リーダーの「問う力」を高めるAI活用法

サマリー:AIを活用することで「問いかける力」を強化できる。AIは問いのリズムやパターンを変え、多様性や新規性を高めることができるからだ。また、AIによって仕事の状況や環境を変え、変化を誘発できる「触媒的な問い」を促… もっと見るすことも可能である。このようなプロセスにより、リーダーやチームは新たなアイデアやイノベーションを生み出すことができる。 閉じる

AIは「問う力」の強化に役立つ

ほんの数年前まで、企業による「人工知能」(本稿で後述する広義の人工知能)への取り組みは概して抽象的であり、いずれ対処せざるをえない「仕事の未来」の問題として扱われてきた。

現在では、世界中の企業の半分以上がAI(一般的な人工知能)を積極的に取り入れている。医療、データ管理・処理、クラウドコンピューティング、フィンテックといった業界では特にAIへの投資が盛んだが、あらゆる種類の組織と職能がAIを業務に導入している。

そして、チャットGPTなどの生成AIツールがビジネスリーダーに迫るのは、AIが自社の事業のどの部分でどう役立つのかを自問することである。

それでも大半の企業は、いまだにAIの可能性をかなり狭い範囲でしか理解していない。単調な物理的作業(倉庫での商品の移動など)を自動化して人間の反復的な仕事のコストと非効率性を減らしたり、膨大な量のデータの生成、処理、分析を行う組織能力を高めたりするためのツールとして見ているのだ。

しかし、このテクノロジーは、はるかに多くのことができる。

問いかけを伴う「ソフト」なスキル──たとえばクリティカルシンキング、イノベーション、アクティブラーニング、複雑な問題解決、創造性、独創性、自発性などとAIを組み合わせれば、私たちはますます複雑化する世界に対する理解を深め、より抽象的な問いを立て、焦点を「識別」から「概念化」へと移すことが可能になるのだ。

筆者らが研究および企業幹部らとのワークショップを通じて気づいたのは、製品デザイン、プロセス効率化、プロンプトエンジニアリングなど幅広い分野でAIを知識労働の協力者として扱えば、企業が得るものは大きいということである。こうした形でAIと手を組むことで、人々はより賢明な問いを立てやすくなり、結果的により優れた問題解決者、あるいはブレークスルーを起こすイノベーターになれる。

また私たちは、チャットGPTのような、より状況や文脈に適したAIシステムの初期的な影響を目の当たりにしている。それらが発展し続けることで、問いを立てる、またはプロンプトを作成するスキルは、発見のプロセスにおいてますます価値を増すだろう。

専門家は、ソフトウェアエンジニアが開発段階で賢明な問いを立てる必要性を認識しているが(バイアスや根拠なき仮定を減らすため)、AIと問いをめぐる、もう一つの関係性についてはあまり言及していない。すなわち、人々が仕事において、より探求的でクリエイティブな問題解決者になれるよう助けるAIの潜在能力についてである。

筆者らはこの見落としを是正するために、さまざまな国と業界のテクノロジー志向のビジネスリーダーらとデザイン思考のセッションを行い、その後も綿密に話し合った。

加えて、マサチューセッツ工科大学(MIT)での筆者らのエグゼクティブ教育プログラムに30カ国以上から参加した、約200名のリーダーらにもアンケート調査を実施。各自の組織において、問いかけのパターンと、イノベーションに関する行動と結果に、「人工知能」がどのように影響を及ぼしたのかを探った(この調査では「人工知能」を幅広く定義し、機械学習、深層学習、ロボティクス、および最近爆発的に普及している生成AIを含むものとした)。

その結果、リーダーは問いを立てる作業の中で、AIの能力を活用して自分(およびチーム)の「問う力」を強化するために、異なりつつも関連する2つの道筋をたどっていることが判明した。

第1の道筋では、問いのリズムとパターンを変えるために、このテクノロジーを使うことができる。AIは問いの速度、問いの多様性、問いの新規性を高めるのだ。筆者らの継続中の調査では、AIはこの3つすべてを著しく高めうることが示されている。

第2の道筋では、AIによって人々の仕事の状況と環境を変えることで、変化を誘発する問い──筆者らの言う「触媒的な」問い──の発生を促すことができる。これによりリーダーは居心地のよい場所から押し出され、「知的に間違っている」「感情的に不快」「静かで内省的な態度が必要」な状況に追いやられる。結果的にこれらの状況はすべて、イノベーティブな思考と行動を促すのだ。

それぞれの道筋が、画期的なアイデアにどのようにつながるのかを考えてみよう。

速度、多様性、新規性を高める

企業がAIと手を組んで、問いの速度と多様性、新規性を高めるには、アルゴリズムが基本的で簡単な(イエスかノーかの)問いに単独で答え、データに深く埋もれているパターンを明らかできるよう訓練する必要がある。この土台が出来上がれば、AIがまだ単独では答えられないような状況や文脈に依存する、細かいニュアンスの問いが持つ力を人間は探求できるようになる。

