企業のDEIBの取り組みは従業員のニーズを満たしていない – オンライン

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サマリー:本稿では、DEIB(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン、ビロンギング)に対する企業の取り組みについて、調査をもとに課題を明らかにする。筆者らが属するギャラップでは、人事リーダーと従業員に対してDE… もっと見るIBの認識について調査を行った。その結果、人事リーダーと従業員の認識に隔たりがある部分が判明した。主な隔たりを10項目挙げ、従業員のどのようなニーズを満たすことが必要かを明らかにした。

企業と従業員のDEIBに対する認識の不一致はどこにあるのか

多くの理事会やエグゼクティブ、リーダーらは自社のDEIB、すなわちダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公正性)、インクルージョン(包摂)、ビロンギング(帰属意識)への取り組みに危機感を覚えている。従業員のためにしかるべき対処をしたいと願い、同時に投資家や規制当局、顧客からのプレッシャーも感じている。

ギャラップの最近の調査によると、最高人事責任者の84%は自社のDEIBへの投資が増えていると答えている。2022年春に実施した調査によると、対象となった大企業の最高人事責任者122人は、組織システムの変更から現場レベルでのマネジャーのためのメンター制度まで、あらゆることを実行していた。DEIに焦点を当てた従業員リソースグループ(77%)や分析チーム(46%)、情報収集の拠点(37%)を活用し、また多くの最高人事責任者が、マネジャーのためのDEIBに特化した研修(73%)や、無意識の偏見に気づくための訓練(85%)、雇用と昇進(62%)、メンタリングおよびスポンサーシップのプログラム(57%)に取り組んでいた。

ところが、従業員に質問してみると、大半の人はDEIBのニーズが満たされていないと感じていた。これが、同じく2022年春にギャラップが実施した別の最新調査での重要な発見だった。DEIBに対する従業員の認識についての質問で、たとえば自社が職場における人種に関する公正や平等の改善に積極的に取り組んでいると答えた人は31%に留まった。職場で人種やエクイティの問題がオープンに話し合われていると答えた人はさらに少なかった(25%)。ダイバーシティとインクルージョンの研修に参加した人は37%で、このテーマによるタウンホールミーティングに参加した人は30%だった。

2つの調査結果を並べてみると、自社の取り組みの進展について、人事リーダーと従業員とでは認識に大きな開きがあることが明白である。

ここから前進するためには、リーダーは従業員のDEIBのニーズを理解し、どこに相互の不一致があるのかを把握しなければならない。以下では、調査結果を説明しながら、この流れを変えるために、リーダーがどのような対策を取れるのかをアドバイスしたい。

従業員のDEIBのニーズが満たされていない10項目

1. 雇用者はDEIBが改善していると主張するが、従業員の目には意味ある進展とは映っていない

今回の調査では、人事リーダーの97%が自社のDEIはよい方向に変化したと答えている。だが残念ながら、自分の職場でDEIがよい方向に変化したということに強く同意する従業員は、わずか37%である。困ったことに、さらに34%の従業員が、リーダーがDEIを改善しようとしているのかどうか「わからない」と答えている。

2. 従業員はいまなお、職場での差別を報告している

まったく差別を経験しない人はいないとはいえ、リーダーは従業員よりも差別を経験する可能性が低い。約10人に2人(16%)の従業員が過去12カ月の間に差別を経験しているのに対し、同じ経験を報告する人事リーダーはわずか5%にすぎない。

3. 従業員は昇進に対する平等な機会を望んでいる

キャリア形成と能力開発について公正で公平な機会を提供することは、多様性のある包摂的な職場文化を形成するカギとなる。従業員はみんな、同僚と同じ機会が与えられることを望んでいる。

ギャラップのデータによると、自分に社内のすべての人と同じ昇進の機会があると思っている従業員は、33%に留まっている。またそう思っている人事リーダーは、さらに少なく21%である。

