サマリー:デジタルを活用したシームレスな顧客体験の重要性が高まっている。しかし、デジタル体験を開発する際には、顧客は皆同じだと思い込んだり、ビジネス全体ではなくデジタル体験の改善のみに注力したりという問題も起き… もっと見るている。そこで本稿は、こうした問題点を解説したうえで、大きなチャンスを得るのに役立つ3つのアプローチを提案したい。
顧客のデジタル体験を開発する際
起こりがちな2つの課題
あるオンラインカジュアルゲーム会社は、新しい機能をテストしていた。よくあるA/Bテストで、対象者の半分にはAパターンを、残りの半分はBパターンを見せるものだった。その結果、Aパターンのほうが、そのサイトの重要な要素のコンバージョン率(CVR)を高い信頼性をもって改善することがわかった。
そこでその会社は、全プレーヤーにAパターンを見せるようにした。ところが、すぐに収益が落ち始めた。調査を進めたところ、重要な発見が得られた。カジュアルゲームアプリでは一般的に、課金機能を使うプレーヤーは訪問者の1%にすぎない。そのため、この会社の場合、プレーヤー全体としてはAパターンのほうが評判がよかったが、実際にお金を払うプレーヤーの間ではパターンBのほうがはるかに評判がよかったのだ。
この事例は、企業が顧客のデジタルエンゲージメントを高めようとする時、最も直面しがちな2つの課題を浮き彫りにしている。一つは顧客はみんな同じだと思っていること、もう一つは利益ではなくデジタル体験の改善だけに目が向いていることだ。たしかにAパターンはコンバージョン率を高めたが、この場合、コンバージョン率は利益と結びついていなかった。よく言われる「手術は成功したが、患者は死んだ」の典型だ。
さらにもう一つある課題は、顧客体験にどのように優先順位をつけて注力するか、だ。企業は消費者のデジタルエンゲージメントを高めるための投資を増やしており、新しいアイデアやデバイスの性能向上、人工知能(AI)の絶え間ない進歩によって、改善できることが常にある。これらはすべて、消費者の期待を高めている。何もせずに現状を維持することはありえないが、かと言って、どこに注力すべきで、どうすれば顧客体験に最大の変化をもたらせるかを知るのは容易ではない。
私たちはみんな、消費者として、シームレスな顧客体験の重要性を認識している。そこで本稿では、顧客のデジタル体験を開発する際に起こりがちな問題点を明らかにし、それを正しく理解することで、大きなチャンスを得るのに役立つアプローチを提案したい。
成功する企業は、3つの基本原則に重点を置いている。
・デジタル体験をビジネスのコンテクストに当てはめる。コンバージョン率に注目して、それをデジタル体験の目標と位置づけるのは魅力的かもしれないが、それが成功をもたらすことはめったにない。デジタル体験がいかに利益をもたらすかを理解し、ビジネス面の問題解決に意識を集中することが非常に重要だ。
・顧客はみんな同じではないことを認識する。顧客のデジタル体験を活用して、さまざまな顧客セグメント、特に価値の高い顧客や潜在的に価値の高い顧客ごとにニーズを把握しよう。そのうえで、適切な場合には顧客体験をパーソナライズしよう。
・ゼロベースで判断する。継続的な改善もよい方法だが、基本原則から考えて、自分たちがやっていることと違うやり方がないか、検討して行ってみることも重要だ。そうすることで、デジタルロードマップに優先順位をつけ、最も効果のある施策に注力できるようになる。
デジタル体験をビジネスのコンテクストに当てはめる
デジタル体験は、ファネル(漏斗)と考えることができる。顧客は、何らかの目的があってサイトやアプリにやってくる。それはタクシーの予約かもしれないし、ピザの注文、あるいは靴の購入かもしれない。それがうまくいく人もいれば、うまくいかない人もいる。このプロセスを管理しようとする企業のほとんどは、まずファネルのさまざまな段階を測定する。全体的なコンバージョン率(目的を達成する顧客の割合)は、最終的な成功の指標と見なされがちだ。
しかし、どのようなデジタル体験も、ほとんどの場合、ビジネス全体における一面にすぎない。そのデジタル体験は、ビジネスのあらゆる側面とお互い密接に依存しており、単独で評価したり最適化したりはできない。セール期間中やプロモーション期間中は、コンバージョン率が急上昇することを見ればわかるだろう。スピードアップ、バグ修正、ナビゲーションの改善など、明らかにデジタル体験の個々の要素は改善できるし、この種の改善が悪いことはめったにないが、さらに大きなチャンスを見落とすことにつながりやすい。
あるオンラインアパレル小売業者は、「買い物かごに入れる」割合を向上させるために、さまざまな商品ページをつくってテストしていた。ところが、商品のコンバージョン率を長期的およびさまざまな商品で調べてみると、個々の商品のコンバージョン率を左右するのは、圧倒的にその商品の品質や価格や在庫状況であることがわかった。品質がよく、在庫があり、価格競争力がある商品のコンバージョン率は、平均的な商品のコンバージョン率の10倍にもなっていた。
この企業はすぐに、商品ページのフォーマット改善から、購入体験の改善へと重点を移した。まず顧客に自分のサイズを入力させて、そのサイズで在庫がある商品の一覧が表示されるようにした。またこの小売業者は、「買い物かごに入れる」割合とコンバージョン率の改善を、顧客体験の測定によって強化するようになった。すなわち、顧客が見ている商品の該当サイズに在庫があるかどうかといった、在庫チェックの状況を測定し最適化するほうが、あれこれボタンの色をいじるよりもずっと重要であることがわかったのだ。