問いの速度

アルゴリズムはリーダーが投げかける問いに即座に答えを出せるため、リーダーはより多く、より頻繁に問いかけることができる。筆者らの調査では、回答者の79%はAIを通じて問いを増やし、18%は量が変わらず、3%は問いを減らしていた。

サイバーセキュリティ会社のサイバーリーズンでは、研究者は明らかな侵害に際し、AIと機械学習を利用して、「何」が起きたのかに関する基本的な疑問に即座に回答できるようにしている。それによりチームは「なぜ」侵害が起きたのかに関するより深い問いを立てる作業へと、すぐに注意を向けることができる。

前CEOのリオ・ディブによると、かつて侵害の発見は黒か白かに近いものだったという。「これは攻撃だ。これは攻撃ではない。これは大丈夫、これはまずい、というように」。だが、AIのスピードによって黒か白かの間にある空白が埋まり、侵害の意図と、その状況下でハッカーが実際に何を目論んでいるのかについて、一連のまったく新しい問いが生まれるようになった。

当然ながら、矢継ぎ早に問いを生む目的でAIを使うことにはリスクもある。その一つは、人々は実行可能な方向性を見出そうとしないまま、次々と問いかけを続けるかもしれないことだ。このため、生産的でなくなるタイミングを見極めることが重要になる。

もう一つのリスクとして、多くの問いは、必ずしもよりよい問いにつながるわけではないことが挙げられる。したがって、問いかけをどのように進めるかを決める際には、依然として人間が判断を行う必要がある。

問いの多様性

AIは、大量のデータにおけるパターンと相関関係を明らかにするうえで役立つ。人間は、AIなしではこれらの相関を容易に見逃してしまう。このツールを自由に使えると知っているリーダーは、より多岐にわたる問いを立て、AIがなければ考えもしなかった新しいアイデアを探求できるようになる。筆者らの調査では、AIとのやり取りによって従来とは異なる問いかけをするようになった回答者は全体の94%に上った。

次の例を考えてみよう。コルゲート・パルモリーブで予測分析ディレクターを務めるクリ・パパスによれば、彼のチームはAIを活用して、炭がいかにして消費財において広く使われる原料となったのかを理解することで、「次なる炭を見つける」ことができたという。

同社のアルゴリズムは、初期のデータ調査に基づいて数千の問いを生成し、答えを出した。これにより、20年前に韓国で炭のスクラブが登場してから、米国で洗顔料に炭が使われ始め、やがて世界中でさまざまな製品に使われるようになるまでの、数十年にわたる軌跡を描き出した。

AIから生成されたデータをもとに、チームは予想外の場所に潜在しうる未来のトレンドについて、問いを数百も投げかけ、クリエイティブな思考を喚起することができた。

「カテゴリーを横断して過去を振り返り、ヘアケアからスキンケア、口腔ケアへと、トレンドがカテゴリー間でどのように移行するのかを見極めようとしています」と、パパスは語った。「これを実行するだけで、時代を10年以上先取りできます」

問いの新規性

AIはまた、革新的な問いの代表格ともいえる、斬新で「カテゴリーを飛び越える」問いをユーザーが導き出せるよう支援することで、より深い洞察を促進する。すなわち、一つの分野での知識を、まったく異なる別の分野に適用する問いだ。筆者らの調査では、AIによってチームや組織、業界の方向性を変えるユニークな問いかけを促された回答者は全体の75%を占めた。

自分一人で扱えるよりもはるかに多くのデータを、テクノロジーによってふるいにかけて点と点をつなぐことができるとわかれば、より大胆な問いかけが可能になる。もし自分一人で答え出さなければならない場合は、その種の問いかけをけっしてしないだろう。なぜなら、それらは人間の脳では扱いきれなかったり、染み付いた認知バイアスと相容れなかったりするからだ。

カテゴリーを飛び越える問いは、AIシステムと接するたびに生まれるわけではない。だが、その可能性に対してオープンになり、自由な探究を認めれば、この種の問いは生まれやすくなる。

医療イノベーターでインキューブ・ラボの創業者であるミール・イムランは、その利点を筆者らに次のように説明した。「AIは非常に曖昧な変数を取り入れて、新たな関係性をつくることができます。それらの隠れた関係性が組み合わさると、問いを立て直して破壊的なイノベーションを生むきっかけとなるのです」

つまり、AIが生む新しい関係性は、新しい問いを誘発し、他者がまだ想像すらしていない解決策の探求につながる可能性があるのだ。イムランのチームが最近開発した、外からの注射に代わって体内で薬を投与するロボット錠剤も、その一例である。