4.自分の職場を「公正」だと思う従業員や人事リーダーは少ない

自分が会社で公正に扱われているということに強く同意する従業員は、30%にすぎない。従業員が公正に扱われていると思う人事リーダーも、やはり30%に留まっている。

5. 従業員は、敬意を払われていると感じていない

敬意を持って扱われることは、従業員の基本的なニーズであり、当たり前に期待することである。だが残念ながら、従業員はリーダーが思うほど、敬意を払われていると感じていない。人事リーダーの60%が、従業員は職場で敬意を払われていると答えるのに対し、敬意を払われていると感じる従業員は44%にすぎない。さらにギャラップの調査によると、敬意を払われているとは感じないと答えた従業員の90%は、職場で何らかの形で差別を経験している。

6. 従業員は、マネジャーに強みを認めてもらいたいと思っている

リーダーが一人ひとりの従業員の独自の強みを素晴らしいものとして認めることは、多様性のある公正で包摂的な職場環境の基盤となる。

これはリーダーにとって、大きなチャンスがある重要な領域である。リーダーはしばしば、自分は従業員が感じるよりも、はるかに彼らの強みにしっかりと注目していると考えているからだ。ただ、人事リーダーのほぼ半数(44%)が、自分は一人ひとりの従業員の強みの形成に積極的に取り組んでいるというのに対し、それに同意する従業員は29%に留まっている。

7. 従業員は、自社がしかるべき対処をすると確信していない

会社が必ず倫理的に振る舞うと自信を持っているのはもっぱらリーダーで、従業員の認識との間には著しい開きがある。ほとんどの人事リーダー(86%)が、もし倫理や誠実さへの懸念が提起されたら、会社はしかるべく対処すると確信しているのに対し、同じように考える従業員は35%に留まっている。

8. 従業員は、職場で気兼ねなく本来の自分でありたいと思っている

ビロンギング(帰属意識)の文化とは、誰もがありのままの自分でいられると感じる文化である。これが強みである職場は少なくない。従業員の41%は、職場で気兼ねなく本当の自分でいられると感じている。一方、自社の従業員が職場で気兼ねなく本当の自分でいられると感じている人事リーダーは、27%のみである。

9. 従業員は、マネジャーが快くDEIBについての話し合いに応じてくれることを望んでいる

マネジャーが自信を持ってDEIについて話し合えるかという点については、改善の余地があると従業員もマネジャーも考えている。過去12カ月間で、マネジャーとDEIBについて話し合ったことがあると答えた従業員は39%にすぎない。この数字は、DEIBに関して話し合う準備ができていると答えたマネジャーが41%であることと合致する。

だが人事リーダーの中で、自社のマネジャーにはDEIBの問題を話し合う準備ができていると答えた人はわずか8%である。ギャラップのデータによると、過去12カ月間でDEIBをテーマとするリスニングセッションやタウンホールミーティング、全社規模の集会に出席したマネジャーの場合、話し合う準備があると強く同意した数は倍以上になった。

10. 従業員は、経営者が「従業員のウェルビーイングを大切にしている」と思っていない

自社が従業員のウェルビーイングを大切にしていると答えた従業員は24%に留まったのに対し、そのように答えた人事リーダーは65%に上る。

リーダーはどうすればこのギャップに対処できるか

もし従業員が、DEIに関する現在の自社の取り組みに効果がないと感じているならば、それを反転させるのにリーダーはどうすればよいのだろうか。DEIを向上させる前にリーダーはまず、従業員のニーズと実体験を理解する必要がある。

残念なことに、リーダーが最善を尽くして従業員の声に耳を傾けているとはいえない。調査では、DEIB関連のテーマを含むESG(環境、社会、ガバナンス)の問題で、従業員の声を取り入れていると答えた最高人事責任者は40%に留まった。さらに、さまざまな従業員集団の体験とまとめた「ジャーニーマップ」を作成したリーダーは、わずか9%である。

改善のためにリーダーは、従業員の実際の体験について対話を始めなければならない。そのために、以下の10の戦略が役に立つだろう。

ダイバーシティの死角を明らかにする

有能なリーダーは一貫性を持って頻繁にDEIBの取り組みについての最新情報を伝える。リーダーにとって進捗状況は明白かもしれないが、従業員には変化を示す必要がある。DEIBの試みについて、活動や目標、進捗状況などを定期的に話し合おう。その後、パルス調査や他の情報収集の拠点を活用して、従業員が各種の試みやそれによって期待される変化を認識しているどうかを追跡するとよい。