別の事例は、実際の機会を見つけることの難しさを教えてくれる。あるフードデリバリー会社は、顧客満足度を高めるために、配達予定時間の表示を最適化しようとした。ところが、不満を持つ顧客の話を聞いたところ、問題はメッセージの表示方法ではなく、さらに細かな部分であることがわかった。すなわち、注文から配達までの間に配達予定時間が何度も変わることに不満の原因があったのだ。配達予定時刻が数分おきに更新されることは「(顧客の)役に立つ」と思われていたが、実のところ大きな不満を生み出していた。
しかも、デリバリー会社は、注文時刻と配達時刻しか記録していなかったため、この問題をなかなか把握できなかった。その会社は、顧客の不満の根本原因はデジタル体験ではなく、配達時刻を予測するアルゴリズムにあることに気がつき、改善した。
こうした事例は、「デジタル」の要素を、ビジネスの他の部分との相互作用から切り離す必要性を示している。デジタル体験の失敗と見なされているものは、実際、デジタル体験とは無関係の、全体的なビジネス課題の一つの症状であることが多いのだ。この落とし穴は、デジタルが他の部門から切り離され、独立した部門になった時、特によく見られる。デジタル体験は、組織のサイロを超えて生じるのだ。
顧客はみんな同じではない
あるホテルチェーンは、グーグル検索からホームページにやってくるユーザーの直帰率(最初の1ページで離脱してしまう割合)を課題と見なした。そこでまず、デジタル主導の解決策として、レイアウトが異なるランディングページを2つ用意して、A/Bテストを実施した。すると、総合的な直帰率に与える影響は、プラスとはいえ比較的わずかだった。
さらなるデータ分析を進めると、興味深いインサイトが得られた。直帰率は顧客のデバイスと、検索の特異性に左右されていたのだ。たとえば、デスクトップPCで「ジュネーブ周辺のホテル」と検索した人は、ジュネーブ近郊のホテルがすべて見られる半径の大きな地図が表示されることを好んだ。しかしモバイル端末で、「ジュネーブ空港周辺のホテル」と検索した人は、さらに狭い範囲の空港周辺のホテルだけを見たがった。つまり、問題はランディングページのデザインではなく、検索の特異性に基づき表示される地図の範囲をパーソナライズすることだったのだ。実際それを実行すると、直帰率と業績の両方に劇的なインパクトがあった。
顧客体験をパーソナライズするということは、価値の高い顧客や、潜在的に価値の高い顧客にとって何が重要かを理解することでもある。前述のアパレル小売業者は、顧客タイプ別に商品の在庫状況を分析したところ、最も価値の高い顧客が最悪の在庫状況に直面していることがわかった。
さらに詳しく調べると、価値の高い顧客は通常、小さめか大きめのサイズを探していた。この業者はそれまで、昔ながらの経験則に基づき在庫のサイズ比率を決めており、新しいeコマースの現実に適応していなかった。
冒頭の事例で示した通り、A/Bテストは絶対的な基準と考えられているが、複雑で誤解されることが非常に多い。決定的な課題は、結果だけで行動を起こしてしまうことだ。デバイスやブラウザー、顧客、マーケティングソースなど細部まで分析した時に初めて、テストの結果を理解して、AパターンとBパターンのどちらかを選ぶべきか、それともパーソナライズすることなのかが、上述のホテルのようにわかる。単純化しすぎると、機会を逃すことになるか、最悪の場合には大きな無駄を生み出すことになる。テストは、けっして簡単ではない。
ゼロベースで判断する
会社がチームに、デジタル体験の継続的な改善に注力させることはよくある。ゼロベースのマインドセットを持って、問題を新たに見つめ直そうとするチームはあまりない。しかし、基本的な法則に基づき自分たちの優先順位や行動を定期的に見直す企業は、よりよい意思決定を下すことができる。
ある小売業者は、自社サイト内のさまざまな場所でクロスセルやアップセルを展開する「商品おすすめシステム」を構築した。そのアルゴリズムは、「買い物かごに入れる」率とコンバージョン率の最適化を意図していた。新しいアルゴリズムが稼働すると、彼らはその結果に大喜びした。それまでのおすすめシステムよりもはるかに優れたパフォーマンスを発揮したからだ。
しかし、この会社は、額面通りの成功に疑問を投げかけた。そこで、さらなる分析を進めると、それまではわからなかったことが見えてきた。すべての商品と在庫を含めて考えると、実際におすすめされた商品は棚卸評価額の約12%にすぎなかったのだ。そのおすすめアルゴリズムは、ベストセラー商品を薦めることに注力していた。しかし、ベストセラー商品はいずれにしろ売り切れるが、仕入れ過剰品や新商品などの売れにくい商品は、おすすめしにくくなっていた。おすすめ機能を最適化するために使われた尺度は、セルスルー(小売店で消費者に販売すること)や粗利益、在庫効率といった業績目標と一致していなかったのだ。
すべてを合わせて考える
デジタル主導のビジネスは、チャンスにあふれている。トップ100のアイデアを見つけるのは簡単だが、トップ10に絞り込むのは難しい。どこに焦点を当てるかは、大きな経営課題であり、その中核には分析面の課題がある。正しい分析結果を得るには、何を測定すればよいのか、どのデジタル目標を最適化すればよいのか。デジタル体験とビジネスの他の部分との相互関連性をどのように理解すればよいのか。本稿で紹介してきた事例が示すように、その分析に近道があることはほとんどない。
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