よりよい問いが生まれる状況をつくる

AIは、リーダーを通常運転モードから脱却させ、問いが導くところに身を任せるよう強制することができる。これはよいことだ。問いの速度、多様性、そして特に新規性が高まることで、自分が知的に間違っていて、感情的に不快で、静かな態度であることを認識しやすくなる。筆者らの発見によれば、まさにこうした状況でこそ、革新的な方向性の問いが生まれる傾向がある。

ジェフ・ウィルケは、アマゾン・ドットコムのワールドワイド・コンシューマー部門の元CEOで、現在はリビルド・マニュファクチャリングの共同創業者である。彼はテック企業の幹部としての日々の仕事においてだけでなく、キャリア全体を通じて、これらの不都合な状況を歓迎し、役割が変わる中で継続的にメンタルモデルを修正している。

筆者らとの対話で彼はこう語った。「もしあなたが、自分の知らない物事を探求し、間違える勇気、無知になる勇気を持ち、より多くの質問をしなければならず、人前で恥をかく覚悟があれば、より完全なメンタルモデルが身につくと思います。そのモデルは生涯にわたって役立つでしょう」

ただし、AIと手を組むことには一つ問題がある。研究によれば、人間がAIと心地よく協働するのは難しい場合がある。なぜなら、AIの超人的な能力と予測不可能な動きは、人間がAIを十分に信頼して緊密に関わることを妨げる可能性があるからだ。これは、筆者らが組織で観察したこと、およびリーダーと話す中で学んだことと一致する。

テクノロジーへの不信感は、クリエイティブな問いにはまったくつながらない。したがって、不信感をなくす方法を探し、ブレークスルー思考と問題解決のための状況づくりをAIのみに任せるのはやめるべきだ。

ほかにどのような方法でそうした状況を生み出せるか、考えてみよう。問題解決のプロセスの中で、互いに無関係に思える物事を組み合わせる余地がどこかにないだろうか。それらの機会をどう使えば、従業員を意図的に不安定な状態にさせ、彼らが頭では正しいとわかっていること、感情的に心地よいこと、慣れ親しんでいる言葉や行動を「超越」した問いを引き出せるだろうか。

同時に、従業員が多岐にわたる問いを立て、そこから学ぶためにAIをより効果的に使い、最終的によりよい問いかけができるようにするために、心理的安全性をどのように醸成できるだろうか。心理的安全性が存在する場合、従業員は反発することなく「私は間違っています」「私は不愉快な思いです」「私はまだ考え中です」と表明することができる。

リーダーとチームは、葛藤をすべてていねいに解決するのではなく、新たな領域へと導く問いを立てることで生じる不確実性を受け入れることを学ぶべきだ。このプロセスは容易ではないが、刺激的な結果をもたらす。それこそがAIシステムと協働することの最も重要なメリットかもしれない。刺激によって、難しいプロセスをやり遂げる勢いとモチベーションが生まれ、創造性がさらに高まるのだ。

人間の強みでAIの弱みを軽減する

「人工知能」はいくつかの部分で人間を超えているかもしれないが、弱みもある。まず、このテクノロジーは根本的に、過去のデータで訓練されているため過去志向である。未来は過去とはまったく違ったものになるかもしれない。そのうえ、間違いやその他の欠陥がある訓練データ(内在するバイアスによって歪んでいるデータなど)は、不適切な結果を生み出す。

リーダーとチームが、AIをクリエイティブ思考のパートナーとして扱うならば、このような限界に対処しなくてはならない。その方法として、人間の脳と機械が補完し合うことに焦点を当てるとよい。

AIは、私たちが処理できるデータの量を増やし、対処可能な複雑性のレベルを高めてくれる。一方、私たちの脳は還元的に機能し、アイデアを生み出してから、それを他者に説明する役割を担う。

機械には想像力と倫理的判断力が欠けているが、組織内で問題解決を行うために人間が発する問いの速度、多様性、新規性を、AIは高めてくれる。このため私たちは、想像力と倫理的判断力という不可欠なスキルを活用できる。

こうした違いがあってこそ、実りある協働につながる。違いを最大限に活かすことで、人間の仕事に対するAIの脅威を減らすことができるのだ。

人間とAIが互いの強みを活かせば、「未知の未知」を「既知の未知」へと変え、ブレークスルー思考の扉を開くことができる。この論理的飛躍と概念的飛躍は、人間とAIのどちらが欠けても成しえない。

この可能性を活かすには、リーダーは「人工知能」を新たな視点で見る必要がある。コスト削減や効率性や自動化よりも、インスピレーション、想像力、イノベーションを重視するのだ。

そして、大胆な問いかけを後押しし、動機付け、報いる文化を築くことも求められる。必ずしも答えを知っている必要はない。

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