マネジャーとの明確なコミュニケーションは、とりわけ重要である。マネジャーは、会社がDEIBに積極的に取り組んでいることを感じると、このテーマについてチームと話し合う準備ができていると感じる傾向がある。

職場がどのように差別に対処するかを明確にする

差別の通報を促すためにリーダーは、従業員の懸念を重視していることや、苦情に対処する手続き、秘密保持のための手段を伝える必要がある。

不公平の原因を発見し、進捗状況を追跡する

自社の文化や手続きの公平性を評価する。昇進率や給与の格差、能力開発の格差などの主要なエクイティの問題を、外部のベストプラクティスに照らし合わせて評価するとよい。エクイティの問題についての従業員の認識を評価し、何が効果的で、何がそうでないかを把握し、マネジャーにその改善を任じよう。

採用と昇進の手続きの公正性を高める手段を講じる

求人応募の匿名化、面接の質問の標準化、面接官集団の多様性確保などのベストプラクティスに従う。職務記述書では、その仕事をするのに必要なスキルに焦点を当て、包括的言語(人種・ジェンダーなどの特定グループを除外する可能性のある表現を使わない言語)を用いよう。

信頼感の隔たりを見つけ出す

倫理的問題について懸念の声を上げても職場はしかるべき対処をしないのではないかと従業員が考えるような、従業員の信頼の最も低い領域を突き止めよう。従業員の側からどう訴えると適切なのか、その例を伝えると同時に、会社側は必ずしかるべき対処をすると明快に伝えるとよい。

従業員が強みを伸ばせるように支援する

従業員の能力開発プログラムに、強みに基づく開発を組み込む。マネジャーに対しては、部下を矯正するのではなく育てることを教えよう。

社内で自分は敬意を払われていると感じている人とそうでない人を見極める

従業員エンゲージメント調査やインクルージョンの質問インデックスなど、実績ある指標を利用して、敬意についての認知の隔たりを突き止める。社内で長期的な比較をしたり、競合他社を基準にして測定したりしてもよい。外部のベンチマークを利用し、特に社内の最優秀チームと最も成績の悪いチームの違いに注目する。

マネジャーのインクルージョンのスキルを向上させる

現場で信頼と敬意のある関係をチームとともにつくり上げられるよう、マネジャーを訓練し、育成する。有能なマネジャーは一人ひとりの従業員の独自の強みに注目するが、それがうまくできるようになるためにはマネジャーにも適切な学習機会が必要である。

マネジャーがDEIBについて話し合えるように訓練する

実績あるマネジャー育成プログラムに投資したら、そのプログラムに参加するマネジャーには成功するスキルがあると信じて待とう。マネジャーの能力に対して否定的な感情をリーダーであるあなたが抱くと、マネジャーたちは萎縮し、チームと会話しようとしなくなるかもしれない。そのような事態は避けたい。

マネジャーに従業員のウェルビーイングを定期的にチェックさせる

マネジャーは、リーダーが従業員のウェルビーイングを大切にしていることを自身の方法で責任を持って現場に伝える。すでにチームと交わしているはずの日常的な会話を通して、ウェルビーイングについて一貫性を持って話し合うように、マネジャーを教育しよう。

結論

DEIBを純粋に大切に思うリーダーでも、無数のリソースを無駄にし、持続的な変化の好機をみすみす逃すことがある。だが幸い、リーダーが従業員との対話を継続することにより、DEIBの取り組みは効果を発揮する。対話の際は、従業員の認識と実体験や、そうした懸念に対処するためにリーダーが起こしている変化について伝えるとよい。

DEIBの取り組みでは、マネジャーが決定的な役割を担うということを覚えておこう。マネジャーはDEIBの最新情報を従業員に伝えることから、重要なタイミングで従業員のウェルビーイングのニーズを聞き出すことまで、多くの役割を果たす。マネジャーの育成に投資することは、マネジャーが成功するための下準備になる。

DEIBに関して、完璧な職場などない。しかし、最も成果を上げている職場には共通点がある。まだ理解できない、あるいは見えていない問題を解決しようとする前に、まず従業員の声に耳を傾け、自分自身の世界観に囚われないものの見方をするのである。

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