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ESG投資はビジネスにも人類の未来にも利益をもたらす

企業がESG(環境、社会、ガバナンス)に積極的に取り組む姿勢を見せる一方、「持続可能な未来の選択」と「ビジネスの成長と利益の実現」は両立できないと考えるビジネスリーダーも少なくない。ESG関連支出は投資ではなく、単なるコストと見なされているのだ。さまざま研究結果から、ESG重視が長期的利益をもたらすことが示されているにもかかわらず、その取り組みが期待通りの利益につながらないと感じてしまうのはなぜか。本稿では、ビジネスや未来への投資を躊躇させる5つの思考の壁を論じる。


 ESG(環境、社会、ガバナンス)投資ファンドに、過去2年間で1兆ドルを超える資金が流入している中、サステナビリティ(持続可能性)が事業にもたらす価値を誰もが明確に理解していると思いがちだ。

しかし、多くのビジネスリーダーは依然として、より持続可能な未来を選択することと、ビジネスの成長と利益を実現することは、本質的に両立できないと考えている。

エネルギー消費量を削減するための資本的支出、再生可能エネルギーの選択、生活賃金の支払いといったESG関連支出を、投資ではなく単なるコストと見なしているのだ。CEOはITや研修、新工場、R&Dには抵抗なく資金を投じるが、ビジネスや人類の未来への投資には躊躇する。

だが、そこで躊躇してはならない。たとえば、クリーンエネルギーはコストが高いという懸念は、完全に時代遅れだ。より広範に言えば、ますます多くの研究が、長期的価値とESGを重視することで利益がもたらされることを証明している。

ESG評価機関NGOのジャスト・キャピタルは、シェアホルダー(株主)だけでなく、さまざまなステークホルダー(利害関係者)を優先する企業のリスト「ジャスト 100」を作成している。これらの企業は実際に、市場で優れた業績を上げているのだ。

世界がESGにシフトすることを歓迎する企業は、飛躍を遂げる可能性があることも明らかになっている。クリーンエネルギー、電気自動車や自動運転車、プラントベースプロテイン(植物由来のタンパク質)、プレジジョンアグリカルチャー(精密農業)、AI(人工知能)主導の効率化技術など、さまざまな分野で数兆ドル規模の市場が生まれつつある。

にもかかわらず、ビジネスの世界ではなぜ、多くの人々がいまもサステナビリティは「期待通りの利益につながらない」と感じているのだろうか。

その理由のほとんどは、意思決定に関する5つの大きな問題に起因する。

1)実質コストが数字に反映されていない

経済は自然界からのインプットに完全に依存している。手をかけて育てたり掘り起こしたりするものだけでなく、空を汚染物質の「無料のゴミ捨て場」としているように測定できない恩恵もある。炭素を1トン排出するたびに気温がわずかに上昇し、空気の質が低下するが、企業がその社会的コスト(「外部性」とも呼ばれる)を負担することはない。

企業は、自然が提供する数十兆ドル相当の価値やサービスを、何も支払わずに享受している。しかも、化石燃料を燃焼し続けたり、目の前の収穫を最大化させるために土壌を劣化させて将来の収穫を犠牲にしたりするなど、持続可能性の低い経済活動のコストを政府の補助金や規制が軽減している状態だ。

解決策:値段がついていないものに値段をつける

多くの優良企業は、事業活動に伴う炭素に「シャドウプライス」(潜在価格)をつけることで、外部性を内部化している(自主課税として実際に徴収する例もある)。炭素をはじめとするインプットの価格を上げることが、資本や投資に関する意思決定を変えるのだ。

ただし、それだけではけっして十分と言えない。このような取り組みを行なっているリーダーが先頭に立ち、炭素に拘束力のある市場価格をつけるよう提唱しなければならない。

そのための体系的かつ先進的なロビー活動を、筆者らは「ネットポジティブ・アドボカシー」と呼んでいる。同業者やNGO、政府と協力することで、システム全体を改善する政策を打ち立て、実行に移すのだ。

同様の理論は、炭素だけでなく、最低限の生活賃金や不平等を是正するための社会インフラへの支出増加といった、社会問題の支援にも当てはまる。このような価格シグナルと支出の優先順位を適切に理解すれば、持続可能なプロダクトの製造と投資が、はるかに優れた選択肢になるだろう。

