CEOがビジネスエコシステムを率いる方法

John Lamb/Getty Images

パンデミック、ESG(環境、社会、ガバナンス)、人種間の不平等に対する継続的な取り組みなど、現代の課題は、企業と社会をますます密接に結びつけている。これに伴い、企業のCEOに求められる職務、リーダーシップを発揮する手段も変化している。新しい職務を遂行するためには、これまでとは異なるタイプのCEOにならなければならない。すなわち、顧客やサプライヤー、パートナー、競合相手、政府、地域社会など、自分たちがビジネスを展開するエコシステム全体をマネジメントするリーダーである。本稿では、CEOとして新たな職務、リーダーシップを発揮するため、筆者らの調査で判明した5つのステップを提示する。

CEOは取締役会を満足させ、株主を喜ばせて、大きな風評被害を回避できれば有能だと考えられていた。さほど昔の話ではなかったが、もうそれでは通用しない。

今日のCEOの職務内容は、いわばクラウドソーシングされており、従業員、顧客、サプライヤー、政府、活動家など、社会のほぼすべてのセグメントが層がそれぞれ期待や要求を書き込んでいる。

パンデミック、ESG(環境、社会、ガバナンス)、人種間の不平等に対する継続的な取り組みなど、現代の課題は、企業と社会をますます密接に結びつけている。CEOと取締役の86%はビジネスと社会の関係がさらに深まると考えており、アメリカ人の3分の2は、CEOが社会問題に対する立場を明確にすることを望んでいる。

こうした変化の意味をより理解するために、筆者らが所属するコーン・フェリー社では、北米企業11業種311社の取締役105人(その多くはCEOでもある)に話を聞いた。

その結果、CEOの職務内容の変化に伴い、リーダーシップを成功させるためのプレイブックも変化していることがわかった。ステークホルダーの範囲はより大きく広がり、複雑になって、ミスやエラーが発生する可能性も高くなっている。かつては対象外だったものが対象となり、誰を、そして何を優先させるかという難しい決断を迫られている。そして、成功するために必要なスキルは、従来の指揮命令型の戦術にとどまらず、正式な権限がなくても影響力を発揮するようなものにまで広がっている。

新しい職務を遂行するためには、これまでとは異なるタイプのCEOにならなければならない。すなわち、顧客やサプライヤー、パートナー、競合相手、政府、地域社会など、自分たちがビジネスを展開するエコシステム全体をもマネジメントする企業リーダーだ。このような役割をすべて引き受けているCEOは数えるほどだが、筆者らの調査から、次の5つのステップを踏むことが重要であるとわかった。

 1.プレーヤーを知る

これからのCEOは、これまでの世代とは違い、飽くなき学習意欲を率先して示さなければならない。

グレートバリアリーフの生態学者が鳥と珊瑚、魚、軟体動物の相互関係やそれぞれの環境を調べるように、CEOは自分のエコシステムをマッピングする必要がある。グレートバリアリーフの生命体は競争しながら相互に依存している。同じことが、CEOとCEOが活動する広範なエコシステムにも当てはまる。そこで、次のような理解を深めなければならない。

・エコシステムの各メンバーの強み、脆弱性、相対的な貢献度。
・相互依存を生んでいるつながり。
・外部からの影響により、エコシステムの機能はどのように損なわれる可能性があるか。
・エコシステムのメンバーが環境の変化にどこまで適応できるか。
・競争しながらも相互に利益を得る機会がどこにあるか。(これがおそらく最も重要になる)

エコシステムを導いて舵取りをするという、より拡大した役割に取り組むCEOは、さまざまなステークホルダーを束ねると同時に、各プレーヤーにとってもエコシステム全体にとっても有益な方針を設定しなければならない。共通の利益や共通の問題も、その方針につながるだろう。さらに、エコシステムの共通のパーパスとして、より大きな利益に貢献しながらビジネスの目標を推進する、というミッション主導型のパートナーシップを目指す企業がますます増えている。

