最終回:ブロックチェーン活用の今後–NFT×B2B、ESG、Web3

 これまでの記事でブロックチェーンのエンタープライズ分野での実用化と事例を紹介してきた。最終回となる本記事では、ブロックチェーンの提供価値を振り返りながら、ブロックチェーンの活用ついて今後の展望を述べる。

ブロックチェーンの提供価値

改めておさらいすると、ブロックチェーンとは改ざん耐性を持つ分散型台帳技術である。分散合意形成アルゴリズムやスマートコントラクトを活用することで、複数の参加組織が同じデータを手元で共有する。これにより、データを集中管理する中央組織に頼らずに、プログラムの実行と結果の共有が可能になる。

ブロックチェーンのエンタープライズ適用では、「Why Blockchain?」に答える必要がある。複数組織をまたがる取引でも、商習慣や取引先との関係により、中央集権的にデータを管理できる場合は、ブロックチェーンを使う必要はない。ブロックチェーンの価値を生かしているかどうかが適用の判断基準になる。

ブロックチェーンの提供価値を捉える視点として、筆者らは、「価値流通型」 「証跡共有型」 「自動執行型」 という3類型を示した。

価値流通型は、トークン化した価値や権利の流通である。Bitcoinをはじめとする暗号資産取引に加え、セキュリティトークンやステーブルコインといった金融分野のユースケースが中心である。

証跡共有型は、データの改ざんが抑止された状態での参加組織間における証跡情報の共同管理である。サプライチェーンにおけるトレーサビリティーなどが代表的なユースケースである。

最後に自動執行型は、関係組織間におけるさまざまな手続きの自動化である。個人や法人が所有する太陽光パネルや風車などの分散型電源と、電力需要者とを直接マッチングさせるP2P(Peer to Peer)電力取引などが代表的なユースケースである。

図1.ブロックチェーンの3類型

図1.ブロックチェーンの3類型

ブロックチェーンの活用は金融分野に始まり、公共、産業、ヘルスケア、電力など幅広い分野へ拡大してきた。最近では、Web3への取り組みも進んでいる。

ここで、今後の発展が期待される3つの方向性を紹介する。

展望(1):NFTのBtoB領域への適用–サプライチェーントレーサビリティー

ブロックチェーンのユースケースとして、非代替性トークン(Non-Fungible Token、NFT)が注目されている。トークンは、モノの所有権やコトの利用権をデジタル化したものである。Non-Fungibleとは、代替不可能であることを意味しており、絵画や音楽のように唯一無二のコンテンツがトークン化される。NFTの代表的なユースケースは、National Basketball Association(NBA)選手のプレー動画をトレーディングカード化した「NBA Top Shot」、プログラムで生成された24×24のドット絵「CryptoPunks」である。希少性のあるNFTはマーケットプレイス上で数百万円から数億円で売買されている。

NFTは価格の高騰で注目されているが、その本質的な価値はコンテンツの出自と来歴を第三者が検証できる点にある。NFTの中身は、コンテンツを特定するユニークなID、所有者、コンテンツへのリンクである。NFTを生成・移転すると、その取引履歴がブロックチェーンに記録される。全ての履歴がブロックチェーンで共有されているので、第三者がそのNFTの発行元と取引経路を検証できる。

NFTで出自と来歴を証明することは、ゲームやアートのような個人向け(BtoC)業務に限らず、サプライチェーン取引のような法人向け(BtoB)業務にも応用できる。企業間で取引されるモノや情報をNFTにひも付けて管理すると、サプライチェーン(供給網)の流れを第三者が検証できる。これが商品に対する安心・安全を高めることになり、付加価値が付く。

具体的なユースケースとして、地方の酒蔵が和食ブームの米国に日本酒を輸出する場合を考えてみよう。酒蔵が日本酒1本ごとにユニークなIDを割り当て、自身を所有者としてNFTを発行し、メタ情報として原材料や製造情報を記録する。酒蔵が日本酒を発送すると、NFTの所有者が物流業者に更新される。さらに、配送時の温度や振動をIoTセンサーで取得して、NFTのメタ情報に記録する。日本酒が税関や船会社のように異なる企業に引き継がれるたびに、NFTの所有者を更新する。日本酒が米国の和食レストランに届いたら、レストランのオーナーがNFTの所有者になる。オーナーがNFTのメタ情報を参照すると、原材料、製造情報、物流経路、品質状態を確認できる。その日本酒が本当に日本から届いていること、また、その品質が保たれていることを顧客に示すことができる。

