのである。

もしリーダーが最高の人材、つまり情熱があり、その情熱を職場に吹き込むことのできる人材を惹きつけ維持したいならば、モチベーションを引き出す方法について、リーダー自身の視野を広げるべきである。以下は、その4つの戦略である。

情熱の包括的な定義を受け入れる

従業員はハングリーになりたいわけではない。満たされたいのだ。閃きに満ちた従業員が閃きに満ちた企業をつくる。従業員には思うがままに情熱を定義してもらい、多種多様な状況に合ったサポートができるように職場を調整しよう。

つまり、野心や夢についてのあなた自身の考えを拡張することが必要となる。マラソンのトレーニングのために早めに退社する生産的な従業員と、デスクにしがみついてバーンアウトする従業員とでは、あなたはどちらの人材がほしいだろうか。現在の仕事を心から愛するがために昇進を辞退する人を、あなたはどう判断するだろうか。

本人にとって有効な、成功モデルを更新している人に罰を与えるのはやめよう。むしろリーダーには、従業員が自身の目的を発見することを促す役割がある。

「私はそうしなくてはならなかった」というメンタリティを捨てる

出世したほとんどの人にとって、職業としての仕事にはお決まりの流れがあった。初期は歯を食いしばって耐え、生活の大部分を犠牲にし、やがて自分の時間をある程度、コントロールできるようになる、というものだ。

私たちはサンクコストの誤謬に陥りやすい。筆者自身も同様で、誰もが同じように下積みを経験すべきだと思っていた。しかし、それはほかの選択肢を可能にする新しいテクノロジーや規範が登場する前の話である。たしかに、あなたはそうせざるをえなかったが、それは本当に最高の仕事を引き出す最善の方法だったのだろうか。筆者が1週間休みなく午後11時まで働いていた頃、創造力が泉のように湧き出ることはなかった。

仕事に新しい変化が生じるたびに、既存の規範に別れを告げることが必要になる。あなたの経験の次元に従業員を引きずり込むのではなく、どうすればみんなを新しい次元の経験へと引き上げられるかを考えよう。

パフォーマンスと時間を切り離す

筆者のクライアントの多くは、ハイブリッドチームやリモートチームがどれくらい仕事をしているのか、わからないことがフラストレーションになると訴える。筆者は「これまでだって、わからなかったのですよ」と答える。オフィスであなたの目の前で仕事をしていた時も、従業員は多くの時間を無駄にしていた。時間を無駄にしたければ、どこにいようが、そうするものだ。

測定するのはパフォーマンスとし、時間に固執するのはやめたほうがはるかにうまくいく。マッキンゼーの調査が示すように、従業員は自分で自分の働き方をコントロールしたいのである。その代わり、従業員には結果を出すことが求められる。それこそが雇用契約だ。それを公の合意にできたら、どうなるかを想像してほしい。

人によっては、「デスクに向かう」メンタリティが深く染みついたあまり、フレキシブルな働き方が可能であり、しかもよい結果を生み出せそうであっても、自分に制約を課してしまうことがある。そういう人は一挙一動を空から見張る監視装置のような上司でもいるかのように行動している。しかし、一人ひとりに合った労働環境をつくるうえで、マネジャーが従業員に高い自由度を与えれば、それだけ従業員はうしろめたさを感じることもなくなり、よい仕事をすることに集中できるだろう。

ネジを締めるのではなく、緩める

私たちは、コントロールできていないと感じると、人やプロセスをいちいち細かいところまで管理しようとしがちだ。景気後退のプレッシャーが、それに拍車をかける。しかし、従業員のコンピューターに追跡ソフトを搭載したところで、従業員がよりよい仕事をするわけではないし、最近のイーロン・マスクやメタ・プラットフォームズCEOのマーク・ザッカーバーグのように、さらに働かなければクビだと脅しても奏功しない。

恐怖によって長期的に有効なモチベーションがもたらされたためしはない。否定的な感情がさらに強まるだけだ。職を維持できるかどうかが心配になると、従業員は身を守ろうとして縮こまり、優れたものを生み出すためにリスクを取ろうとしなくなる。

たしかに、生産性は低下しており、その理由はなかなか説明がつかない。とはいえ、従業員の自律性が原因ということはありえない。なぜなら、多くのオフィスが完全に閉鎖された2020年と2021年には、生産性は大きく向上していたからである。

* * *

15年にわたるコーチングの経験から、筆者が学んだことがある。人が最も生産的になるのは、仕事の内容と生き方についてモチベーションを感じている時だ。その両方が、成長するために必要である。たとえ市場がこのまま冷え込んでも、これまでの方向性を変えず、従業員の自律性は減らすどころかより多く与えるとよい。

従業員側は企業が退行ともいえる行動を取るのではと身構えているだろうが、サステナブルに前進し続けるモデルをつくることは可能だ。従業員により多くの仕事に取り組んでもらい、定着を促進し、モチベーションを高めることができる。リーダーがそれぞれの従業員にとって大切なものの価値を認めていることを示せば、豊かな情熱とパーパスのあるチームができて企業全体に利益をもたらすだろう。

情熱はいつの日も、ハングリーであること以上に、永続性のある成果を生み出すものなのである。

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