たとえば「Valuable 500」は、500人のCEOが障害者インクルージョンの革新に取り組んでいる。「One Ten」に集うCEOは、今後10年間で4年制大学を卒業していない黒人100万人に、家族を養えるようなキャリアを歩ませるという共通の目標を掲げている。

2.シニアリーダーに力を与える

企業のエコシステムに影響を与えるために時間を費やすと、経営に携わる時間が減る。CEOが従来の職務を超えて活動するには、より大きな役割を担えるチーム、すなわち自分の部門を率いるだけでなく、企業のリーダーとして育成されたベテランの人材が必要になる。

すでに多くのCEOは、リーダーたちの強力なネットワークを構築するスキルに長けている。新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした変化のペースと量が、かつてないほど迅速な意思決定を求めたため、こうしたスキルが必要になったのだ。筆者らの調査によると、賢明な企業はこのような分散型モデルを定型化していくだろう。最も有能なCEO は、日々の業務に追われるのではなく、組織全体の集合的なエネルギーと共通のパーパスを解き放つことに集中する。

CEOは今後も説明責任を求められる一方、CEOはリーダーのなかのリーダーにならなければならない。シニアリーダーたちが、投資家や取締役、さらには従業員と対等に渡り合えるような知識や情報を持つパートナーになり、代理人になり、後継者になるように力を与えるのだ。そうした人材がいれば、CEOは企業戦略とエコシステム戦略の両方を構築して高めるための時間と空間を確保できる。

3.企業のマインドセットとエコシステムのスキルセットを育てる

 CEOは企業の成功だけではなく、自分たちのビジネスや、より広範な社会が成功するための健全なネットワークの構築に自分がどう貢献できるかを考えなければならない。

このようなマインドセットとスキルセットの組み合わせを、新型コロナが猛威を振るった時期に多くのCEOが発揮した。

たとえば、ニューヨークのいくつかの一流ホテルは、地元で緊急対応にあたる医療従事者に無料で部屋を提供した。もちろん正しい行動だったが、エコシステムを踏まえた決断でもあった。医療従事者が休息を取れて健康でなければ、新型コロナに感染した患者を治療できない。彼らが治療やワクチン接種をできなければ、人々は自宅にこもり続けることになる。人々が旅行を怖がったままでは、ホスピタリティ業界の苦境も続く。このように、ホテルを医療従事者に開放することは、ビジネスだけでなくホスピタリティのエコシステムとコミュニティ全体に利益をもたらすという、二重の結果につながる決断だった。

同様に、エコシステムのスキルセットを持つCEOは、通常の影響力の範囲を超えて行動し、ビジネスと、より広い社会の両方に役立つネットワークを構築することができる。具体的には、今日のCEOは4つの主要な能力の習得に力を入れる必要がある。

・感情的知性(エモーショナルインテリジェンス)を発揮して、好奇心、開放性、脆弱性を示し、純粋な関心と共感をもって他者に対応する「人間らしい」能力。

・ステークホルダーのニーズのバランスを取り、共有価値を創造する機会を模索して、競争相手を協力者に変える能力。2020年4月にティム・クック(アップル)とスンダー・ピチャイ(グーグル)は、人々の命を救う取り組みに貢献する手段として、感染追跡技術を共同で開発すると発表した。

・正式な権限をほとんど、あるいはまったく持たなくても影響力を及ぼし、評判と仲間からの敬意を味方にして、エコシステムの状況に精通し、ウィン・ウィンとなる結果にコミットしてリーダーシップを発揮する能力。さらに、もし不可能なら妥協することも厭わない。

・公的人格を保ち、より幅広いステークホルダーに対応する能力。これには冷静さ、自信、エコシステムの問題に精通していること、さらには率直さと図太い神経が必要だ。

4.インフラを構築する

企業は、最終的な目標に向けたコラボレーションを可能にするため、基礎から構築される。それに対しエコシステムは、ばらばらに構成されたものが緩やかに組織化され、正式なガバナンスを持たないときも多い。