(2)自分自身のバイアスに囚われる

持続可能な選択が従来の方法より利益を生むとしても、実際にそれを選択するとは限らない。直線的で非体系的な視点で考えたり、やりやすい方法や目の前の物事を優先したりするなど、我々の意思決定には常にバイアスが働く。

CEOであれ、CFOであれ、投資銀行家であれ、誰もがバイアスと無縁ではいられない。「自分は化石燃料に投資して儲ける方法を知っているから、それを続ける」と心に決めている投資家もいるかもしれない。クリーンテックの経済性を考えれば賢明とは言えないかもしれないが、人間は単なるエコノミックアニマルではない。

解決策:意思決定を行うグループを多様化する

我々は自分が知っていることに固執しがちで、集団思考や慣性に流されやすいことを考慮すると、組織やリーダーに対して異なる視点を提供する必要がある。

たとえば、市民社会を意思決定に参加させる。批判的な立場のNGOに依頼して、教育や問題解決に協力してもらうこともできるだろう(ただし、あなたを単に陥れたいだけの皮肉屋は避ける)。

さらに、若い世代を招き入れて、古い考え方を一掃する。新しい従業員は会社に対して、人々を成長させ、地球環境を改善し、かつ利益をもたらす解決策を見出すよう期待している。

また若い世代は、会社に長期的視点をもたらす。今後半世紀にわたる気候変動に関して言えば、20代の若者は必然的に70代や80代のリーダーと比べてはるかに関心が高い。20代の人たちと話をして、彼らの声に耳を傾けよう。

(3)短期的なコストと利益を重視する

「持続可能性は常にコストが高くつく」という指摘は間違っているが、利益を必ずもたらすと言い切ることも、少なくとも短期的には正確でない。一定規模にスケールするまで、コスト高の技術もたしかにある。新しい技術とは、総じてそういうものだ。

UPSは数年前、今後はガソリン車と同じ初期費用で電気自動車を購入すると誇らしげに発表した。電気自動車の導入がようやくコストに見合うようになった、というわけだ。

しかし、現在に比べて小売価格が高かった時代ですら、電気自動車はガソリン車よりもオペレーションコストが低く、稼働率が高かった。その点を考えれば、以前から、車両の運用期間に対して割のよい買い物だったといえる。UPSをはじめとする運送業者は、購入価格が高いことで先行投資が増加しても、電気自動車の購入を通じて、もっと早い段階からコスト削減と排出量削減の恩恵を享受できたはずだ。

同様に、廃棄物ゼロの工場といったサステナビリティ目標も、適切に実現するには投資と時間が必要になる。しかし、その取り組みによりオペレーション全体が改善され、生産性と敏捷性の向上につながる。

解決策:投資判断のツールを再定義する

ROI(投資利益率)やIRR(内部収益率)という指標は、基本的に破綻している。価値の源泉を見落とし、あまりに高い割引率を用いているため、未来に対する投資はすべて価値がないと見なされるのだ。それが間違っていることは、我々も直感的にわかっている。

そこで、長期的思考の価値を証明するデータを見つけ出し、内部化すべきだ。マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)とFCLTグローバルによる共同調査では、真の長期志向の下で運営されている企業は、R&D投資を増やすといった重要な意思決定を行い、その結果、そうでない企業に比べて収益成長率が47%高く、時価総額の伸びも速いことが示されている

より優れたツールと思考は、より多くの、より優れた行動につながる。

(4)コストをシステムではなくサイロで考える

生活賃金の支払いを重視すれば、短期的には、目に見える形であらゆるコストが上昇するだろう。これはある意味、問題だ。しかし、賃金支出という予算のサイロだけで考えると、投資の選択に対して部分的かつ狭い視野しか持てなくなる。

人材とサプライチェーンに投資する企業には、無形の利益が生まれる。優秀な人材の採用と定着につながり、従業員の生産性が高まる一方で離職率は低下し、コミュニティとの関係が強化され、自分たちがネットポジティブなインパクトを世界にもたらすという、優れた(そして真実の)ストーリーを顧客に語ることができるのだ。

解決策:価値観の幅を広げ、システム思考を実践する

ここでも、ROIをはじめとするツールは適切に機能しない。方程式の「リターン」の部分に、ネットポジティブで持続可能な道を選ぶことから得られる無形の価値(従業員エンゲージメント、顧客の情熱、レジリエンスなど)が含まれていないからだ。