展望(2):ESGへの適用–サステナブル・ファイナンス・プラットフォーム

ブロックチェーンは社会課題を解決する手段としても期待されている。ブロックチェーンは、企業をまたがってデータを安心・安全に共有する技術である。社会課題の解決には、さまざまなステークホルダー(利害関係者)の連携が必要なため、ブロックチェーンが重要な役割を果たす。

具体的な事例として、日立が取り組んでいる「サステナブル・ファイナンス・プラットフォーム」を紹介する。これは、近年金融業界において注目を浴びている、温室効果ガスの削減など環境問題の解決を促進する環境投資の加速のためのデジタルインフラを目指している。

環境投資の一種で、資金使途を環境改善活動に限定した債券であるグリーンボンドの発行額は、2021年において前年比35%増の6000億ドルに達すると見込まれている。しかし、グリーンボンドは投資家の高い需要に対して発行件数が不足していると言われている。その原因はグリーンボンドの発行体は、毎年、二酸化炭素(CO2)の排出削減量や環境改善効果などのインパクトレポートを提出する必要があり、そのためのモニタリングや外部検証に関する業務負担が大きいことである。また投資家にとっても、インパクトレポートが、実際のCO2排出量の削減効果の測定結果ではなく、机上で計算した理論値を基に作成されることがあり、企業間の比較のための開示情報の画一性や資金使途の透明性に関して課題を抱えている。

そこで、サステナブル・ファイナンス・プラットフォームは、再エネ発電施設から、発電量などの生データを取得しCO2排出削減効果などのインパクトをスマートコントラクトで計算し、ブロックチェーンに記録する。これにより、CO2排出量の削減効果を正確に測定・記録し、発行体のモニタリングや外部検証に関する業務負担を減らすことができる。また投資家は環境投資の効果を正確に把握することができ、安心して環境経営を行うプロジェクトに投資できる。

このプラットフォームは、日本取引所(JPX)が2022年6月に発行した「デジタル・グリーン・トラック・ボンド」の発電量計測、CO2削減量換算に採用され、実証実験を開始している。

図2.サステナブル・ファイナンス・プラットフォーム
図2.サステナブル・ファイナンス・プラットフォーム

展望(3):Web3への展開–BtoCとBtoBの連携

ブロックチェーンの活用先としてWeb3が注目されている。その背景には、個人や企業が関心を共有する世界中の人々と直接つながるデジタルコミュニティーへの期待がある。

Web3のような自己主権型のネットワークでは、顔の見えない相手と安心・安全に取引することが求められる。インターネット上の相手と取引するとき、トラスト(信頼性)がない。これまでは、第三者が取引を仲介することで、トラスト不足を補ってきた。Web3では、ブロックチェーンに蓄積された過去の行動や取引のデータがトラストの源泉になる。取引相手に関わるモノやコトの履歴を分析することで、相手のトラストを可視化できる。

トラスト情報を活用すると、さまざまなBtoCとBtoBのコミュニティーがつながっていくだろう。例えば、古民家の所有者が家を売却するとき、建物が環境配慮素材を利用していることを建設素材コミュニティーで証明する。購入希望者は、その家のメンテナンス履歴を不動産コミュニティーで確認できる。古民家ファンコミュニティーでトークンを発行して、古民家をカフェにリノベーションする資金を調達し、カフェにトークン所有者を招待する。

コミュニティーを横断してデータを利用するとき、それぞれのコミュニティーで記録されたヒトやモノのIDを相互に識別する必要がある。その仕組みとして、分散型ID(Decentralized Identifier、DID)の活用が考えられる。1つのIDをさまざまなサービスで利用することで、ヒトやモノに関する情報の透明性が上がる。また、中央集権的なID発行者に依存することなく、ユーザーが自分自身で、どの情報を誰に提供するかをコントロールできる。

最後に

ブロックチェーンは、個人と企業を安心・安全につなぐ社会インフラになっていくだろう。その実現には、ブロックチェーンネットワークの相互運用性、消費者保護の枠組み、持続可能なコミュニティー運営――などの課題が残されている。これらの課題に対して、さまざまな組織やコミュニティーが解決に取り組んでいる。ブロックチェーンの技術と活用のさらなる進化を期待して、本連載を終える。

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