その隙間を埋めるために、CEOや非企業のリーダーたちがエコシステムの構成要素の上層で連携し、エコシステムの取り組みを、統治はしなくても調整する手助けをする。業界団体や官民パートナーシップ、さまざまな社会運動が生まれ、CEOにリーダーシップを期待している。「Water Resilience Coalition」(水レジリエンス連合)「Global Food Safety Initiative」(世界食品安全イニシアチブ)「Network for Greening the Financial System」(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)などのグローバルなイニシアチブは、エコシステムを変える取り組みに組織構造を与えたいという考えを反映している。

「CEO Action for Diversity & Inclusion(ダイバーシティとインクルージョンを推進するCEOアクション)」も、正式に組織化されることで恩恵を受けたエコシステムの取り組みのひとつだ。このフォーラムは、「ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂)は競争優位性ではなく社会の問題であり、大胆な変化を推進するためにはビジネスのコミュニティ、特にCEOの協力と大胆な行動が不可欠であるという共通の信念に基づいて」設立された。具体的には次のような恩恵が生まれている。

・知名度が高くて影響力のある企業のトップを含む、CEOの献身的なネットワーク。
・人々が支持を表明する機会と増え続ける賛同者。
・フォーラムのアジェンダを推進するような、フォーラム主催の取り組みと企業主導の取り組み、
・志を同じくする人々が参加できるワークショップ、ツール、リソース。
・企業と地元の組織、NGO、政府の政策立案者の連携。
・メンバーが行動を起こし、成功や課題をオープンに共有するプラットフォーム。

こうしたイニシアチブは、価値のある有意義な行動を公にすることが、共通のパーパスやコミットメント、プラットフォームがない場合よりも、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの目標達成を早めるという考えに基づいている。

5.リスクを予見する

企業の壁を越えて、ステークホルダーからの要請に応じて行動を起こすことを選択したCEOは、それなりのリスクを負うことになる。

彼らは新しい、よく知らない領域に足を踏み入れようとしている。簡単な答えのない、物議を醸すようなエコスシステムの問題に取り組もうとしているのかもしれない。社会的責任を口先では認めながら、長期的な価値創造のため短期的な利益を犠牲にすることは我慢できないという投資家に、対処することになるかもしれない。

ほぼすべてのCEOは、社会的・政治的利害が複雑に絡み合い、一部のステークホルダーを失望させ、遠ざけるかもしれないという状況で、舵取りを任されている。さらに、組織内とエコシステムのあいだで多くのことを引き受けて、あれこれと行動はするが影響は小さいというリスクも常に存在する。

こうしたリスクを軽減するために、CEOはエコシステムのどの領域に足を踏み入れるか、慎重に考慮しなければならない。取締役会や業界の専門家、信頼できるアドバイザー、さらには他の組織の仲間と相談しながら、自分たちの努力が最も大きな成果を生む場所を決めるのだ。また、ステークホルダーとの対話を頻繁かつオープンに続けて、信頼できるシニアリーダーのチームと協力しながらも、本業から離れすぎないようにする。

このようにリスクは確かにあるが、メリットも見込まれる。自分たちの取り組みから生まれるポジティブな社会心理、マルチステークホルダーのアプローチを支持する顧客や従業員の獲得、コミュニティや政府、社会制度とのより深くて生産的な関係、さまざまなイニシアチブが協力して初めて生まれる革新的な解決策などから、CEOは恩恵を受けるかもしれない。

今日の最も有能なCEOは、CEOも、企業や産業、国も、孤立した存在ではないことを理解している。世の中に明確な境界線はない。CEOはエコシステム全体に影響を与える企業のリーダーとして、私たちが共有する未来を形づくるため、手助けをする機会を前向きに受け入れなければならない。

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/8739

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