たとえば、パートタイムや一時雇用から無期雇用への移行は、短期的にはコストが発生するかもしれないが、離職率の低下や生産性の向上という形で簡単に回収できる。より効率的で低コストのバリューチェーン、あるいはビジネスにとってより機能的で健全なコミュニティの構築など、システム思考の恩恵も見落としてはならない。

サイロ思考は、価値が低い状態を固定化させる。労働者の待遇と事業の成功を左右するさまざまな要素との関連性を体系的に捉えることで、より包括的でポジティブな視点を持つことができる。

それを実践するには、ESGに沿った意思決定がもたらす利益を可能な限りリストアップし、評価することが重要になる。投資に対する「リターン」の定義を拡大するのだ。

(5)より大きな実存的コストが見えていない

保険大手スイス・リーによると、気候変動に対して行動を起こさなければ、2050年までに世界GDPの約18%が失われる。深刻な経済不況に匹敵する数字だが、それでも地球は存続できると思うかもしれない。

ただし、これは集約された数字であり、物語の一部にすぎない。カナダやシベリアのように、植物の生育期が長くなり、経済的利益を得る地域もあるだろう。

しかし、それ以上に、マイアミやバングラデシュの大部分、低地しかない島国など、浸水し続ける地域のほうが多い。気温が高すぎて、人間が暮らせない都市も出てくる。これらの地域経済が損失を被るリスクは、18%ではなく100%だ。

社会的損失は、事業コストに直結する。干ばつで農作物が枯れ果て、異常気象によってサプライチェーンが遮断され、従業員や顧客は困難に直面する。これらすべてが企業の損益に打撃を与え、その多くは深刻な打撃となる。

解決策:世界全体の閾値を理解し、ネットポジティブの観点で考える

人間は未来予測が不得手であることは、周知の通りだ。指数関数的な変化を理解せず、局所的な状況にしか目が向かないことも、人間が犯す大きな過ちの一つだろう。だからこそ、気候変動や不平等、資源利用、クリーンテック経済、AI、偽情報・誤情報など、非線形に変化する社会の大きなトレンドを研究することが欠かせない。

たとえば、「自社が事業を運営している都市で人間が暮らせなくなる」といった極端な状況を想定し、確率は低いが重大なリスクを整理する(実際、その必要に迫られるかもしれない。米国証券取引委員会〈SEC〉は、気候変動リスクの開示を義務付けようとしている)。

その際は、「これらの実存的リスクを回避するための投資は、ネットポジティブにどれくらいの価値をもたらすか」という点も検証する。バリューチェーンに含まれるパートナー、あるいはNGO・政府・市民を含むシステム全体で、構造上の課題に取り組み、ネットポジティブな思考を習得すべきだ。それにより最大の問題を解決し、誰にとっても利益をもたらすだろう。

* * *

本稿で紹介した5つの思考の壁は、投資判断に影響を与える要因を網羅しているわけではないが、サステナビリティ投資を妨げる主な障害である。このメンタルモデルは、勝つか負けるかの二択しかない、狭量でネガティブな思考を露呈している。

筆者らは共著Net Positive(未訳)の中で、社会問題を解決し、それらの問題の影響下にあるすべての人々のウェルビーイングを高めるようなビジネスの構築法を探っている。そのためには勇気と謙虚さが必要だが、同時に、我々は協力して多くの問題を解決することができ、あらゆるサステナビリティに関して経済性を改善できるというマインドセットを持つことも重要だ。ウィン・ウィンと言えるほど単純ではないが、互いに協力することで、より多くを成し遂げることができる(筆者らはこれを「1+1=11」になると表現している)。

従来のやり方で考えるほうが、たしかに簡単だ(率直に言って手っ取り早い)。これらの問題と向き合い、投資に対してよりよいリターンを求める通常の方程式に、持続可能性を組み入れることもできるだろう。

しかし、考えてみてほしい。従来の方程式にこだわる必要が、本当にあるのだろうか。人類が存続するための投資を正当化しなければならない。人類の未来を絶つものに対する投資はやめるべきだ。これらの必要性を証明するための努力は、ますます不合理で非現実的なものになっている。

マクロレベルでは、「行動を起こすコストが、行動を起こさないコストをはるかに下回る」段階はとうに過ぎている。繰り返しになるが、地球の大部分が居住不可能になりつつあることは、ビジネスにとっても深刻な問題だ。我々が共有する未来に対する投資は、間違いなく有益な投資である。

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